第9話 その名は『魔王』

俺の目の前にはタコ男ことプリズンが俺に頭を下げていた。


『俺はプリズンと言います。俺を兄貴のパーティーに加えてくだせえ!』


これが俺に頭を下げる前にプリズンが言い放った一言。

俺としてはパーティーメンバーはおいおい探すつもりではいた。

だが、俺のパーティーにこれ以上問題児は必要ない。

ましてやアルジールのような戦闘力があるようにも見えないこいつでは只の足手まといだろう。

まだ回復魔法でも使えるのならば少しは話は違っただろうがそういうわけでもなさそうだし。


「やめておいた方がいいよ。この人、腕は確からしいけど、なんたって喧嘩っ早いから」


隣のミンカ母が俺に小声で忠告する。

なるほど。良い事を聞いた。喧嘩っ早い上に確からしい腕もこの程度なようだ。

パーティーに入れるメリットが皆無になった所でアルジールが俺たちに割って入った。


「おい、貴様。貴様如きが我らがパーティー『魔王』に入るなどとは100年早い。とっとと失せるがいい」


そうそう、100年どころか1万年早い。

アルジールもたまには良いことを言うものだ。

ん? 待て。こいつ今変な事を口走らなかったか。


「あなたは?」


喧嘩っ早いプリズンも流石に俺のパーティーメンバーと思しき男に突っかかる事はないようだ。

いや、そんなことよりも——


「私はこちらにおわすクドウ様に忠誠を捧げる側近アールと言う」


「おぉ、アールの兄貴ですね! で、あの人がクドウの兄貴!」


いやだから、兄貴ではない。っていうかそんなことはいいから俺にしゃべらせて。

パーティーメンバーとしては認めないが、子分が増えた事にアルジールは気分を良くしたようで更に話を続けようとする。


「そう、私がクドウ様に出会ったのははるか昔、ちょうど——」


「おーい! 待った!」


俺が無理やり話を止める。

今話し始めようとした話も色々やばそうだが、その前にまず聞かなければいけない事がある。


「如何されました? クドウ様? まだ話し始めたばかりなのですが」


「その話は今はいい。・・・それよりもだ。『魔王』っていうのはなんだ?」


「??? さっき言った通り我らのパーティー名です。なんともいい響きです」


そう言ってアルジールはうっとりとした表情になる。


俺がやったら「なにっ! きもっ! あんた!」とか言われそうだが、こいつがやると無駄に絵になるのが気分が悪い。


「いつ決めたかは知らんが、それは却下だ。俺が違うのを考える」


こいつに決められてはまた変な名前にするに決まっている。ネーミングセンスにはあまり自信はないが、俺が決めるしかない。


だが、アルジールが次の瞬間、驚くべきことを言った。


「それはできません」


いくら納得がいかない時でも最後には俺の言う事を聞いてきたこいつが初めての反抗をみせたのだ。


それも一瞬の躊躇いもなくだ。


かなり遅めの反抗期に俺は新鮮な気持ちになるが、それでもダメな物はダメなのだ。

はっきりと言ってやらねばならない。


「却下は却下だ」


そう俺ははっきり言う。


「あ、いえ、ですからクドウ様、冒険者協会に既に『魔王』として登録済みですので、すぐの変更は不可能です。1年待ってからでないと変更は受け付けられないとあの女が言っていました」


な、なんだと? あの女? ……あいつか!


エリーゼ。やたらアルジールにべったりしていた冒険者協会の受付嬢、あいつの差し金か。


「あの女が「アール様ぁ~、パーティー名もここで決めちゃいましょうよ~」と言うものですから、僭越ながら私が考えた『魔王』をクドウ様にどうでしょうか? とお尋ねした所、「あぁ」と」


「……えっ?」


記憶にない。確かに言ったかもしれないし、言っていなかったかもしれない。

俺が目の前の光景に絶望していたあの時か!

恐る恐る、俺はF級冒険者のプレートの裏を見てみると、確かに名前であるクドウの横にパーティ名『魔王』の名が刻まれてある。

周りを見ると俺たちの話を聞いてた客の多くが


「『魔王』というらしいぞ」「物騒な名前だが、確かに強そうだ」


などと話している。


「くそっ、ハメられた!」


1年間のパーティー名を変更できないのはおろか、C級冒険者であるプリズンを倒したその場で『魔王』の名を広めてしまった。


恐らく、明日には町中の冒険者に広まっているだろう。


F級冒険者パーティー『魔王』のリーダーがC級冒険者プリズンを1発でのしてしまったと。


魔王を止めたはずの俺はまたも魔王を名乗ることになってしまったのだった。

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