18 綺羅星堂の日常(2)

 それと、もう一つ。

 落書きされた後じゃ、素直に喜べないけど、昨日の災害で2つに割れたはずの冒険帽ピスヘルメットは、今日になってくっついていた。


 僕には、夜中に魔法使いが呪文を唱えて元通りにしたかのように、不思議でならない。

 なのでアルミに尋ねる。


「そうだ。なんでヘルメットがくっついてるの?」


「それ? 土瀝青アスファルトに吸引力のある隕石を合成して作った、強力なノリでくっつけたのよ」


「アスファルト? ノリ?」


「アスファルトは道を舗装する時に使うんだけど、大昔からノリとして使われていたのよ。ほら? くっついて離れない」


 そう言うとアルミはピスヘルメットを引きはがそうとする。

 本当だ。全然はがれな――――。


 パカッ!


 と、思ったら。

 両手で卵の殻をわるように、ピスヘルメットは2つに離れた。


 「あ!?」と、声を上げ、気まずそうに困り顔を見せるアルミ。

 アルミは笑って誤魔化す。


「アハハ……ノリが乾いてなかったのね。大丈夫よ。またくっつけて乾くまで放っておけば」


 彼女は割ったヘルメットをくっつけて、店のカウンターの隅に静かに置いた。

 

 ここまでアルミとした会話を、密かに観察している視線を、間近でヒシヒシと感じる。

 圧の強い視線の先へ、恐る恐る顔を向けると、生意気なアトムが威嚇いかくする野良犬のように睨んでいた。

 

「ぼ、僕に何か用?」


 生意気なアトムはアルミに目線を配った後、なんでか僕を怒鳴りつけた。


「お前を倒して、俺はメテオ・チルドレンになるからな!」

 

 な、何? 僕とアルミが打ち解けて話すのが、そんなによくないの?

 倒す、とか変なフラグを立てないでよ!


 5歳の子供は、それだけ言い残して店の外へ飛び出していった。

 駆け出した兄アトムを、妹のウランがひよこのように追いかける。


「お兄ちゃぁん! 待ってぇ!」


 店の外へ出て行った幼い兄妹に、姉御役のアルミは忠告だけする。


「ちゃんとお昼ご飯には、帰って来なさいよぉ!? もう、いつもどこへ走っていくんだか……」


 綺羅星堂ここにいる間、毎回、こんなコントみたいなことを続けるのかな?

 アルミが今日のニュースを聞くため、ラジオを付けると、ちょうど流星予報のコーナーが流れてきた。


『はーい! 今日もキラキラ元気。カドパンこと、流星お姉さんのカドミです! 昨日は予報がハズレてしまいましたぁー。うっかり! そんなこんなで、今日も不安定な空模様で流星が降り出しそうです。では予報に行きましょう!』


 あれだけの大惨事になったのに、予報をハズした本人はあっけらかんとした声音で予報を続ける。

 噂は聞いてたけど、流星の災害が日常的な町は、これが普通なのかな?

 予報を聞いたアルミは号令をかけた。


「さぁ、今日も忙しわよ? さっさと準備しな――――ニホ」


 僕は相棒バディに力強く答えた。

 

「了解――――アルミ!」

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