魔王をするのにも飽きたので神をボコって主人公に再転生!

コメッコ

第1話 魔王に飽きたので神からもらったアイテムで再転生

強大な魔人や魔物が蠢く魔界の中心地に魔界最強の存在である魔王が住む居城、魔王城はある。


その魔王城最奥に存在する玉座の間に俺はいた。


俺の名はギラスマティア=メルボラス=グリム……とまぁ自分でも覚えきれていない長い名を持つ正真正銘、この魔界の頂点に君臨している魔王だ。


そんな俺の目の前には今、1人の魔人が膝を付き平伏している。


その男の名は魔人アルジール。


魔王軍四天王筆頭にして、魔界の東方を支配下に置く絶対強者の1人だ。




大きな玉座の間が静寂に包まれる中、玉座に座る俺は平伏しているアルジールに問いかけた。




「アルジールよ」




「は! 如何いたしましたか? 魔王様!」




問いかけられたアルジールは頭を上げ、俺の言葉を一字一句たりとも聞き逃さないように俺の事を見つめている。


そんなアルジールに俺は威厳に満ち溢れた声で問いかけた。




「俺は強い。魔界広しといえどこの俺に敵うものなどこの世に存在しない。そうだな?」




「その通りに御座います。魔王様」




アルジールは俺の問いかけに当然とばかりにそう答える。


実際、強力な魔人として生を受けた俺は負け知らずだった。


ガキの頃ですら回りにいた強靭な大人の魔人相手にすら圧倒し、成人してからは魔界各地にいる強大な魔人に勝負を挑みまくった。


だが、それでも俺が負けることはたったの一度もなく、結果としていつの間にか魔王にまで登り詰めてしまったのだ。


ちなみに目の前にいるアルジールもその時に挑んだ強大な魔人の1人だ。




そんな魔界最強と言ってもいい俺だが最近気づいてしまったことがある。




「アルジールよ」




「なんで御座いましょう?」




「飽きた」




「……は?」




俺の宣言に先程まではキリっと締まっていたアルジールの顔が僅かに歪む。


どうやら俺が言った言葉の意味が理解できなかった様だ。


なので、俺は今度ははっきりと主語を省略することなく、はっきりと俺の思いをアルジールに告げる事にした。




「魔王やるの飽きた」




「……それでは人間界の征服など如何でしょうか?」




俺のバカな発言にも一瞬大きく目を見開きながらもアルジールは真面目に答えてくれた。




うんうん、心底俺に心酔しているのだろう。




だが、アルジールが暇つぶし代わりにと用意してくれた人間界征服案だが、俺は別に暇だから新しい遊びを用意せよ。——などと言ったわけではない。


暇がどうこうって話じゃなく、魔王という役職?自体に飽きたのだ。


それにそもそもだが、こいつは俺の事を理解しているみたいな顔をしているが、まったく俺の事を理解できていない。


ここではっきりと言っておかないとこいつは勝手に勘違いする。


だから俺ははっきりとアルジールに告げた。




「いや、それはダメだ」




こいつの言っている事は魔人としてはもっともな意見かもしれない。


実際に俺以外の魔人の多くは人間界の支配を望んでいる。


だが、それでも速攻で俺はアルジールの意見を却下した。



というか今まで散々色んなところから言われた話だが、そのすべてを却下している。



言うことを聞かず勝手に人間界に向かったアホもいたが、ことごとく俺の圧倒的パワーでねじ伏せて、言う事を聞かせた事も数多い。




納得できようができまいが、魔界では力が全てだ。


そこん所は大変分かりやすくていい。


アルジールも俺が人間界に侵攻する気はない事を知っているはずだが、ちょうどいい機会だと思ったのか俺に聞いてきた。




「なぜ魔王様は人間界に攻め入らないのですか? 魔王様ならば3日もあれば征服も可能で御座いますに」




うん、アルジールの言う通り確かに可能だ。可能というか容易い。


むしろ、どこから出してきた数字かは分からないがぶっちゃけ3日もかからない。


1日もあれば、人間界を征服して、帰りにどこかで遊んで帰って来れるだろう。



幾度となく勇者やら聖女やら如何にも世界の救世主ですよ感を醸し出した人間達が『俺討伐』の大義を掲げて、この魔王城へとやってきたが、その全てを斬っちゃ投げ斬っちゃ投げしてきた。


正直人間など俺からしたら敵ではない。


俺どころか目の前にいるアルジールにでさえ手も足も出ないレベルだろう。



それほどまでに人間は弱い。



だがそれでも俺には人間界征服に乗り出したくない確固たる理由があった。




「そういえば、言っていなかったな。俺は転生者なんだ」




「なっ!」




アルジールは俺の何の前触れもないカミングアウトに目を見開き絶句するが、すぐに冷静な表情を取り戻す。



流石は四天王筆頭といったところだろう。




「つまり……魔王様は人間だった……と」




かなり理解早い。まぁ正解だ。




まぁ人間は人間でもこの世界の人間ではなかったのだが。


俺はこの世界で魔人に生まれ変わる前、この世界とは違う世界の日本という国で生まれ育った。


不運にも交通事故で高校生に上がる前に命を落とした俺が生前憧れていたのは漫画や小説に出てくる主人公のヒーローだった。




高校生に上がる寸前までヒーローに憧れていた? だって?




そうだ。悪いか? 今は誰もが恐れる最強の魔王だが、当時はクラスの女子にだって若干引かれてたよ!




だが、幸か不幸かそんな俺が転生しやってきたのは、混沌渦巻く魔界のど真ん中だった。


転生後の俺は人間だった頃の希望通り、俺に刃向かう悪い魔人共を斬っちゃ投げ斬っちゃ投げしてヒーローを目指す事にした。




だが、そんな生活を続け、気づくと俺は魔王になっていた。




よくよく考えたら当然だよね。だって俺が転生したのは人間じゃなく魔人なんだもの。


魔人が魔人をボコって従え続けたら、最後に行き着く先は魔王だ。


勇者やヒーローな訳がない。




そんなこんなで成り行きで900年程続けてきた魔王だが、俺が目指したのは悪い奴らから世界を守る主人公だ。


魔王では世界を救えない。救ったとしても誰も俺を主人公として認めないだろう。




ちなみにだがアルジールに関わらず魔人は人間を見下している傾向がある。


俺が元人間と知ったことでアルジールが裏切って、いきなり斬りかかってきたらそれはそれで面白そうだと思ったが、そんな気配はなくアルジールはどこか納得したように呟いた。




「道理で人間界征服に頑なに反対したわけです」




「がっかりしたか?」




「いえ、前世はともかくとして、私は今の魔王様に忠誠を捧げておりますので」




「そうか。それでさっきの話の続きだが、俺は魔王やるの飽きたんだ」




俺が話を無理やり戻すと、アルジールはどう答えればよいか考えを巡らせていたようだが、いい考えが浮かばないのか黙り込んでしまった。




だが、アルジールが考えるまでもなく俺の中で既に答えは出ている。


その答えに俺は熱き情熱を乗せ、アルジールにぶつけた。




「俺はな、主人公をやりたいんだ。魔王城で相手にもならない勇者やら聖者やら時々魔人やらをぶっ倒すだけの魔王じゃなくな」




「……主人公?」




アルジールは俺が言った言葉の意味が分からなかったのだろう。かくいう俺も魔人として生まれ変わってからその言葉は聞いたことがない。


少なくとも魔人にはそのような概念などないのだろう。


仕方なく、俺は分かりやすくアルジールにでも理解できる言葉で告げる。




「簡単に言うとだな、人間に転生して、冒険者として魔人どもをぶっ倒して世界を平和にしたいんだ」




そんな俺の言葉に対し、不思議そうな表情をしたアルジールが元も子もない暴言を吐く。




「……今のままでも他の魔人はぶっ倒し放題だと思われますが? 流石に理由もなく行えばクーデターが起こると思われますが、魔王様ならば容易く鎮圧——」




「——いや、そういうことではなくてだな」




やはりこいつは全然わかっていない。




冒険、友情、ロマン。




俺がやりたいのはそういうのであって、ただ傍若無人な暴君をやりたいわけではないのだ。




「分かりました。魔王様は人間に戻りたいのですね?」




んー、ちょっと違うんだが。




アルジールは納得したように言うが、ちょっと違う気もする。


とはいえ、結果的には間違ってはいないの俺は妥協する事にした。




「そういうことだ」




俺が肯定するとアルジールは一瞬の迷いもなく俺に告げた。




「それでは私もお供致します」




「えっ、いいのか?」




アルジールは俺に負けるまでは魔界の東の覇者として多くの魔人を配下に置いていた魔界を代表するような強く誇り高き魔人である。




そんなアルジールが魔人をやめて俺についてくると言っている。




「はい、あの日、魔王様に負けてから私は魔王様の物となりました」




「そういうことならいいが」




若干気持ちが悪いが、まぁ何を言ってもついてくるのだろう。俺にしてもちょっぴり1人は寂しかったところでもあるし。




そうと決まれば話は早かった。




「よっと」




俺は異次元空間に手を突っ込み、目当ての物を引っ張り出した。



異次元空間に手を突っ込む? どういう魔法かって?



それは聞いてはいけない。



俺が魔人に転生した時に子供の時から使えていた特殊能力のような物だ。


いつの間にか使えていただけで俺にだってこの力が何のことか分かってないのだから説明のしようがない。



できるからできる。それが俺の異次元に手を突っ込むという能力だ。



そんな俺の摩訶不思議能力によって取り出された虹色に光る宝石を見て、アルジールは驚きからか目を見開いた。




「なんですか? これは?」




「あぁ、この前、数日間、魔王城を空けただろ? あの時、東の神山にいる神様ボコったらこれをくれた。転生に必要なアイテムらしい」




「なんと! 神を!」




アルジールの尊敬の眼差しがすごかった。




神——正確にはこの世界に3体だけ存在するといわれる3神の1人である【黄金の神】ユリウスといわれる神がいる。


俺はそのユリウスをボコってこの転生アイテムを手に入れたのだが、神というだけあって、実際それなりに苦戦した。



10回戦えば1回くらいは負けるかもしれない。


俺から言わせても、神ユリウスとはそういう相手だった。




そんな神をボコってもらった虹色に輝く宝石に俺の魔力を注ぐと宝石は更に周囲に虹色の光を撒き散らし始めた。




「これが最後だぞ? 覚悟はいいか?」




かなり急な展開だが、これで躊躇するくらいなら来ない方がいいだろう。少し寂しくはあるがそれも仕方ない。



しかし——。




「えぇ、お供致します」




力のある声でアルジールは俺の人間への転生に付き合う事に同意した。


せめて普通は家族に相談したりするものだろうにフットワークの軽い奴だ。




そして、アルジールの意思を確認した俺はありったけの魔力をそのまま宝石へと注ぎ込むと、俺とアルジールの身体は宝石からあふれ出た光に包まれ、魔王城・玉座の間から消え失せた。

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