第179話 ミリネの騎士
ガタン!
大きな音は、長椅子が倒れた音だ。
「ミリネ! どうして……」
さっきまで、ゾンビ化したゴブリンのようだったゴリアテが、これ以上ない驚きの顔で立っている。
「お父さん、ただ今!」
フォーレに背を押されたミリネが、ゴリアテに近づく。
大男は、飛べない鳥のように両腕を動かしていたが、やっとミリネを抱きしめた。
「ミリネ……」
俺はカウンターの裏に置いてあった「閉店」の看板を手にすると、それを表戸にぶらさげておいた。
親子の再会を邪魔されたくないでしょ。
「みなさん、お茶を出しますから座ってください」
キャンがみんなに声をかけると、腹ペコのリンダがすぐに言った。
「なにか食べるものもお願い!」
しかし、それほど大きくない食堂が、俺の友人、知人でいっぱいになっちゃったね。
「フォーレ姫、あの事をゴリアテに伝えたら?」
ラディクは、おそらく昔そう呼んでいたであろう名でフォーレに話しかけた。
「ええ、そうでした。ゴリアテ、ここは宿屋でしたね?」
「あ、ああ、そうだが?」
ミリネを抱いたまま、ゴリアテが赤い目をこちらへ向ける。
「私たちを泊めてくれないかしら」
「どういうことかな、フォーレ?」
「だから、私とガオゥン、それからミリネが宿泊してもいいかしら?」
「そりゃいいが……いつまでだ?」
「そうねえ、ミリネがお嫁にいくまでかな?」
それを聞いたミリネが、ぱっと振りむく。
「フォーレさん、あ、いや、お母さん、なに言ってるの!」
「だって、あなたには、命懸けで守ってくれるナイトがもういるじゃない?」
「えっ!? い、いないわよ、そんな人!」
ミリネ、なぜ俺を見ながらそれを言う!
「あら、ここに来るまでの間、ずっとグレン君の話をしてたのは誰かしら?」
えっ? どういうこと?
「グレン、俺と決闘しろ!」
おい、ガオゥン、俺を吊りあげるなよ!
「いずれにしても、グレンには責任を取ってもらわねばな」
ルシルが聞きずてならないことを言う。
「師匠……じゃない人! どういう意味ですか?!」
さすがに、ここは言わせてもらうよ!
「ほほほほ、鈍いのう。グレン、お主、ミリネが教会に追われることになったきっかけを覚えておるかな?」
マール? きっかけって言っても、俺、それがなにか知らないし!
こっちが知りたいよ!
「彼女が事故で死にかけた時、その体が白い光に包まれて、なぜか元気になっていた。そうじゃな?」
あれ? ルシル、あの時その場にいなかったけど、いったい誰から聞いたんだろう?
「まあ、そうですけど……」
「グレン、まだ分からないのかな? この前、『西の関』で、君が【浄化】の魔術を唱えたら、私たちの怪我が治ったのはもちろん、『秘薬』で死ぬはずの白ローブも蘇ったでしょ」
ラディクが、噛んで含めるように説明する。
確かに、言われてみれば、そのとおりだ。
「そうでしたかね?」
「あいかわらずだね、君は! 気づかないようだから、はっきり言うと、以前ミリネが馬車の事故に巻きこまれ死にかけたとき、彼女の命を救ったのは君だってこと」
えっ!? ということは――
「ミリネが教会に追われることになったのも、君が、いや、君のスキルが原因だってこと」
なんですとー!!
ど、どうしよう……。
「グレン君、本当にありがとう! あなたは、二度にわたってミリネの命を助けてくれたのよ!」
立ちあがったフォーレが、俺の頭を胸に抱える。
うん、ふにふにふわふわ~!
これ、確実に【ラッキースケベ】が発動してるでしょ!
「グレン! あんた、なんて顔してるの!」
ミリネが俺を桃源郷から引きはがす。
「お母さん、気をつけて! こいつ、油断ならないんだから!」
あー! そんなこと言うと――
「グレン、ワシと決闘だ!」
ほら!
「グレンは、いつもキャンとセリナがいっしょニャ!」
小柄なケットシーラの娘二人が、それぞれ俺の左腕と右腕にぶらさがる。
「グレン! あんたはどこまで――」
パチーン!
鳴ったのが自分の頬でなければ、すっごくいい音したー!
以前もミリネにこんなことされた気がする。
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