第50話 うん。魔人だね。
俺達の朝は早かった。
東へただ移動するだけなら、遅くに起きてシステアの転移門で転移すればいいだけの話なのだが、俺達の目的はただ東へ向かうだけでなく、魔人やアルジールの捜索が一番のメインなのだ。
そう、一応というか名目上というかだけどな。
勇者パーティーの面々からしたらガチなんだろうが、俺からしてみればただの茶番なのである。
「おはようございます」
「おはようッス、クドウさん」
俺が天幕から出ると既にガランは焚火で昨日のポトフみたいな料理を温めている最中だった。
ホントいいやつ。
アルジールが気に入ったのも納得である。
これで友達になれないようならあいつは一生孤独に過ごすことになったに違いない。
ガランはそれほどまでの男なのだ。
「3人は?」
「まだ寝てるっスよ、そろそろ起こすッスけど」
そう言ってガランは天幕へ向かうと、中からゾロゾロと勇者パーティーの面々が出てきた。
そんな気配を察したのかアルジールとアルメイヤも天幕から出てくる。
全員が一通り挨拶を済ますとガランが温めていた朝食をみんなに配った。
すると朝食を食べながらシステアは俺に話しかけてきた。
「クドウさん、ギランディー達の方ですが、昨日の時点では何も異常がなかったみたいです」
でしょうね。
C級以上だけの冒険者達20人弱、しかもA級冒険者のギランディーまでいる集団に問題が起きるような事態はそうそう起こらないだろう。
魔人が来るならともかくね。
「それはなによりです」
「それにしてもおかしいですね。魔人アルジールはおろか魔人の一体も姿を見せないとは。もしかして魔人アルジールが既に追い返してしまったのでしょうか?」
「そうかもしれませんね」
「ですが、安心するのはまだ早いですね。まだまだ油断はできないです」
「そうですねー」
安心していいですよ。魔人なんかいませんから。
俺がそう思ったその時だ。
「んん? あれぇ?」
なにかが俺の警戒網にひっかかった。気のせいか?
「クドウさん、どうされました?」
心配そうにシステアが俺の事を見つめてくるが、一応俺は更に意識を集中させ、付近の様子を探った。
(あれ? おかしいな。これって魔人だよな? しかも複数? ていうか結構いっぱいいないか? これ)
いないはずの魔人の気配を俺は確かに察知していた。しかも、この感じは明らかに魔界と人間界の境を越え、人間界に侵入している。
「アールぅ」
「なんでしょうか? クドウ様」
「なんか変な感じしないか?」
とりあえず俺はアルジールに聞いてみた。
特にアルジールは魔力の探知に秀でているというわけではないが、それでも並の魔人よりかは優れているだろう。
「えーっと、……特に何も感じませんがどうかされましたか?」
まぁこの感じだと大分離れているしな。
転生して俺のセンサーが馬鹿になっている可能性もなくはないが……。
「システアさん、もしかしたら勘違いかもしれませんが、魔人です。多分20体ほどで距離は200キロほど東ですが人間界に侵入しています」
「えっ、200キロ? 20体?」
システアは俺の言った言葉に驚いている。どうやらシステアでも200キロ離れた魔人は探知できないらしい。
システアはニアやアリアスにも尋ねたが、やはりまったく探知できていないようである。
「そんなに離れた位置の魔人をそこまで正確に探知できるのですか? 私にはせいぜい10キロが限界なのですが」
「……えっ、あ、探知が結構得意なんです。俺」
あ、そんなもんなのね。
俺は別に魔力探知が得意というわけではない。魔力探知だけでいえば転生前の俺よりもユリウスの方が上だったくらいだ。ユリウスは集中すれば魔界と人間界全体の魔力探知でも可能だと言っていた。
「ガラン! そういう訳なので、片づけを急いで——」
「あ、ガランさん、別にゆっくりでいいですよ」
「いや、しかし……」
システアはガランに料理の片づけを急かせるように言うが、まだそんなに急がなければいけないほどの距離でもないだろう。
あ、そういえば魔人アルジールが侵攻を食い止めてるって設定だったか。
「戦闘中ではなくただ移動しているだけですね。一定の速度でこちらに向かってきているようです。あとその中に魔人アルジールはいないと思います。多分」
多分ではない絶対だ。既にアルジールはここにいるのだから。
「そうですか。では朝食が終わり次第、ギランディーに連絡して現地へ飛びましょう」
そうして俺達は再び朝食へとありつき始めたのだった。
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