第32話 前にボコった勇者は1代前だった件
ミンカにかっこよく決めた俺にアルジールとアルメイヤは称賛の拍手を送る。
かっこつけた俺も俺だが、身内2人の拍手は恥ずかしいのでやめてほしい。
ミンカはミンカでなんかポカンとしているし、一番恥ずかしいパターンである。
「……え、あ、そうですね。クドウさんならきっと勇者にもなれますね!」
「う、うん、ありがと」
突然何言ってんだこいつ。とまではいっていないのだろうが、突然の俺の勇者になる発言にミンカは少し戸惑っているようだ。
人間界で勇者といえば雲の上の存在である。
昨日知り合ったばかりの俺が勇者になれるとは思ってもいないのだろう。
俺からすれば雲の上でもないのだが、俺は肩書上はまだE級冒険者なのだ。
笑い飛ばさなかっただけミンカは優しいのだろう。
仮に冒険者協会内で言おうもんなら「田舎のルーキーが何言ってんだ!」となり、それにブチ切れたアルジールと殴り合いの喧嘩に発展するだろう。
とはいってもD級やC級冒険者くらいじゃアルジールに一方的にボコられて終わりだろうが……。
まぁそんな話はどうでもいい。
こっぱずかしいので次の話に進む事にする。
「ミンカ、今の勇者について聞きたいんだけど?」
「えっ、勇者様ですか?」
しまった。
今、俺、勇者になりたいと言ったばかりなのに現勇者すら知らない変な子になってる。
と思ったが後の祭りである。
「……アリアス様を知らないんですか?」
「あ、そう! アリアス様! そのアリアス様について詳しく知りたいんだ! ほら俺達って田舎からでてきたばっかりだからあんまり詳しくないんだよね!」
現勇者はアリアスという名前らしい。
今知ったばかりのアリアスという名をあたかも知っていたかのように俺は言う。
田舎者という武器を使い、ごり押しの戦術で俺はミンカに立ち向かうことにする。
「とはいっても私もあまり詳しくはないんですけど……。あ、歳はクドウさんと同じくらいだった気がします! かなり若くで勇者になったのでかなり話題になってましたよ?」
ふむふむ、つまり15歳くらいという事か。
何年前に勇者になったかは知らないが、10代前半と考えればかなり早い方なのだろう。
「あとお師匠様が前勇者ソリュード様ですね。なんでもソリュード様がアリアス様の事を知って、引退を決意したとかなんとか」
ここでソリュード君が出てくるのか。
俺がボコボコにしたソリュード君はアリアスの前任だったようだ。
聞いた感じではソリュード君が現勇者アリアスの才能に惚れ込んだようだが、現勇者アリアスはソリュード君の全盛期よりも強いという事なのだろうか?
「私は知っているのはそのくらいです。あまり力になれなくてすいません」
「いやいや、充分! ありがとね!」
ミンカは申し訳なさそうに言うが俺としては名前が分かっただけでも収穫である。
「あ、そういえばメイヤ」
「なんでしょう?」
「メイヤって宿はどこで取ってるんだ? もう数日分の宿代払ったか?」
メイヤはミンカの宿屋には泊まっていない。
となれば、昨日は違う宿屋を取ったのだろうが、できればミンカの宿に変更してもらいたい。
俺達のように何日分か払ってしまっていたら返金は受け付けてもらえるか分からないが、最悪宿代くらいは俺が払ってしまってもいい。
「いえ、昨日の分しか払っていませんので、こちらの宿に変更することは可能です。場合によってはこの街を出ることも検討していましたので」
あー、俺達を探しにか。実に都合がいい。
「ちなみにどこだ? メイヤが泊まってたとこって?」
「ここに出てすぐの所にあるロイヤルガーデンって宿です」
興味本位で聞いてみたらやたら高そうな宿の名前がメイヤから出てくる。
ていうか近くに宿屋なんかあったっけ?
ミンカの宿付近は特に宿屋街というわけではない。
それっぽい宿屋があれば見当くらいはつけられそうなものだが。
「——えっ、ロイヤルガーデンですか?」
ミンカは驚いたように言った。
そりゃ近所の同業者の事くらいは知っていて当然だろうが、驚くような話だろうか?
「ロイヤルガーデンさんみたいな高級宿みたいなサービス……うちではとてもできませんけど大丈夫でしょうか?」
ミンカがとても申し訳なさそうな顔をしている。
なに? 高級宿だと?
そんな高そうな宿なんて……。
あれか! アルジールがここに来る途中で俺が泊まるにはギリギリ及第点とか抜かしていたどこぞの大貴族が泊まりそうな高級宿。アレに違いない。ていうかシラルーク内で高級宿といえばあそこくらいしか思いつかない。
そうだとすれば気になる事がある。
「メイヤ、金はどうしたんだ?」
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