第86話 相談(下)

 王都ギルドが誇る、三人の金ランク冒険者、剣士コウチャン、山賊トカレ、魔術師メイリーンに連れられ、湖畔に立つ瀟洒なレストランに来ている。

 いかにも高そうな店で、俺など一人では絶対に来られそうにない。


 二階にある個室に通された俺たちは、凝った彫刻が彫られた、やけに背もたれが高い椅子に座り、食事が来るのを待っていた。

 目の前のテーブルには、美しい幾何学模様の青いクロスが敷かれ、その中央には果物が盛られた大皿があった。

 とてもよい甘い香りが漂っているは、その果物からだろう。

 湖が見える窓からは、時おり心地よいそよ風が入ってきて、カーテンを揺らしていた。


「かーっ、まったく、あのギルマスにも困ったもんだぜ! 原因が分からないから、それを調査しろって? そんなあいまいな調査が一番困るんだよ! せめて、どんなドラゴンが原因かって依頼を出してほしいもんだぜ!」


 いつものコウチャンらしくなく、感情を露わにしている。

 

「まあ、そう言うな。本当に原因が分からないんだろうぜ。今回は仕方ないだろう。それに、原因が分からなくても、それなりの報酬は約束されてるしな」


 こちらも、いつものトカレらしくなく、分別くさい話をしている。


「ええとね、ここで食事しようって言ったのは、その事で話があったからなの」


「おい、メイリーン、お前、『三つ子山事件』について、何か知ってるのか?!」


 あの出来事、そんな名前まで付いちゃったのか……。


「話があるのは、私でなくグレンなの。さあ、グレン、相談ってなんなの?」


 俺はツバを呑み込むと、スキルに関する部分だけ伏せ、残りの全てを話した。


「「「……」」」


 誰も何も話さない。

 給仕が食事を持って入ってきても、それは変わらなかった。


「「「……」」」


 三人とも、無言で食べている。

 しょうがないから、俺も食事に口をつけた。


 なにこれ!

 すっごく美味しい!

 地球にいた頃も合わせて、記憶にある限り、一番旨いぞ!


 柔らかく、滋味あふれるステーキ。

 空色のスープは、すっぱさと甘さが絶妙のハーモニーを奏でている。

 デザートのケーキ、これがまた最高!

 ふわふわの生地に果物が一杯入っていて、なんだろう、もう死んでもいい?


 気がつくと、先に食事を終えた三人が、じーっと俺を見ている。

 俺が食べおわると、なぜか三人同時にため息をついた。


「「「ふう~」」」


「あのー、俺、どうしたらいいですかね?」


「「「……」」」


 しばらく沈黙が続いた後、やっと山賊トカレが口を開いた。


「……そのだな、お前が山に向かって『ぶっ飛べ!』したとき、誰かに見られたか?」


「いえ、見られてません」


「それは確かか?」


「そう訊かれると困りますが、周囲に誰もいませんでした」


「だろうな。スキルの確認をするために、そこへ行ったわけだからな」


 トカレは、遠くを見るような目をした。


「とりあえず、黙って成りゆきにまかせるってのを勧める。他の者には絶対に話すなよ。たとえ、ラズナにもだ。他に知られたら、えらいことになるぞ」


 コウチャンが、怖いほど真剣な目でこちらを見て、そう言った。

 彼らのパーティメンバーである弓師ラズナは、ギルドからの依頼で、格下のパーティにつき添い、討伐に出ているそうだ。


「私も、秘密にすることを勧めるわ」


 メイリーンさんが、首を左右に振っている。


「ま、そういうこった。だが、俺たちの調査依頼には同行してもらうぜ」


 山賊トカレは、意味ありげな笑みを浮かべ、俺を目を覗きこんできた。


「わ、分かりました」


 俺はそう答えるしかなかった。

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