第58話 帝都のギルド(上)


 夜が明けるとともに厩舎から追いだされたミリネと俺は、街の中をとぼとぼ歩いていた。

 ミリネが持つ地図によると、乗合馬車の駅から学園まではかなりの距離がある。

 まったく、帝都ってどんだけ大きいんだろう。

 店もまだ開いていないから、白壁の街並は静かなものだ。

 どこからか、パンを焼くような匂いが漂ってきた。

 

 クゥ


 ゴムを擦りあわせたような音がする。

 横を歩くミリネが早足になる。


「ミリネ、どうしたの?」


「な、なんでもないわよ!」


 なぜか怒っているようだ。


「もしかして、さっきの音、ミリネのお腹が鳴ったの?」


「ばっ、馬鹿っ! なんてこと言うのよ! そんなはずないじゃない!」


 くりくりした目が泳いでいるし、尻尾しっぽの揺れ方がいつもと違うから、これは間違いないな。


「どこかで何か食べようよ」


「あんた、体は大丈夫なの?」


「うん、少しだるいけど、昨日よりマシ」


「そう、じゃあどこか食事できるところを探そう」


「ちょ、ちょっとゆっくり歩いてよ、シンドイから」



 ◇


 早朝なのに人が出入りしている大きな建物を見つけた。

 食事らしき匂いも漂ってくる。

 俺たち二人は、その建物に入った。

 入ってすぐに気づいた。

 ここって、ギルドじゃないの?


 左手にカウンター、右手にテーブル席、壁に貼りだされた無数の紙。

 今まで見てきたギルドと同じだ。ただ、やけに部屋が広い。

 クレタンギルドの三倍はありそうだ。

 冒険者たちの姿も、どこか違う。

 おしゃれと言うか、装備がキラキラしている。

 鎧なんて、もう顔が映るほどピカピカだ。

 

 部屋の奥に受付とは違う小さなカウンターがあり、冒険者たちはそこで食べものを買っているようだ。

 ミリネはさっさとそこに向かうと、おじさんと何か話している。

 戻ってくると、彼女は俺の手を引き、一緒にテーブルに着いた。

 

「すぐに用意できるって。なんか、やたら高いんだよ。ここの食事ってウチの食堂に比べると五倍近い値段だね」 


 なんだそりゃ!

 帝都ってそんなに物価が高いの!?


 ミリネがカウンターから運んできた食事は、お粥のようなものだった。

 米ではなく、穀物のようなもので作ってあり、ベースは何かのお乳のようだ。

 セルフサービスのお粥が銅貨二十枚、つまり二千円ってどんだけ高いんだよ!


「うーん、あんまり美味しくないね」


「ああ、それ、私あまり好きじゃない」


 ええーっ、自分が嫌いなもの頼むなよ!

 

「でも、病気の時はそれって決まってるの」


 ミリネは木のトレーに並べたお皿から、焼きたてっぽいパンをちぎって食べている。

 ウインナーや、イモのようなものをグリルした料理が旨そうだ。


「うーん、やっぱり、お父さんのより美味しくない」


 少し分けてもらおうとしたが、断られてしまった。

 美味しくなくても、お粥よりそっちの方がマシだと思うんだけど。


「おい、お前ら新人ルーキーか?」


 やけに目つきが悪いお兄さんが、声を掛けてくる。

 傷だらけの革鎧と光沢がある素材の服を着た彼は、俺の世界なら誰が見ても山賊とか海賊って判定しそうだ。

 来ましたね! これ、イベント発生でまちがいないよね?

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