第80話 あっくんごっこ

フィーリーアは目の前のクドウとユリウスを純粋に称賛していた。



(手加減したとはいえ、私の攻撃を防ぎ切るとは)



フィーリーアは自他ともに認める正真正銘の絶対強者だ。


それだというのに、目の前のクドウとユリウスはフィーリーアの第1級魔法を完全に防ぎ、更には反撃までしてきた。


怒りに塗れていたはずのフィーリーアだったが、少しクドウとユリウスに僅かな興味を抱き始めていた。


だが、フィーリーアの怒りを抑えさせていたのはそれだけではなく、既視感だった。



(……なんだ、この感じは。以前にも感じたような……。何だ?)



確かな違和感を感じていたが、フィーリーアはそれが何かを掴めずにいた。


フィーリーアが考え事をしている最中にも目の前の2人はなにやら言い合いを続けている。


そして話がついたのかクドウはフィーリーアに向かって叫んだ。



「ちょっとタンマ! 死ぬ! マジで死ぬから!」



何を見当違いな事を言っているのか。——とフィーリーアは思った。


フィーリーアは消し飛ばすつもりで魔法を放っているのだから、死んだとしてもなにもおかしなことはない。


あえて言うならユリウスとクドウがまだ生きている事が想定外である。



「遺言は済んだようだな」



「ちょっと待つがいい! こいつを殺せば人間界防衛に多大な影響が出るぞ! ギー君とやらは人間界を守っていたのだろう? よいのか? それで!」



ユリウスが俺をダシにフィーリーアに攻撃を止めるように求める。


ユリウスの言う通り俺が死ねば、人間界防衛はかなり難しくなってくるだろう。


アリアスとシステアは確かに強い。


並の魔人なら複数体相手にしても物ともしなかったほどだ。


恐らく、初代勇者パーティーを除けば歴代最強パーティーだと考えて間違いないだろう。


加えてアルジールもいる。


ガランとニアの戦闘力は不明だがあの3人がいればそれなりに魔王軍とも渡り合えるはずだ。


だが、残る四天王が同時に出てくれば人間界側に勝ち目はかなり薄くなる。


アルジールは元四天王筆頭だが、今は人間なのだ。


恐らく四天王と1対1になれば勝ち目は薄い。



(ていうかそもそもアイツは俺が死んだら魔人達と一緒に人間界を攻めてくるんじゃないか?)



ありえる。というかそんな未来しか見えない。


クドウがいなければ四六時中「征服ですね?」とか言っていたキチガイだ。


妹と共に簡単に魔界側に寝返りそうである。


そんな事を呑気に考えていたクドウをよそにフィーリーアはユリウスの問いに冷たい視線で答えた。



「私が人間界を守っていたのはギー君に言われたからだ。ギー君がいないこの世界の事などもうどうでもよい」



「ちょ、待つんだ、ギー君があの世で悲しむぞ」



「黙れ、貴様が殺したのだろうが! さっさと消し飛べ!」



目の前のユリウスの醜い抵抗にフィーリーアは怒り、クドウは頭が痛くなってくる。



ていうかギー君がユリウスに殺されるわけがないし、そもそもギー君は俺なのだ。



「さて……」



そろそろどうにかしないといい加減やばそうだ。


フィーリーアの先程の攻撃は多分だが全力ではない。


さっきはギリギリ防げたが、次は恐らくもっと全力の攻撃が来る。


流石にやばいので俺は遂に切り札を切る事にした。



「我が名は孤高の魔剣士あっくん! 我に仇なす敵よ! 我が剣技で狂い咲くがよい!」



俺はそう言ってババンと決めポーズを決めに決め切った。


大人気アニメ魔剣士あっくんの登場シーンの決めポーズである。


それを横で眺めていたユリウスは俺がふざけたと思ったらしく、一瞬呆然とした後、俺に抗議してきた。



「……ちょ、おいっ、ふざけている場合か? お前はギー君だろ!」



俺に文句を言った後、ユリウスはフィーリーアの様子を窺った。


フィーリーアは俺の決めポーズに感動したのかプルプルと巨大な体を震わせている。



「めちゃくちゃキレてるではないか、どうするのだ!? 貴様は竜を煽る天才だな! どうするのだ!?」



ユリウスは焦っているのか「どうするのだ!?」を連呼している。


だが、恐らくもう心配はいらないだろう。


これで終戦である。——そのはずだ。


正直これでダメならもうどうしようもない。



大丈夫だよね?



覚えていてくれているよね?



昔、散々やったよね?——魔剣士あっくんごっこ。



「ぐぉぉぉぉぉー!!」



フィーリーアは凄まじい咆哮を上げ、空に向かって竜星砲を放った。



(……あれ? ダメっぽい?)



だが、フィーリーアの荒ぶりようにクドウが諦めかけたその時だった。



「うわぁーん! ギィーくぅぅぅぅん——!!」



巨竜の目から涙が滝のように溢れ出したのだった。

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