第6話 覚醒?


「ええと、この辺りに温かいものがあるでしょ、それをキューっと手の方へ動かして、ポンって感じですよ」


 ミリネは自分のおへその辺りに手を当てる。


「……」


 この前ミリネから魔術の話を聞いてから、俺はそれに夢中になっている。

 だって魔術だよ! 火魔術とかドーンと派手に唱えたいじゃない!

 そう思って仕事の合間にミリネから魔術を教わっているのだが、どうも上手くいかない。

 彼女の教え方に問題があるんじゃないかなあ。


「きゅーっ、ポン。きゅーっ、ポン。きゅーっ、ポン。きゅー……先生! 無理みたいです、ぜぇぜぇ」


「せ、先生!?」


 ミリネが驚きと残念さが入り混じった顔をする。ぴくぴく動く耳もそうだが、このは表情がとても豊かだ。

 

「うーん、これでだめなら、一度ワンドを使ってみたらどうでしょう」


「ワンド?」


「このくらいの木の棒です。小型の魔法杖ですね」


「くう、せっかく異世界に来たのに魔術が使えないって、何の罰ゲームだよ!」


「私の話、聞いてます? それにバツゲームってなんですか?」


 すでにテンパってる俺は、ミリネに答える余裕などなかった。

 そのため、思わず中二病の地が出てしまった。床に置かれたロウソクに向かい叫んだのだ。


「くそう! 我が呼びかけに応じ、火よ来たれ!」


 ボンッ


 突然、サッカーボールくらいある火の玉が現れ、爆発した。


「きゃっ!」


「熱っ! 熱つつつっ!」


「ウ、ウオーター!」


 ジュッ!


 俺の服についた火は、頭からかぶった水で消えた。

 ミリネが生活魔術で水を創ったんだろう。

  

「どうしよう、床が焦げちゃった!」


 ミリネが泣きそうな顔でそんなことを言っているが、初めて魔術が使えた俺は有頂天になった。


「うおーっ! これで俺も爆炎の魔術師だ!」


「ああ、お父さんに叱られちゃう……」


「さあ、練習練習! きゅーっ、ポン。きゅーっ、ポン。きゅーっ、ポン……」


 結局、その後、喉が枯れるまで呪文を唱えつづけたが、再び火の玉が現われることはなかった。

 なんであの時だけ成功したのかな? まぐれ?

 そして、ゴリアテさんからチョー叱られた。

 手の皮が擦りむけるくらい、タワシっぽいもので焦がした床を磨かされたうえ、晩飯抜き。

 燃えた服の分は給金から引かれるんだって。

 とほほほほ。


 ◇ ―  ミリネ ―


 最近、宿屋うちで働くようになった、グレン君。

 最初見たときは、とっつきにくいと思ったけど、話してみると普通の人だった。

 ああ、普通というのはちょっと違うわね。

 時々、私の知らない言葉をつかうし、誰もいないところで変なポーズを取ってブツブツつぶやいてることもある。

 そして、なぜか一回だけ成功した、今日の魔術。


 あれは凄かった。

 まるで、一流冒険者の攻撃魔術みたい。

 実際にはそんなもの見た事ないんだけど。

 あれだと、ゴブリンなんか一撃でやっつけられるんじゃないかな。

 でも、どうしてあの後いくら練習しても魔術が成功しなかったんだろう。

 一度唱えられるようになった魔術は、コツが掴めて何度でも使えられるのが普通なのに。

 とにかく謎が多い人ね、グレン君って。

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