第56話 スキルの謎


 ダンジョンを出た後、ミリネと俺は、ルシル校長に連れられギルドへとやってきた。

 俺たちを個室に押しこむと、ギルマスに話があるとかで、校長は部屋を出ていった。

 二人掛けのソファにミリネと並び無言で座っているんだけど、どうも居心地が悪い。


「グレン」

「ミリネ」


 同時に話しかけ、お互いに苦笑してしまった。


「あんたから話しなさいよ」


「う、うん、ええとね、来てくれてありがとう」


「なによそれ! あんたらしくないわね。それに私が『赤い剣』に捕まったとき、あんたが助けに来てくれたじゃない。だから……お互いさまよ」


「そ、そうかな。ええと、そういえばさっき言ってた呪文は何?」


「呪文って何よ?」


「地獄の火がなんたらってやつ」


「ああ、『地獄の業火に焼かれちまえ』ってやつ?」


「そう、それ! なに、あのカッコイイ呪文?」


「あんた、覚えてないの? 森でフォレストボアから私を助けてくれたとき、自分で叫んでたじゃない」


「えっ? 俺、あんなこと言ったっけ?」


「間違いなく言ってたわ。あんたがそう言ったら、火柱が立ったのよ。さっきもそうだったけど」


「つまり、それって俺が魔術を使ったってこと?」


「たぶんね」


「でも、俺、魔力ないんだよ?」


「そんなわけないじゃん。魔術が使えてるんだから」


「うーん、ホントに使えてるのかなあ」


「なんでそんなに自信ないのよ?」


「だって、いろんな言葉であの化けものをやっつけようとしたけど、何も起こらなかったんだよ?」


「どんな言葉を試したの?」


「死ねとか、どっか行けとか――」


「ああ、そんなこと言ってたわね」


「結局、何か起こった言葉は、『ぶっ飛べ』とさっきの『地獄なんちゃら』かー」


「あんた、自分の呪文、覚えときなさいよね! いい? よく聞きなさい。『地獄の業火に焼かれちまえ』よ」


 よく考えると、かなり恥ずかしい言葉を叫んでいたようだ。

 

「ミリネ、声が大きいよ! もっと小声で話してよ」


「どうして? あんた、もしかして私と二人だけでここにいるのを、誰かに知られたくないんじゃないんでしょうね?」


「ちっ、違うよっ!」


「もしかして、受付のレシーナさんじゃないでしょうね?」


「ど、どうしてそんなことになるんだよ!」


「なんか、怪しいわね」


「ち、違うよ!」


 そのとき部屋の扉が開き、ギルマスのフッカさんとルシル校長が入ってきた。


「おい、ウチのレシーナがどうしたって?」


 ギルマスが三本のカギ爪を俺に突きつける。


「おい、早く話を始めろ」


 校長が救いの手を差し伸べてくれた。

 それより、校長ってギルマスより偉いの?


 ギルマスと校長は、向かいのソファーに並んで腰を下ろした。

 フッカさんが、おもむろに口を開く。


「いきなりで驚くだろうが、お前たちは帝都にある魔術学園に入ってもらう」


 ホントにいきなりですね!

 驚くに決まってるでしょ!

 あれ? 

 ミリネは、全く驚いてないみたい。

 なんで?


「あらかじめミリネには言ってあったが、冒険者学校は魔術を学ぶのに十分な施設ではないからな」


 ミリネは、ルシル校長から前もって話を聞いてたんだね。

 

「俺も一緒に行くんですよね? ミリネの従者みたいな立場でしょうか?」


「いや、お前も生徒として学園に入学してもらうぞ」


「だけど、俺、魔力ゼロですよ?」


「ああ、そうだな。だが、この際、そんなことは気にするな。明日朝には帝都行きの駅馬車が出るから、今日中に荷物をまとめておけよ」


 強制ですね、これは。けれど、ミリネが心配だから、とりあえず行ってみますか、その魔術学園とやらに。

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