第11話 神ユリウスの降臨

クドウとアルジールが滞在している町シラルークから遠く離れた都市ユリスリティア。

黄金の神ユリウスが持つと言われる神剣と同じ名を冠したこの都市にはユリウス教総本山であるユリウス教大神殿があった。


今朝の事だ。


大神殿にあるオーブが光を放った。


古くから伝わるそのオーブははるか昔、この大神殿建立時にユリウス教が神から賜った物だ。

そのオーブの発光の意味する事は神ユリウスの使いたる天使の降臨である。

人間界では試練の塔を除けば唯一、天界へと通ずる転移ゲートがある大神殿最奥に天使は降臨するのだ。

転移ゲートがある大神殿最奥の部屋に数人の高位な神官服を身に纏った者達が膝をついてその時を待っていた。


そして、遂にその時はやってきた。


転移ゲートが光を放ち始めたのだ。


 男達は頭を床まで下げ、転移ゲートから現れる存在の声を待った。


 「面を上げよ」


 神官達は一斉にびくっと体を震わせる。


 (いつもの天使様ではない……。この声はまさか……)


 神官たちは一斉に頭を上げる。

 すると、1人の年長の神官が驚愕の声を上げた。


 「貴方様は!」


 それを聞いた他の神官たちもかの存在の降臨を予感した。

 神々しい光を纏った男は金色の長い髪を揺らしながら、勢いよく言い放つ。


 「ふははははは! 久しいな、法王よ」


 「神ユリウス……」


 他の神官達は神ユリウスの降臨に涙が溢れる者、衝撃のあまり言葉が出ない者など様々な反応に分かれる。

 法王以外の神官は神ユリウスの降臨に立ち会ったのは初めてである。

法王である彼でさえ、法王戴冠の儀で一目見た事があるだけだ。


 「それにしても法王、貴様、老けたな。そろそろ引退を考えるべきではないか?」


 あの日見た姿のまま神ユリウスは法王にそう告げる。


 「神ユリウスが望むのであればすぐにでも」


 法王は今年で74歳になる。まだまだ続ける体力は残っているが神の意志となれば逆らうことなどできるはずがない。


 「ふははははは、少し言ってみただけだ。本気にするでない」


「神ユリウスのご意志のままに」


そう言って法王は再び頭を下げた。


「……神ユリウス、貴方様は今日なぜご降臨なされたのですか?」


法王が知る限り、法王戴冠の儀以外では神が自ら降臨することはない。

先代の時も、先々代の時も神が自ら現れたのは戴冠の儀をおいて他にはなかった。

恐らく神自ら伝えればならぬ、何かが起きたのだ。


「話が早いな、法王よ。魔王ギラスマティアがこの世を去った」


神ユリウスのその一言にその場が騒然となった。

数百年魔界に君臨し続けた魔王ギラスマティアの死など神自らの言葉でなければすぐに理解することはできなかっただろう。


1人の神官が言った。


「それはめでたい! これを機に魔人共を一掃致しましょうぞ!」


他の神官達もその神官の言葉に便乗する。


「それがいい! 冒険者協会の勇者とも連携して魔人共を!」


神官達は神ユリウスの前だということを忘れて、各々自分の考えを主張し始める。

だが、その中にあっても法王の表情は優れなかった。

そんな法王の表情を読み取って、神ユリウスは盛大な笑い声を上げる。


「ふははははは! 法王よ! 貴様の部下共は本当にめでたいな! 今の魔界から魔王がいなくなるという事がどういう事だか分かっておらぬようだ!」


「申し訳ございません。……神ユリウス」


法王はまたも神ユリウスに頭を下げて謝罪する。

それを見た神官達は今まで騒いでいたのがウソだったかのように静かになった。


「貴様らは魔王ギラスマティアがいた所為で魔人に手出しができなかったのだと勘違いしておるな」


神官達は何も言わない。


相手が神ユリウスでなかったのならば神官達はみな顔を揃えてこう言っただろう。


「勘違いではなくその通りだ」と。


そんな考えが神ユリウスには手に取るように分かった。


そして、神ユリウスは言った。


「そうだな、少し昔話をしてやろう! 心して聞くがよい。ふははははは!」


神ユリウスの笑い声が大聖堂最奥に木魂した。

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