第177話 別れ

 白ローブたちは、そのほとんどが呆然と立ちつくしていたが、何人かは森へ逃げこもうとしていた。

 俺がそちらに踏みだしかけると、ラディクに止められる。


「剣は武器屋、盾は防具屋」


 勇者はそんなことを口にしたけれど、これって「モチはモチ屋」みたいなことわざかな?

 あ、黒服の男たちが、森から出てきて白ローブを捕まえちゃったね。

 あれ、コレンティン王国の暗部『黒狼』だよね。

 危ない危ない、近よらなくてよかった。


 マールがぼうっと立ちつくしている白ローブの所から帰ってくる。


「あやつら、やはり禁忌の術を掛けられておった」


「洗脳魔術か。これは城の魔術師どもが、これから苦労するじゃろう」


「ルシルよ、それがそうでもないみたいだぞ。どうやら洗脳は解けておるわ」


「じじい、もうろくしたのう。洗脳の術がそう簡単に解けるわけがなかろう」


「だが、確かに解けておった。おそらく、先ほどグレンがつかった魔術のせいだの」


「……やっぱりお前のせいか?」


 ルシルが、こちらを睨みつける。

 なんで睨まれなくちゃいけないのか分かんない。


「いや、そんなこと訊かれても、さっぱり分かりませんって」


 ちらりと横を見ると、フォーレにミリネが抱きついていた。

 自分の母親が誰か、ようやく知らされたらしい。

 その二人をガオゥンが巨体で抱えるようにしていた。

 包容力ハンパないな。


「じゃあ、後の仕事は三国の王と女王たちに投げてしまおう。私はしなくちゃいけないことがあるから、みんな馬車でワーロックの『翡翠亭』に向かってくれないか。あそこで落ちあおう」


 ラディクが、少し沈んだ声でそう言った。

 カフネのことで、なにかするんだろうね。

  戦いの間、姿を消していた白馬二頭が、いつの間にか客車の所へ戻ってきていた。

 

「グレン、お前は前だ」


 ゴリアテめ! 俺のこと「グレン坊」て呼んでたのが、「グレン」になったのはいいけど、御者席に乗せるつもりだな!


「ミリネ、元気でな!」


 あれ? ミリネ、一緒に行くんじゃないの?


「お、お父さん……」


 ミリネは、フォーレとガオゥンの間に立ち、必死で涙をこらえている。

 ゴリアテが白馬に鞭を当てると、馬車は速度を上げた。

 それもそうか。やっぱり本当の家族だもんね。

 馬車は、沈む夕日に向けひた走る。

 まったくとんでもない一日だったよ。

 


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