第145話 夜襲

 目が覚めると、辺りはまっ暗だった。

 俺以外のみんなは、昼間からずっと宴会してたから、部屋のベッドに一人横になっていたんだけど、いつの間にか寝てしまったらしい。

 お腹がキュウキュウ鳴っている。

 朝食べたきりで、ずっと何も食べてないもんね。


 他のベッドから寝息が聞こえるから、ミリネたちも帰ってきて寝ているらしい。

 なるべく音を立てないよう、ベッドからそっと降りる。

 テーブルの上に置いた、鳥かごの辺りから、ピュウの声がする。


「くるっ、くるっ」


 あれ、いつもの鳴き声じゃないぞ。

 何か警戒しているような鳴き方だ。

 それに、カゴの中でカチャカチャ動きまわってる。

 最近、なぜか夜目が利くようになったから、それが見えるんだけどね。


 カチリ


 小さな音がして、ゆっくり部屋の扉が開いていく。

 寝る時はカギを閉めるよう言われているから、それを誰かが外したらしい。

 ヤバイ感じがする!


 俺は、慌ててステータスを表示する。


*************************

 補助スキル:スキルゲージ 

 01………………………50……………………100

*************************


 ちゃんと、「1」のところが点滅してるな。

 よし、いつでも来い!

 

 入ってきた黒い人影は、三人だった。

 一人がさっと動くと、今の今まで俺がくるまっていた毛布に何かを突きたてた。

 これはもう襲撃者にまちがいない。


「ぶっ飛べ!」


 スキルが発動する。

 俺のベッドを突いたヤツが、後ろにふっ飛ぶ。

 その体が、入り口にいた二人を巻きこみ、扉をぶち破った。


 ゴゴッ、バーン!

 ガチャーン


 そんな音がした。

 最後の音は、ヤツらが中庭に面したガラス戸をつき破った音だろう。


「ううん、な、なに?」


 ミリネの寝ぼけた声がする。


「くるっ、くるっ」


 おや!

 ピュウがまだ警戒してるぞ!?


 振りかえった俺に、黒い影が音もなく襲いかかる。

 窓から入ってきたヤツがいたのか!

 体を投げだしながら、空中で叫ぶ。


「ぶっ飛べ!」


 襲撃者の体が、俺のスキルでドンと弾かれる。

 

 ガチャーン!


 部屋のガラス戸を撒きちらし、そいつは屋外へ飛ばされた。

 まだ、他にも敵がいるかもしれないから、ゆっくり窓へ近よろうとしたその時……。


 カッ


 急に部屋が明かるくなったのは、ミリネが無詠唱で放った灯りの魔術だろう。

 しかし、いきなりのことに、一瞬視界が白くなる。

 すぐに周囲が見えきたが、部屋の外に倒れていたはずの襲撃者が逃げていく後ろ姿がチラリと見えた。


「グレン! 何があったの?!」


 さすがに、ミリネの声も緊張している。


「ベッドの後ろに隠れて!」


 見えないところでガサガサ音がするのは、キャンとセリナが身を隠そうとしているのだろう。

 宿のあちこちで、もの音や叫び声が上がっている。

 どうやら、襲われたのは、この部屋だけではないらしい。

 そういえば、今になって気づいたが、ルシルは部屋にいなかったんだね。


 カツカツカツ

 ドスドスドス


 そんな足音がして、壊れた入り口から現れたのは、ラディクとガオゥンだった。


「ミリネ!……さん。大丈夫か?!」


 そう叫んだガオゥンに抱きしめられ、ミリネが当惑した顔をしている。


「グレン! 君も大丈夫かい?」


 ラディクは、俺を心配してくれたようだ。


「ええ、そこから三人、外から一人、襲ってきました」


 俺は壊れた入り口と窓を指さした。


「中庭で倒れていた三人は捕えてある。あと一人は、どうした?」


「あっという間に姿を消しました」


「そうか……何か気づかなかったか?」 


「外から襲ってきたヤツの方が、強かったみたいです。ピュウが教えてくれなかったら、やられてたと思います」


「なるほど。とにかく、無事でよかった」


「あと……」


「なにか気づいたのか?」


「気づいたってほどじゃありませんが、そいつが逃げる時、姿が一瞬だけ見えたんです」


「どんなヤツだった?」


「黒装束でしたから、どんなヤツかは分からなかったんですが、滑るような感じでスーって動いてました」


「……」


 ラディクは、今まで戦いの時でさえ見せなかった厳しい表情になり、その後、一言もしゃべらなかった。




 



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