第176話 中二病スキル

「グレン! グレン!」


 光に呑みこまれ、白く染まる意識の中で、懐かしい声を聞いたような気がした。

 やがて。ゆっくり、本当にゆっくり周囲が見えだす。

 すぐそばに倒れているフォーレの体に、そして、黒く焦げたガオゥンの体に、光の粒が集まっている。

 光る粒は傷つき倒れている仲間たちも覆っていた。

 

 最初に動きだしたのは、ドラゴンママだった。


『私の坊や、よくやったね』


 え? 俺、なにかしたの?

 なんか無我夢中だったから、少し記憶が飛んでるみたいだ。


 あっ! 

 紅い目のドラゴンは?

 ……動いてないな、骨だけになってる。


 白ローブたちは?

 あー、なんかみんな倒れてるけど、一人一人の体からあふれだした光の粒が合わさり、光の帯となり空へ昇ってる。それはまるで光の川だった。

 秘薬を飲めば消えるはずの白ローブたちの体が、なぜか消えてないね。

 悪い薬が浄化されたってこと?


「グレン、今のはなんだったんだい?」


 お、ラディクが復活したか。


「グレン、いったいなにをしたんじゃ?」


 ルシルも元気そうだね。


「グレンよ、今の技はなんなのだ?」


 賢者マールは、こんな時でも知識欲ですか。


「ミリネ!」

「お父さん!」


 ゴリアテとミリネが抱きあっている。

 ミリネの顔は、ゴリアテの胸に押しあてられているから見えないが、悲しい顔は、きっともうしていないだろう、なぜなら――。


「む、どういうことだ? なぜ、生きてる? ミ、ミリネは?」


 大の字で立ったまま動かなかったガオゥンが、今は不思議そうな顔で自分の身体を撫でている。


「私、どうして……ミリネはどこ?」


 フォーレがゆっくり立ちあがる。

 

「フォーレさん、ガオゥンさん」


 二人に呼びかけ、ゴリアテに抱きついたミリネの方を指さす。

 

「ああ、ミリネ! 無事だったのね!」

「うむ……良かったな」


 フォーレとガオゥンは二人より添い、ミリネをじっと見ている。

 ゴリアテがこちらを向く。

 彼はミリネを連れ、ゆっくりフォーレたちに近づいてきた。

 それを見て、俺はその場を離れた。ここからは、時間だからね。


「グレン! 君も無事だったのか?」


 頭に赤いバンダナを巻いた、小柄な少年がやってきた。


「ああ、ルーク、そうみたいだ」


「ボク、火の玉が当たって自分が死んだって思ってたんだけど、なぜか平気だったんだ。なんでだろ?」


「さあ、なんでかな?」


 とりあえず、そう言っておこう。

 

「おい、グレン! さっきのはなんだ? 説明ぐらいしろ! お前、私の弟子だろうが!」


 ルシルが興奮した顔で詰めよってくる。

 いや、あんたさっき俺のこと破門って言ってたよね!


「グレンよ、それよりあの方々の説明を頼めぬか」


 マールが白い杖を向けているのは、巨大な黒い竜とその横にいる、ひとまわり小さな白い竜だ。


「うーん、知りあいのドラゴンさん?」


「そんな説明があるか!」


 マールじいさんが怒っているけど、これは仕方ないよね。

 黒い方が俺のママだって言っても、絶対に信じてもらえないから。

 ところで、あの白い竜はなんだろう?


『おいおい、分からないのか?』 


 白い竜からの念話か!


『そりゃ、分かりませんよ。だって会ったばかりでしょ』


『いやいやいや、ずっと一緒にいたではないか!』


 白い竜が、首をブンブン振っている。


『えー! 白いドラゴンなんて初めて見ましたよ』


『いや、本当は黒いんだが、なぜか白くなったんだ』


 白いドラゴンの頭をドラゴンママが翼で撫でる。


『坊や、お前はホワイトドラゴンになったんだよ』


『ええと、この白い方って?』


 思わずドラゴンママに尋ねていた。


『お前の兄さんだよ』


『ええー!? 俺のお兄さん? ドラゴンママの子供?』


『なにを当たり前のことを言ってんだい。お前が「ピュウ」って呼んでたのがこの子さ』


『ええっ!? だけど、ピュウは、小さなフクロウですよ!』


『まだ分からないのかい! この子の足をよく見てごらん』


 あっ、ドラゴンママの紋章がある。これって、俺と一緒。つまり、ピュウのと一緒っていうことは……。


「ピュウ! ピュウなの!?」


『ああ、本当はそんな名ではないが、お前はそう呼んでいたな』


「どうして、ピュウがドラゴンに?」


『もの分かりが悪い子だよ! この子は枢機卿とか言うヤツに呪いをかけられ、フクロウにされてたんだよ』


 ドラゴンママが、首をぐるぐる回した。


『まあ、今回は、この子のお手柄だね。なんせ、フクロウの姿でレッドマウンテンの私のところまで飛んできたんだから』


 そういえば、三日ほど前からピュウの姿が見えなくなってたな。

 なるほど、だからドラゴンママが助けに来てくれたのか。


『あんたにゃ私がつけた紋章があるから、危険になれば分かるんだけど、それまで待ってたら、間に合わなかったね』


 確かにそうだね。


『呪いが掛けられた時、切れていた紋章の繋がりも戻ったし、そういう意味ではあんたもお手柄だったよ』


 え?

 俺、ドラゴンママに初めて褒められてる?

 なんか、かなり嬉しいんですけど!

 まあ、とにかくやっと終わったって感じ?

 やれやれだよ全く。


 ゴゴン


 なんか音がする。

 

 ゴゴン


 めちゃくちゃイヤな予感がするなあ。

 振りむきたくない、振りむきなくないけど……。


 グォオオオオオ!


 ああ、やっぱり、さっきのフラグになっちゃった?

 紅い目のドラゴン、骨だけの状態で復活しちゃってるよ!

 仕方ないね、例のヤツやるかな。


「みんな、離れて!」


 紅い目のボーンドラゴンの口が開き、そこから炎が洩れる。

 こいつ、まだブレスが撃てるのか!

 だけど、そうはさせない!


「グレン! 膝を着け!」

「早くするのじゃ!」


 あれ、マールとルシルの声が聞こえる。

 じゃあ、とりあえず、地面に膝を着いてと。

 骨のドラゴンをよく狙って一発。

 

「地獄の底まで、ぶっ飛べ!!」


 ブオッ!


 顔に砂まじりの風が吹きつけ、思わず目を閉じる。

 あれ?

 なんの音もしないけど、俺のスキル、さっきの骨ドラゴンに当たってない?


 目を開けると、さっき骨ドラゴンがいた辺りまで、地面が深くえぐれている。

 あー、だから砂が飛んできたのか、って、紅い目のドラゴン、どこにもいないじゃん?

 もしかして、こんなときの定番、上か?

 空は青く晴れわたり、雲一つ、ドラゴン一匹いない。


「あれ? あのドラゴンはどこ?」


 それには、ルシルが答えてくれた。


「グレン、ヤツはちりのように粉々だぞ」


 それなら、なんでそんなに怖い顔してるの?


「グレンよ、あれを見るのだ」


 マールが白い杖の先を空へ向ける。

 うん、青い空の向こうには白い月が出てるね。

 ん?

 なんか変だぞ、あの月……。

 白い月は、その端が丸く欠けていた。


「ええと、あれって三日月――」


「この馬鹿者が! お前のスキルが月を削ったんじゃ!」


 ルシル……ど、どうしよう!?


「だから、【スキルゲージ】は「1」にしておけと、あれほど言っておったろうが!」


 いや、マールさん、あんた、さっき【スキルゲージ】の解放を許可したよね! 


「「「グレン!」」」


 えっ? ミリネまで?

 いや、これは、俺、絶対悪くないと思う。  

  

 






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