第39話 システアという魔法使い

俺達は突然システアという名の魔法使いに絡まれた。


こちらも勇者パーティーの事を遠巻きに話していたので人の事は言えないのだが、システアという魔女は俺と目が合った途端、こちらの事を見ながらなにやらボソボソと話した後、ギルドマスターがこちらにやってきて俺達は注意を受けた。


C級以下の冒険者は呼んでいないから帰れ。——といったものだ。


C級冒険者以上の者だけに聞こえる声とやらが聞こえたからここに来ていたわけだが、確かにE級冒険者でしかない俺達は呼ばれていないといえば呼ばれていないわけで帰れと言われれば帰るしかない。


まぁ適当なB級冒険者でも煽ってボコれば参加が認められる可能性もあったが、そこまでする必要もないわけだし。


俺としては応援を求められれば助ける——そんなスタンスでここに来たことだし、アルジールがブチ切れる前に帰ろうかとした時に「何をやっておるんじゃ!」と叫びながらシステアはこちらにやってきた。


俺としては——いやいや、帰れと言われたから帰るんですけど? としか言いようがない。


アルジールとアルメイヤもいつブチ切れるか分からないので、さっさと退散しようかと思ったその時、システアはギルドマスターに叱責した。


システアがギルドマスターをけしかけたように見えたが、ギルドマスターの勇み足だったようだ。


それから俺達はシステアに自己紹介を求められ、俺達3人の出会いについて尋ねられた。


設定である3人は幼馴染ということをシステアに伝えたが、……なんかバレてる臭い。


出身の村を訪ねられたらどうしようもなかったが、聞かれる事はなかった。


人間のパーティーなのに魔王などというふざけたパーティー名なのもあまりつつかれなかったしどうやら気を使われている感じだ。


人間の最高峰である勇者パーティーの魔法使いが実力はともかく本来この場に呼ばれる事すらないE級冒険者パーティーの俺達に気を使う理由などただ一つしかない。



(……実力バレてんな)



全てが全てというわけではないだろうが、あの気の使いようだと最低A級冒険者クラスには思われてそうである。


勇者パーティー以外にA級冒険者が巨人殺しのギランディーしかいない現状では仕方ない事だろう。


まぁ魔人なんていないのだから俺が今帰ろうが帰らまいが結果は変わらないのだが。


俺達の話は終わり、システアは集まった冒険者の視線を浴びながら他の勇者パーティーたちと共に待合所の一角に用意された黒板の前に辿り着いた。


どうやら今から始まる作戦とやらの説明があるのだろう。


さっきはその作戦についてまったくの知らんぷりをしたが大体の見当はついている。


まぁとにかく聞いてみよう。


パーティーのリーダーである勇者アリアスが説明するのかと思っていたが、少し前に出て話し始めたのはシステアだった。



「すまん、待たせたの。嬉しい誤算があって、つい盛り上がってしまったわ」



そう言うと、システアが俺の方をさりげなくみると、それに釣られて他の冒険者達も俺達の方を見る。


後ろのアルジールが何やら嬉しそうにしている気がしたが、俺としては特に感想はない。



「さてあんな事までしてお主らに集まってもらったのは、今人間界に迫る人類の危機に対抗してもらうためじゃ。今日のシラルークとその周囲の町を覆った闇はお主らも知っていることと思う」


システアの口から出た人間界に迫る危機というワードにこの場に集まるほぼ全ての冒険者が息を飲んだ。


ちなみに例外は冒険者パーティーの面々と俺達3人だ。


勇者パーティーはシステアが今からする話を知っている為、俺達はそれがただのつまらない兄妹喧嘩と知っているためだ。



「ワシはアレについて知っておる」



システアが続けていった言葉に冒険者がざわめく。この場にいる誰もが(クドウ達を除く)あのような怪現象に出くわしたのは初めての事だった。


それを目の前の少女が知っているというのだ。冒険者達が驚くのも無理はなかった。



(ていうかあいつ、雷神招来を知っているのか? ますます何者だ?)



雷神招来は俺が知る限り、魔界でも使用できるのはアルジールただ一人だ。俺も似せた魔法なら使えなくもないが、正真正銘の雷神招来はアルジールしか行使することができない。


そして、システアは何も知らない冒険者達にアレの正体を告げる。



「あれは第一級魔法『雷神招来』。魔王軍四天王魔人アルジールが得意とする大魔法じゃ」



冒険者達の喧騒はさらに激しいものとなる。


人類からすれば第一級魔法など御伽噺の中でしか見ることのできない伝説上の魔法。


人類の歴史上はっきりと第一級魔法を行使したとされているのは、初代勇者そして初代聖女の2人のみだ。


一目見た時から只者ではないと思ったが、魔法名と使用者の名前まで言い当てるなどシステアという魔法使いは只者ではない。


他の冒険者だけではなく俺も素直に驚いていた。

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