第36話 初めての敗北
冒険者協会に戻った俺達に待っていたのは異様な雰囲気だった。
ピリピリと剣呑な雰囲気を漂わせたこの街や周囲の町の猛者が集まっていた。
なぜこの街以外の猛者がいることが分かるかって?
「いやー、ピリピリしてますね。クドウの兄貴」
プリズンは周りを見渡して俺にそう耳打ちした。
そういえばこいつも一応C級冒険者だったな。
冒険者協会に入って早々会ったのはプリズンだった。
その時色んな町からC級以上の冒険者が集まっていることを聞いたのだ。
それ以下の冒険者は冒険者協会の建物の外に出されてしまっている。
ちなみに俺達は建物の前で「声が聞こえたんですけどと」と説明したら意外とすんなり入れた。
「すげー、A級冒険者ギランディーまで来てますぜ、兄貴」
「誰それ?」
当たり前だが俺は聞いたことがない。
ついさっきまで勇者の名すら知らなかったので当然と言えば当然だし、そもそも勇者パーティー以外が魔界に来るなんてことはそうない。
「まじっすか? あのギランディーですぜ? ここいらでは最強と名高いあの巨人殺しの」
ほう? それは大したもんだ。
個体差はあるにしても巨人族は魔界でも有力部族の1つで個体数自体もそこまで多くない。
俺がギランディーを見るとかなり大きなバスターソードを背負っている。
恐らくパワータイプの戦士であの巨大なバスターソードで巨人を屠ったのだろう。
「まぁそこそこ強そうではあるな」
「いやいやいや、そこそこじゃねーですって! 一回見たことあるんですが、そりゃ凄いのなんのって! あの巨大な大剣をブンブン振り回すんですから!」
重さが分からないので何とも言えないが、あれを振り回すだけなら別にアルメイヤでも可能だろう。
要はどう効果的に相手にダメージを与えるかである。
「で、そのギランディー君のパーティーメンバーは?」
ギランディーの周りに人はおらず、冒険者協会の待合所の席に1人佇んでいるのみだ。
「いやギランディーはソロですよ」
「ソロ? 大剣使いが?」
どんな職業でも基本的にパーティーを組んだ方がメリットはあるが、大剣使いならなおさらである。
通常サイズの剣なら相手の攻撃を回避しながら戦いやすいが大剣使いだとそれもなかなか難しい。
仲間の支援があれば相手の隙をついて大ダメージを与えることもできるし、大剣使いはパーティー次第で生きる職業だと言える。
まぁ魔人の中には回避も考えず、大火力をブンブン奮う猛者も中にはいるがあれは魔人の防御力あっての戦術である。
「みたいですね。でもソロで巨人倒すくらいですし相当だと思いますぜ」
まぁそれは確かに。にしてももったいない。
俺達がギランディーの話に花を咲かせている中、冒険者協会受付の中から数人の男女が出てきた。
先頭に初老の男。それに続いて若い茶髪の少年剣士、かなり幼く見える魔法使いの少女、ギランディーと同じ大柄の大剣使いの男、そして純白の法衣の纏った少女だ。
「あれが勇者パーティーか」
見た瞬間に分かった。
恐らく先頭の初老の男は違う気はするが他のメンツはそうだろう。
全体的にかなり若いが、雰囲気からしてこの場にいる冒険者とは数段上の実力を有しているのは明らかである。
体の動き、筋肉のつき方、魔力の質、そんな所から諸々判断しての事だ。
魔力の質? ん? あれはなんだ?
「おい、プリズン。あの女はなんだ?」
俺は3番目に入ってきた幼い少女魔法使いを見て、プリズンに尋ねる。
「えっ、魔法使いの……ですか? えーっとよくは知らないですけどシステアっていう名前の魔法使いですね。なんでもA級冒険者に上がる最短記録を作ったとかなんとかで有名になった」
勇者のアリアスよりも早かったのか。それは興味があるな。俺の目は確かだったようだ。
まぁでも最短記録の方はこれから俺達に塗り替えられるわけでそこは少し申し訳なく思う。
「何日でA級冒険者になったんだ?」
俺は早速プリズンに聞いてみた。
恐らく1ケ月か早くても2週間とか3週間とかだろう。
だが、プリズンの答えは俺の予想を遥かに上回るものだった。
「1日です」
「ん? なんだって?」
プリズンは言い間違えたようだ。1か月と言いたかったのだろう。
顔に似合わずお茶目なやつである。
「あ、いや確か冒険者登録をしたその日のうちにA級に上がったらしいので半日ですかね? 正確な時間までは分かりませんが」
「いやいや、あり得ないだろ。F級から始まって最低でも2ランク上の依頼を5回受けないとAまでは上がらないだろ?」
時間的に不可能である。連続で依頼を受けたとしても移動時間など諸々考えたら頑張っても1日で2ランク上げるのがやっとのはずだ。
「あ、なんか登録初日にS級依頼をサクッと終わらせて、S級の1ランク下のA級にその日のうちに上がったらしいですよ」
冒険者新聞に書いてありました。などと付け加えてプリズンはそう言った。
お前、新聞とか読む面構えじゃねえだろ。などと思いつつ俺は反論した。
「いやいやいや、それこそあり得ないだろ。実力はともかくF級じゃD級依頼までしか受けれない。S級依頼なんか受けられるわけがない」
常識云々の前に受付嬢のエリーゼが2級上の依頼までしか受けられないと言っていたのだ。間違いないはずだ。
「リーダーのアリアスさんが勇者、S級なので問題なく受けられますよ」
はっはっは、なるほど、その手があったか。
正確には2ランク上の依頼を成功させたら1ランク上がる制度ではなく、受けた依頼の1ランク下までランクが上がる制度だったらしい。
(ずりぃぃぃ! それじゃアリアスの冒険についていくだけで誰でもA級じゃねぇか!)
正確には同じパーティーメンバーでないとその制度は受けられないため、アリアスとパーティーを組む必要がある。
そんなにコロコロパーティーメンバーは変更できないため誰でもA級というのは不可能なのだが、俺にはそんなことは関係ない。
ついでに言っておくといくらS級依頼をこなしたとしても明らかにA級の実力がない場合はA級に挙げられることはないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます