第19話 ヤバイ美女とヤバイイケメン

迫りくる炎の渦を見ながら俺は洞窟内に入る前にアルジールが言っていた事を思い出していた。


——クドウ様、ここから炎の魔法で洞窟内を全て焼き尽くせば、手っ取り早く済むのではないでしょうか?


 確かに素敵な提案だった。

 ゴブリンの証拠部位が確実に取れるようにこんがり程度の火力調整が出来る事と冒険者が洞窟内に確実にいなければの話だが。


 俺は改めて俺達に迫りくる炎を確認してみた。


 うん。ゴブリンは消し炭に。仮に冒険者がいた場合にも消し炭に。

 そんな威力の火力に見える。


こんな状況でなければその魔法使いかドラゴンかは知らないが、褒めてやったことだろう。

実に見事な炎である。


しかしどこの馬鹿だろうか? 一応F級冒険者が2人いる状況でこんな必殺の炎を洞窟の密閉空間に放り込んできた馬鹿は。


目の前で炎に飲み込まれゴブリンの死体が次々と消し炭になる中、俺はアルジールの前に立った。


「ク、クドウ様、ここは私が」と言うアルジールを無視して俺は風魔法ウィンドストームを発動した。


ウィンドストーム、風魔法の第3級魔法で1~7級まである魔法の中では中級に位置する魔法だが、俺が使えば、上級魔法に匹敵する威力になる。

ちなみにゴブリンの首を刈るのに使用した魔風刃も第3級魔法だがあれは対個人戦、ウィンドストームは対集団戦に特化した魔法である。


俺達の目の前まで迫っていた炎は俺の放ったウィンドストームの直撃により一瞬静止し、次の瞬間には洞窟の外へと逆流を開始する。


こっちに向かってきた以上の速度で押し返した炎の渦は放った術者に返っていくことだろう。


「さて、まさか死にはしないよな? 自分が放った炎で」


「見事でございます、クドウ様」


アルジールは目を輝かせ俺を褒めたたえる。

悪い気はしないが今は外から炎を洞窟内に放り込んだ奴の対処が先だ。

俺が炎を追いかけるように洞窟の外へ走り出すと、アルジールもそれに追従した。


かなりの速度で俺は走っている。

流石に炎を追い越しては元も子もないので少し抑えてはいるが、それでも転生してからでは最速の速度で押し戻した炎を追いかける。


その結果、歩いてきた時には結構時間がかかった洞窟を1分もしないうちに出口周辺まで到達した。

目の前を駆け抜けていた炎が俺より一足先に洞窟外に出ると、さらに向こうで大声が聞こえてきた。


「えっ! そんな! クソがッ!」


自らが放った炎がそっくりそのまま帰ってきた事に衝撃を受けた声の主は防御する暇もなく自分の炎に焼かれていった。


あーぁ。死んだか。これ。


俺は術者の死を予感した。自業自得とはいえ人間を(シルエットで予想した)を殺してしまったかもしれない。

それにしてもなんか聞き覚えがある声だったな。


そんな事が考えつつ俺は「南無南無……」と両手を合わせ、死者に祈りを捧げた。


「勝手に殺すな! クソが!」


あれ? 生きてた?


ていうか口悪いな。


爆煙が収まりその中から顔を出したのはプリズンにちょっかいをかけられていた美人のお姉さんだった。

お姉さんは所々こんがり焼けながらも怒りの表情をこちらに向けている。

今朝はそうでもなかったが、怒ると口調が変化するタイプの美人さんのようだ。


ていうかこっちが悪いみたいになってるけど、俺達がいる洞窟内に極大炎魔法をぶち込んできたのお姉さんだよね?

まぁ、はじき返さなくても無効化する方法なんていくらでもあったが、そんなことはこっちの知ったことではない。


「……貴様ら死にたいようだな」


お姉さんは俺達を睨みつけそう言った。

完全に逆切れですよね? 

ヤバめのお姉さんではなくヤバイお姉さんだったようだ。


やっぱりアルジールとお似合いだわ。チャンスだぞ、アルジール。


何がチャンスかは分からないが、アルジールにそんなエールを内心で送った時である。


後ろから追いついて来ていたアルジールがヤバイお姉さんの前に立った。


まさにヤバイ者同士の競演である。


「……それはこちらのセリフだ、女。誰がいるかも分からない洞窟にあんな炎魔法など放ちおって。それに加え、クドウ様を殺すだと? 死ぬのは貴様の方だ、女」


おや、おかしいな? お前この洞窟入る前に洞窟に炎魔法ぶっ放せば手っ取り早いとかなんとか言ってなかったっけ?


自分の事を棚に置くのが上手い人たちだね。あはは。


両者名睨み合い、そしてヤバい人たちの戦いが幕を開けるのであった。

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