第4話 頭のおかしい貴族の従者は98点

俺たちが宿屋に入ると、受付にいた少女がこちらに笑顔を向けてきた。



「いらっしゃいませ! 宿のご利用ですか? 酒場のご利用ですか?」



どうやら宿は2階にあるらしく、1階では酒場も経営しているタイプの宿屋だったようだ。


酒場もあとで行くかもしれないが、とりあえずは宿を予約せねばならない。


俺が少女にそれを伝えようとすると——。



「宿の予約に来た。この宿で一番のスイートルームを用意してもらおうか!」



「……えぇっと、申し訳ありません。全て同じタイプのお部屋になっているのですが・・・」



アルジールの訳の分からない妄言に少女は申し訳なさそうに答える。



「なんだと? 貴様。よもや、こちらにおわすクドウ様に庶民と同じ部屋を案内するつもりか!」



ボカッ!



「……何をされるのですか? クドウ様」



後ろから後頭部を殴られたアルジールは驚きの表情で振り返った。


庶民と同じ部屋に泊まるためにこの宿屋を選んだのだ。このままアルジールの妄言に付き合わされては少女が気の毒すぎる。


俺は困惑した少女に笑顔で話しかける。そんな事で挽回できるとは思わないが、とにかく笑顔でだ。



「2人部屋を1つお願いします」



「えっと、貴族様がうちのような宿屋でよろしいのですか?」



貴族がこんな安っぽい装備では現れないと思う。


異次元空間に手を突っ込めば、貴族顔負けの豪華絢爛モードに移行する事も可能だが、今はその時ではない。



「俺たちは貴族ではないよ、駆け出しの冒険者なんだ」



「えっ、でもそちらの方が・・・」



「あ、うん。こいつ今日、魔物に襲われて意識を失って、頭がおかしくなったみたいで」



俺が笑顔で言うと、少女は心配そうに「お手当しなくて大丈夫ですか?」と心配そうに聞いてくれた。


ほんとに良い娘だ。俺も2回転生する前だったらこんな優しい彼女が欲しかったものだ。



「大丈夫、もう治らないと思うから」



俺が笑顔でそう言うと、後ろから「そんな! クドウ様!」などと聞こえた気もしたが気のせいに違いない。



「とにかく、部屋の方頼みます」



「えっ、では……空いてるお部屋は3号室になります。何日か予約して行きますか?」



「そうだな……では3日程」



「では2名様で銀貨1枚と銅貨80枚になります」



俺はあらかじめ異次元空間から取り出しておいた硬貨の中から言われた金額を支払い、部屋の鍵を受け取る。



「ありがとうございます。お荷物はお運びしますか?」



荷物は硬貨の入っている革袋くらいで他はすべて異次元空間の中だ。



「いや、ほとんど荷物ないので大丈夫です。まだ外で用事が残っているので、済ませたらまた来ます」



「分かりました! ご夕食の方、お決まりでなかったらうちの父の料理を酒場で出してるのでよかったら!」



「楽しみにしてます」



俺は笑顔でそう答えると宿屋を出た。


馬鹿の挽回はできただろうか? 


うん。出来たと信じよう。



「おい、アール! 次行くぞ! 次!」



「次と言いますと、冒険者協会ですね」



おっ、こいつも分かってきたじゃないか。


そう、初心者装備が揃っている今、次に行くとしたらそこだ。



「その通りだ。冒険者協会に冒険者登録に向かう」



「基本で御座いますね、では早速向かいましょう」



そうして、俺たちは冒険者協会にやってきた。


建物の中に入ると、見慣れない俺たちに冒険者達の視線が飛んでくる。



「見慣れないやつだな」「プレートがないってことは新人か?」



そんな小さな声が飛び交う。


気づかないふりをして、俺たちはギルトの受け付けのお姉さんに声をかけた。



「あの、俺たち冒険者登録したいのだけど」



お姉さんは笑顔で俺たちを見ると——というか俺が話しかけているのにほぼアルジールの事を見ている。



「あ、はい! 冒険者登録ですね!」



「あ、うん、お願いしていいかな?」



「お名前と年齢をこちらにお願いします」



俺はお姉さんに渡された2人分の用紙に名前と年齢を記入していく。


俺はクドウ、15歳。アルジールはアール、17歳。


なぜかアールの方が見た目が上に見えるので疑われないようにそう書いて、お姉さんに渡す。


すると、お姉さんは渡した用紙をじっと見る。


名前と年齢しか書いてないのに何をそんなに確認をすることがあるのか。まぁいい。



「受諾しました。アール様とクドウさんをFランク冒険者に認めます」



あ、試験とかないのね。


ていうか今、アールだけ様って呼ばなかった? 気のせいだよね?



「きさ——!」



ボコッ!



「まだ何も言ってません。クドウ様」



うん。言わなくてよかったよ。どうせ「貴様! なぜクドウ様がFランクなのだ! 今すぐ訂正せよ!」だよね。知ってる。



あ、でもこの場合、言っちゃったほうがよかったのか? まぁどうでもいっかー



「ど、どうされました?」



宿屋の少女同様、心配そうに俺たち——いや、アルジールを見る。


アルジールの気に触れることをしたのではないかと思ったのだろう。


どちらかというと俺の方を気にした方が正解ではなかろうか。



「いや、アールは奇策を思いついたようです。強い魔物を倒す奇策をね!」



「えっ、そうなんですか? 凄いですね! アール様は!」



やっぱ聞き間違いじゃなかったわ。なんで俺がフォローしないといけないの?



普通逆だよね?

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