第37話 顔面犯罪者はお呼びじゃない

クドウ達が冒険者協会に到着数分前の事。


アリアス達は冒険者協会の応接室で冒険者達が集まるのを待っていた。



「上位冒険者はどれほど集まりましたか?」



アリアス達勇者パーティー以外に唯一この場にいたシラルーク冒険者協会のギルドマスターの男がアリアスの問いに答える。



「先程確認した所、30人ほどになりますね。今のところは比較的近い町所属の冒険者やたまたま近くに来ていた冒険者達だけのようですが、あと2時間ほどもあればこの倍の人数は集まるでしょうな」



「2時間? そんなに待てんわ! とりあえず今集まっている冒険者だけで始めてしまった方がよさそうじゃな」



「その方がよさそうですね。それでギルドマスターさん、A級冒険者は何人集まりましたか?」



アリアスは最初に上位冒険者の集まった人数を尋ねたが、今回招集した冒険者の条件はC級以上の冒険者である。


つまり30人といってもA級冒険者もC級も冒険者もいるわけで上位冒険者といってもピンキリなのだ。


C級冒険者はいわば数合わせで本当に招集したかった人材はA級冒険者だ。



「A級冒険者は1人ですね。『巨人殺し』のギランディー殿だけです。あとはB級が3割、C級が7割といった所でしょうな」



「……1人か。魔人の1人でも足止めできれば良いがの」



システアが悪態をつくように言うが、実際の所それくらいのものだろう。


それ程までに魔人は強い。


アリアス達の予想より戦力が集まっていない。


こんなことなら途中町に寄って何人かピックアップしてくればよかったのかもしれないが、システアの魔力も無限ではない。


いるかも分からないA級冒険者を拾うために町に寄る余裕はなかったのだ。



「まぁ仕方ないの。そのギランディーとやらに頑張ってもらうほかなかろう」



時間もないのでアリアス達は招集した冒険者達が待つ冒険者協会内にある待合所へと向かうことにした。


ギルドマスターを先頭にアリアス達は受付横の扉から出ると、待合所にいた冒険者達から一気に視線を浴びた。


システアはA級冒険者『巨人殺し』のギランティーの実力がどの程度のものかと冒険者達を眺めた。


システアくらいの魔法使いになると見るだけでその者の冒険者ランクなどプレートを見なくても判断ができる。



(んー、大剣を持ってるあやつか? まぁまぁじゃの)



システアにはすぐに待合所の一角に1人座っている大剣使いの男がギランティーだと分かった。


胸の辺りを確認すると確かにA級プレートを付けている。間違いないだろう。


思ったよりも頼りにはなりそうではあるが、予想の範囲内である。


恐らくは通常モードのガランより少し劣る程度だろう。



(あとはB級以下か。まぁ一応見るだけ見てみるかの)



システアは一応他のB級以下の者達も俯瞰で見てみると、何やら4人でこちらを見ながらワイワイと騒いでいる一団に目がいった。


その一団は一通り騒いだ後、なぜかその内の黒髪の少年がシステアの事を恨めしそうに睨みつけていた。



(ん? なにを睨みつけて……)



システアは黒髪の少年に睨みつけられている理由を考えていた最中突如思考が停止した。


少し頭が真っ白になった後、思考を取り戻したシステアは心の中で思わず叫び声を上げる。



(——なんじゃ!? あいつは!?)



もう少しで大声を上げてしまう所だったが、システアはすんでのところで留まる。


そして、前にいたアリアスの肩を掴んでブンブンと前後に揺らした。



「えっ、ちょ、なんですか?」


いきなり後ろから揺さぶられたアリアスは小さな声でシステアに尋ねるとシステアは慌てながらもアリアスに合わせた小さな声で言い返す。



「おい、A級冒険者は1人じゃなかったのか? よく見ると金髪の男も。あと長身の女も。……最後の1人はそうでもないの。とにかくなんじゃ! あの集団は!」



慌てたシステアを見たのはアリアスも初めての事だった。


アリアスもシステアの視線の先にいた一団を注意深く観察してみるが——。



「E級冒険者ですね。あ、1人はF級で、1人はC級みたいです」



結果アリアスにはよく分からなかった。


だが、システアが気づかなかった4人のランクは冒険者プレートが見えたのではっきりと分かった。



「馬鹿な、あれがE級だと!」



何やら後ろで騒いでいるアリアスとシステアにギルドマスターは「どうかされましたか?」と呑気に尋ねてきた。



「どうかしましたか? ……じゃない! なんじゃあの3人は!」



システアは興奮しているがなぜか小声でギルドマスターに怒鳴りつける。


するとアリアスとは違い、ギルドマスターは何か分かった風な表情で「すいません」とシステアに謝罪した。


流石は地方の冒険者協会とはいえギルドマスターを務めるだけの事はある。冒険者を見る目は確かなようだ。


そして、ギルドマスターは一直線に例の一団の方に歩いていく。



「ダメじゃないか、君達! この場に呼ばれたのはC級以上の冒険者だけだ! プリズンはC級なので構わないが、君達3人は大人しく帰りなさい!」



「あ、やっぱり駄目でした?」



ギルドマスターに言われ、黒髪の少年は金髪の男と長身の女となにやら相談を始める。



(おいおいおい、何やってるんじゃ! 欲しいのはあの顔面犯罪者の男ではなく他の3人じゃ!)



「何をやっておるんじゃ!」



システアは気づいたら一団の元へと飛び出していた。


思わず大きな声を出してしまい、周囲の視線がシステアに集中するが、そんなことはシステアにとってどうでもいいことだった。

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