第6話 おしゃべりクソエリーゼと嫉妬する冒険者達

 神ユリウスが天界でワイン片手にクドウの話をしていることなど知る由もない俺は目の前の光景に絶望していた。


 「アール様の髪って綺麗ですねー! まるで始まりの勇者様みたいですー!」


 冒険者協会の受付のお姉さんことエリーゼは甘えた声でアルジールの髪を眺めながら言う。——ちなみに俺がエリーゼの名を知ったのは、突然彼女がアルジールに向かって冒険者協会の受付嬢としては言わなくてもいい個人情報をペラペラと話し始めたからだ。

 アルジールはエリーゼの誉め言葉に顔をしかめつつ答える。


 「勇者などと一緒にされては困る。私はクドウ様の覇道を手助けする側近として、ただお傍に仕える事を生きがいとする者だ」


 それを聞いたエリーゼは一瞬だけ俺の方を見たが、すぐにアルジールへと向き直り、おしゃべりを再開する。


 「えー、でもー、冒険者を始められるってことは勇者を目指しているんですよねー? 金の勇者様ご存じありませんか? 始まりの勇者にして冒険者協会の設立者。ずーっと昔にいた魔王を倒して世界に平和をもたらした人類の英雄ですよ! 歴代の勇者様もあのお方を目指して冒険者協会の門を叩いたんですよー」


 ずーっと昔の倒された魔王とは多分、俺の前任者だろう。

 俺がこの世界に転生した頃には魔界に魔王はいなくて、強靭な魔人が溢れる世紀末状態だった。

 まぁ強靭とはいっても人間とか一般的な魔人基準なだけで俺が全員ボコって言う事を聞かせたわけだが。


 「私が冒険者になるのはクドウ様にお仕えするに当たって必要なことだからだ。勇者などどうでもいい」


 確かにアルジールにとっては勇者などどうでもいいのだろう。俺がアルジール達の目の前で散々ボコっていたのがその歴代の勇者達だったのだから。

 アルジールからしてみれば俺に身の程知らずにも勝負を挑んできた木っ端魔人と同じ扱いなのだろう。

 だが、俺からしてみればどうでもよくはない。

 魔界にいる魔人達を倒して世界平和を実現させる主人公を目指す俺にとって勇者になる事が絶対条件だからだ。

 ツレないアルジールにもエリーゼはめげずにさらに話しかける。


「えー、そんなこと言わず聞いてくださいよー。いいですか? 勇者様というのはS級冒険者の事を言います。Fランクから始まる冒険者ですが、A級冒険者になっても勇者と呼ばれる事はありません。S級冒険者になれた人類でも僅か一握りの者がそう呼ぶことが許されるのです」


 ホント丁寧に教えてくれるのね。他の駆け出しのFランク冒険者達にもちゃんとこれくらい丁寧に説明しているんだろうな?

 周囲を見ると、苛立ちながら俺たち——主にアルジールに厳しい視線を飛ばす冒険者たち。

 当たり前の話だが、冒険者協会の受付嬢の仕事は冒険者登録だけではない。依頼の受注や達成報告などがむしろメインだろう。

 彼らの厳しい視線から考えるに恐らく冒険者登録とは受付用紙を渡して、簡単な説明を受け、冒険者の証であるプレートを渡してそれで終了なのだろう。

 そろそろお暇しないと冒険者の彼らにも冒険者協会にとっても営業妨害に違いない。


「あのー、そろそろ……」


 なぜか俺が申し訳なさそうにエリーゼに次を促す。


「あ、そうですね。これがプレートです。冒険者の証になるので無くさないようにしてくださいね」


 エリーゼから俺達に青銅製のプレートが手渡される。これがFランクの証なのだろう。ランクが上がれば、それに従ってプレートの色が変わっていくはずだ。


 「では、また来てくださいね、アール様! 私は水曜と木曜日がお休みなのでそれ以外の時にでも! あ、休みの日にはそのさっき渡した住所に来てくだされば・・・」


 エリーゼはそんなことを言いながらきゃっきゃと1人で何か騒いでいる。

 そういえば、アルジールがさっき何やらエリーゼからメモを渡されていたが、それのことか。

 あんなことをするような娘が今までクビにならなかったな。今からでも遅くないと俺は思う。

 俺は周囲の反応を見る為に周りの冒険者に注意を向けた。


 「くそぉー、俺のエリーゼちゃんをー!」「……あの金髪マジコロス」


 そんなエリーゼに聞こえない程度の小さな声が俺の耳に届く。

 あー、受付ができない事に怒ってたんじゃなかったのね。

 どうやらエリーゼはこの冒険者協会では人気の受付嬢のようだ。

確かに顔は美人だ。


性格はいつものエリーゼを知らないのでどうかは分からないが、とにかく俺の気分はすごくよくない。

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