第55話 だからそう言ったじゃん

「御託はいいからさっさとかかってこい、お前で最後なんだ」



そう言うと、ゾデュスは怒りを抑えつつ俺に聞き返してきた。



「……なんだと?」



「だからさっさとかかってこいって言ったんだけど」



ゾデュスは魔人なので耳は悪くないはずだ。俺も活舌は良い方だからちゃんと聞こえたはずなんだが。



「俺で最後と言ったのか?」



あー、そっちね。まぁどっちでもかまわんのだけども。



「外の2人も終わったみたいだし、正真正銘お前で最後だな。あっちはどうか知らないけど」



あっちというのは、アリアス、アルジールの現勇者とイケメン率いるチーム華やかの事である。


E級冒険者とF級冒険者、そしてちみっこいA級魔法使いの魔法使いと見た目肩書は地味だが、こっちは実力派だ。


別にひがんでなどないのだ。決して。



「ははは、つまらん冗談だ。貴様みたいな人間に魔人が? 9人もやられたと?」



ゾデュスは笑い声を上げているが本人は気づいているのだろうか?


汗が凄いぞ。


ちなみに俺が倒したのは7体だ。他の2体はアルメイヤとシステアによって撃退されている。


システアさんやっぱ強かったんだなと思いつつ、俺はゾデュスを眺める。



(あんま強そうに見えないが、メイヤはこれに勝てないのか。要特訓だな)



転生直後だから仕方ないと言えば仕方ないのだが、俺のパーティーの戦闘要員をこなすのならばそれなりの実力は欲しい。


戦闘力以外に何かスキルがあればとも思うがアレは脳筋だ。それならば戦闘力を期待する他ないのだ。



「俺が倒したのは7体だぞ。他2体は外の2人が倒したみたいだな」



そう言ってもゾデュスは一向に信じようとしない。


突然怒り出したり笑いだしたりそんな事の繰り返しだ。忙しい奴である。


まぁ別にこのまま倒してしまっても構わないのだが、他の魔人を引き付けておく必要もなくなったので、俺はミラージュミストを解除することにした。


徐々に視界が晴れてきたを見てゾデュスは何を勘違いしたのか叫び始めた。



「魔法の維持も困難になってきたようだな! 身の丈に合わぬ魔法を使うからだ!」



だが、そんなゾデュスの威勢も強さもミラージュミストが完全解除されると一変する。



「なんだと! なぜ俺の部下達が倒れている」



霧が晴れ、地に伏している魔人達。今この場に立っているのは俺、システア、アルメイヤ、そしてゾデュスのみだったのだ。



「いや、だからそう言ったじゃん」



突然霧の中から出現した俺を見て、システアが驚きの表情を浮かべながら俺に言う。



「心配していたのですが、まさかこんな短時間で魔人8体を倒してしまうなんて……」



「あ、いやまだ7体。まぁもう終わりますけどね」



もう全ての魔人を倒してしまっていると思っているシステアにもうすぐ終わると言っている俺。


そんな俺達を見てゾデュスは怒りに燃えつつも冷静に現状を分析していたのか突然。



「ガデュスぅぅぅー!!!」



大声を上げた。実際の声と魔法による思念波を織り交ぜた絶叫だった。


恐らくだが、助けを呼んだのだろう。


アリアス達の方に向かった弟ガデュスと9体の魔人を呼ぶために。


しかし、いくら待っても返答が返ってこない。


あれだけの思念波を織り交ぜた絶叫だ。1km前後しか離れていない相手に聞こえていないわけがない。



「くそっ! なぜだ! なぜ何も返答がない!」



多分、戦闘中で余裕がないか既にやられちゃっているパターンのどちらかだろう。


もしかしたら俺は時間をかけすぎてしまったのかもしれない。



「弟君の方だけどな、勇者様とイカれたE級冒険者が行ってるぞ。あとA級冒険者2人が」



なぜかA級冒険者のガランとニアがついで扱いだが、実際問題俺の認識はそんな感じだ。


別にあの2人が弱いと言っているわけではない。恐らくだが、アルメイヤとでもいい勝負程度には強いと俺は思っている。



「なんだと! 勇者が来ているのか! ていうかなぜB級やC級ではなくいきなりE級冒険者なのだ!」



そんなの知らん。文句はE級冒険者である俺達を最前線に連れてきたそこのシステアにでも言ってくれ。



「残念だったな、弟君は俺よりも遥かに強いS級冒険者で勇者のアリアス様がお相手中だ。君たちの命運もこれまで。チェックメイトだ。人間界侵攻なんて不可能だと魔界でふんぞり返っているブリガンティス君にでも伝えてくれ。……あ、無理か。お前らここでやられちゃうもんな」




「貴様ぁぁぁ! ブリガンティス様を侮辱するか!?」



四天王ブリガンティスの名も使って俺はゾデュスをディスりまくった。どうやら効果は抜群だったようだ。


ゾデュスが俺に向かってきたその時だった。


凄まじい勢いで何かが俺とゾデュスの間に吹き飛んできた。


計算つくされたかのように俺とゾデュスの中間地点で制止したものはゾデュスの弟でブリガンティス軍部隊長ガデュスだった。

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