第21話 黒い鳥

「ねえ、グレン。もうそろそろ帰ろうよ」


「まだダメだよ、ミリネ。せっかくのダンジョンだよ。それに、まだ元が取れてない」


「馬鹿ね、元なんか取れるはずないじゃない。だって、ここは第一層よ。手に入ったとしても、スライムの魔石がせいぜいなんだから」


「だったら、スライムをもっと倒せばいいじゃない?」


「あいかわらずスライム脳ね! スライムの魔石一つが銅貨十枚でしょ。 私たちが装備に使ったお金が銀貨五枚。銅貨百枚で銀貨一枚だから、スライムの魔石五十個取らないといけないのよ!」


「じゃ、スライム五十匹だね」


「もうっ! このスライム頭! スライムから魔石が取れるのは、二匹に一匹くらいでしょ。百匹は狩らないといけないのよ!」


「じゃ、スライム百匹だね」


「だから、そんだけ狩るのにどれほど時間が掛かるのよ!」


「たくさん?」


「ふう……もう、アンタには愛想が尽きたわ! 私、もう帰って水浴びしたいの! それからご飯を食べて寝る! そんなにダンジョンが好きなら、アンタだけ、ずっとここにいればいいわ!」


「あれ? 何か聞こえない?」


「もう、ちっとも人の言うこと……近くで羽音がするわ! きっとスモールバットよ! 気をつけて!」


「ミリネ、あそこ見て! 何かいるよ」


 通路の奥、行きどまりになった壁の辺りに、何か黒いものがうずくまっている。


「気をつけなさい! 変異体かもしれないわ!」


 俺たちが覗いていた暗がりから、コウモリが二匹、スライムが三匹、合計五匹のモンスターが現われた。


「ミリネ、コウモリは任せて! 君はスライムを頼むよ!」


「わかったわ!」


 俺はひらひら舞うコウモリに向けショートソードを振る。

 その一匹をあっさり切った。

 すごい?

 いや、こいつらすっごくゆっくり飛んでるから、これくらい誰でもできるよ。

 結局、それほど時間を掛けず、五体のモンスターを倒すことができた。

 カサカサ音がする方へ近づいていく。

 

「あっ!? これって……」


 ミリネの言葉に俺が続けた。


「フクロウ!?」



 ◇ ― ミリネ ―


 グレンが見つけたのは、小さなフクロウだった。

 でも、こんな色は初めて見るわね。

 フクロウは、闇のような黒色をしていた。


「ピュウ、ピウ」


 可愛い声で鳴くフクロウだが、得体が知れない。


「ミリネ、俺が飼うよ」


「馬鹿ッ! モンスターかもしれないのよ! それにほら、凄く傷ついてる。もう長くないだろうから、このままにしておくのもいいかも」


「何言ってるの! 昔から魔法使いの少年は白いフクロウを飼ってるんだよ! コイツは、ボクが飼う!」


「えっ! なに? 魔法使いの少年? このフクロウ、白くないし! それに、なんで今だけ「ボク」なの!?」


 混乱している私を尻目に、グレンはフクロウを抱えあげた。


「どう見てもそれ、もう助からないよ」


 私はそう言ったが、グレンは納得しなかった。


「神よ、哀れなこの生き物に愛の手を!」


 そんなワケが分からないことを口にしている。

 あいかわらず意味がない事するわね、グレンは。


「ええーい! おい、神! さっさと降臨して、こいつを癒せ!」


 また、馬鹿なこと、言って――


「うわっ! ま、まぶしい!」


 グレンが両手に載せた黒いフクロウを中心に、上下に光の柱が立った。

 少ししてそれが収まると、フクロウが目を開けていた。


「おおっ! こいつ、元気になったみたい!」


 グレンは喜んでいるが、私にはフクロウが生きていけると思えなかった。


「これ、俺が飼うから!」


 私がつかえる言葉は、これしかなかった。


「どうぞご勝手に!」


 それにしても、さっきの光は何だったのかしら?


 


 





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