第51話 トレード

俺達は朝食を済ませた後、全員で料理や天幕の後片付けをした。


その間にシステアはギランディー達にも魔人達の事を知らせる為に通話魔法で連絡を行っていた。



「それでは飛びますが、準備はいいですか?」



システアは俺達や勇者パーティーに最後の確認をする。


相手は1体で一騎当千たる魔人。それが20体ほどだ。


それに対してこちらは7人。単純計算で1人で3体を相手にしなければならない計算となる。


普通に考えれば単なる自殺行為である。


本来であれば、魔人一体でも複数の上位冒険者で当たらなければならない相手だ。


それでも確実に勝利できる保証などどこにもないのだ。


まぁ普通の冒険者の考え方としてはだけどね。



(ただの苦行だと思ってたが、意外と面白くなってきたな。案外システアの言う通り勇者も視野に入ってきたか?)



今回の作戦を冒険者協会の依頼に換算するとAランク任務どころか完全にSランク任務である。


もう1つ上のランクがあるとしたら完全にそっちになるだろう。魔人一体を倒すだけでも十分Sランク依頼に匹敵するのだから。



「その前にちょっといいですか?」



「なんでしょう?」



「多分なんですけど、20体の魔人の中に明らかに強い個体が2体ほど混じっています。多分幹部クラスです。四天王ではないでしょうが、……軍団長か部隊長クラスだと思います」



「本当ですか!」



部隊長はともかく軍団長は四天王の下に1人しか就かないいわば大物である。


アルジール軍の軍団長であるアルメイヤはここにいるので他の3人の誰かだろう。


アルレイラ軍が出てくるとは思えないのでブリガンティス軍かミッキー軍。まぁ普通に考えたらブリガンティス軍だろう。


あいつら勝手に何度も人間界侵攻しようとしてたし。



(ということは……今は誰が軍団長やってたっけ? あいつらやたら問題起こすから人事異動多すぎるんだよな)



ブリガンティス軍は層の厚さは魔王軍でも屈指だった。


軍団長が問題を起こすたびに何度も交代させたので、クドウが魔王就任中に何度変えたかクドウ自身覚えていないほどだ。


部隊長に至ってはそもそも最初から名前など憶えていない。



「多分ですけどね。それでその2体は部隊を2つに分けて行動しています。こちらも2パーティーに分けてはどうでしょう?」



「凄いですね、そんな事まで分かるとは……。では私がクドウさん達のパーティーに入りましょう。回復役は必要でしょう」



うーん、必要ないのだが。



俺達はヒーラー無しの脳筋パーティーだと思われているようだが、俺とアルジールは普通に回復魔法くらい使える。アルメイヤはどうかは知らないが。


そもそも、システアがこっちに来たら明らかに戦力が偏りすぎだろう。


まぁ軍団長っぽい方は俺達が相手をするとしても、勇者パーティー側に1人くらい足した方がいい気はする。



「じゃあアールをアリアスさんの隊につけましょうか」



これでアリアスのパーティーがアリアス、ガラン、ニア、アルジール。こっちが俺、システア、アルメイヤ。


まぁ俺としてはこっちに俺一人でアリアスのパーティーに他全員でも一向に構わないのだが、流石に受け入れてくれないだろう。



「大丈夫ですか? システアさんがいるとはいえ3人になってしまいますが」



 アリアスが不安そうに言う。



 「大丈夫です、システアさんがいますし」



  俺が笑顔でそんなことを言うとシステアはなぜか赤面している。照れるポイントが俺にはよく分からない。



「アールもそれでいいか?」



「クドウ様と離れるのは心苦しいですが、クドウ様ならば軍団長程度ひとひねりでしょう。私は私で木っ端魔人の相手をすることに致します」



「木っ端魔人て。やっぱすげぇッスね。アールさんは」



「ガランよ、そう褒めるな。何も出んぞ」



いや、だから褒めてないって。あ、いや、これは褒めてるのか。まぁどっちでもいいか。



「えっと、では決まったようですしそろそろ行きましょうか」



謎の照れから回復したシステアは確認を取ると、全員が頷いた。


そして、システアは転移門を発動させたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る