第31話 女子3日会わざれば刮目して見よ!
俺達がミンカの宿屋に戻ったのは宿屋と酒場が混雑する夕方の少し前だった。
宿屋の中に入ると、受付でちょっと暇そうにしているミンカと目があった。
「お帰りなさい、クドウさん、アールさん」
「ただいま、ミンカ」
俺がミンカに挨拶を返すと、ミンカはアルジールの横にべったりくっついているアルメイヤを見る。
「ア、アールさん、もしかしてそちらは彼女さんですか?」
ミンカがそう思うのは無理もない。
こいつらの距離感は付き合いたてのカップルのそれである。
めんどくさいのでカップルって事で紹介してしまおうかとも一瞬思ったが、俺は一応3人で決めた設定をミンカに伝える。
「あー、いや、こいつは俺とアルジールの幼馴染のメイヤっていうの。実は昨日、プリズンに絡まれてた女の子ってこいつなんだけど、久々に会ったもんだから気づかなかったんだよねー。女の子ってちょっと会ってないとすぐ大人になっちゃうね。ホント」
かなり説明ぽかった気もするが、まぁいいだろう。
説明に無理がある気もするが、町の外で今日初めて会ったという事にするとプリズンか昨日来てた酒場の常連客あたりからバレる可能性もある。
実際は2,3日会ってなかっただけだが、アルメイヤが見違えたのは本当である。
アルメイヤの種族の特徴である鱗と翼は無くなり、爪と牙もかなり小さくなった。
何より人間的な目線で言えばだが、超絶美人になった。
アルジールの事といいもしかしてこいつらが美形なのは転生前の種族が関係しているのかもしれない。
まぁどこの馬の骨かも分からない種族不明の捨て子だった俺と違って、実はこいつらは俺が魔王になる前は魔界で幅を利かせに利かせまくっていた龍神族だ。
こいつらが美形になるのは仕方ない。うん。仕方ないのだ。
「そうなんですね。凄く美人さんです」
「……そだね」
ちょっとテンション上がり気味なミンカに対して俺の気分は憂鬱だ。
決して75点の俺が美形兄妹をひがんでの事ではない。決して。
「おい、メイヤ、黙ってないでミンカに挨拶しろ」
アールにべったりでミンカの事を気にも留めてないアルメイヤに挨拶を促す。
そうでもしないとこいつはミンカの事を無視してそのまま行きそうな気がしたからだ。
挨拶は大事である。
「はっ、クドウ様。私の名はメイヤ。偉大なるクドウ様に仕える配下の一人だ」
などとほざいたので俺はすかさず「こいつもちょっと変なやつだからあんまり気にしないで」とミンカにフォローになっているか分からないがフォローを入れる。
というか偉大な俺の前でアルジールとイチャイチャしないでくれるかな?とも思ったが、言っても無駄な気がするので諦める。
「クドウさんってやっぱりめちゃくちゃ偉い方なんじゃないですか?」
「いや、普通の村出身の只の冒険者だよ」
アルジールに続いてアルメイヤまであんなことを言いだすもんだから、ミンカは不安そうに尋ねるが、俺は断固として認めない。
確かに転生前は偉いどころの騒ぎではないトップオブトップで魔界最強の魔王であった俺だが、今はちょっと強いだけの冒険者なのだ。
あ、冒険者といえば——
「じゃじゃーん」
俺は胸につけていたE級冒険者プレートをミンカに見せつけると、ミンカは驚いて声を上げる。
「えっ、もうE級に上がったんですか? 今日が初依頼だったんですよね?」
確かに今日が初依頼だ。
普通の冒険者であればF級の依頼を数多くこなして少しずつランクを上げていくものだが、俺達が今日受けたゴブリン討伐はD級依頼。
普通の冒険者なら只の自殺志願にしかならないD級依頼でも俺達にかかればお茶の子さいさいなのだ。
「今日、D級依頼受けてきたんだ」
「……えっ、でぃ、D級依頼ですか? クドウさん達ってF級だったんですよね?」
ミンカはかなり驚いている。冒険者達がよく利用する宿屋だけあってF級冒険者が2ランク上のD級依頼を受けることの意味を理解しているようだ。
「そうそう、で、2ランク上の依頼を1パーティー以下で達成すると無条件でランクが上がる制度があるんだってさ」
「知りませんでした……。でもそれって凄い事なんじゃ?」
それはそうだろう。なかなか2ランク上の依頼を受ける冒険者などいない。
いうなれば将来勇者かそれに近いランクまで上がる破格の初心者冒険者の為にある制度なのだ。
「クドウ様であればあんな依頼など軽くこなして当然だ。小娘よ」
「アール、小娘言うな」
「す、すいません、……ミンカよ」
未だ魔人気分が抜けないアルジールに俺は釘を刺すとアルジールは大人しく言い直した。
まぁ軽くこなしたのは事実なので俺はミンカに宣言する。
「これからガンガン依頼こなして、すぐ勇者になっちゃうから見ててよ!」
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