10 1、2、3……

 振り上げたハンマーで、落下してきた隕石を打ち返すと、彼方に金属の乾いた音が響く。

 相変わらず気持ちよい音を鳴らすアルミとは逆に、まるっきり打ち返せない僕は、気分が落ち込む。


 ゾディアック・ストリート・うお座4番街に来てからの僕は、降って来た流星から逃げ回り、落ちた隕石に吹き飛ばされ砂をかぶり、アルミのハンマーに守られて彼女に怒鳴られる。

 これの繰り返し。

 

 いい加減、じゃじゃ馬娘に怒鳴られってぱなしはしゃくだ。

 やってやる! 見てろアルミ。


 ハンマーを肩に乗せて腰を落す。

 1で振り出して、2で当てに行き、3で振り上げる。

 落ちてる隕石は1つ。


 よし、来い!

 よーく見て、よーく――――ちょっと待って?

 煙の中から何か見える。

 隕石の後から2つの隕石が付いてくる。

 隕石が3つ同時に降って来たぁ!

 アレどすればいいの!?


「やっぱりダメだぁ!」


「丸めて!」


「は?」


 アルミが叫びながら、僕の方に走って来た。

 彼女は両手で持つハンマーを空へ高く放る。


「背中を丸めてぇ!」


 隕石よりも迫力ある走りで、じゃじゃ馬娘が迫って来た。

 怖くなって言うとおりに、身体を前に倒して背中を丸めた。

 伏せた顔をアルミに向けてると、まだ向かって来る。

 そのまま突進してくるのだと思いきや、アルミの足は僕の手前で消えた。


 彼女は空いた両手で僕の背中を付くと、地面に押しつけられる感覚が広がる。

 アルミは馬跳びで僕の身体を飛び越えた。

 驚いた僕はよろけて地面に倒れる。

 すくに起き上がりアルミを目で追った。

 着地した彼女は僕の盾になるように、隕石と対峙していた。


 金糸のようなポニーテールを揺らすアルミは、右腕を天高く上げて手を広げる。

 馬跳びをする前に放り投げたハンマーが、落ちて来て持ち主の手に収まった。


 彼女は上げた腕を下ろして、ハンマーを構える。

 アルミのヒットフォームはスカッシュ。

 重くて両手で持つのも辛いハンマーを、細い腕の少女は片手で軽々振り回す。

 チュチュのようなスカートをヒラヒラとはためかせながら、片手ですくい上げるように、鉄球の着いたハンマーを振る。


 鉄琴てっきんを叩くように、アルミが横から殴るように振るったハンマーは、落ちてくる隕石は端から順に、次々と当たり跳ね返る。

 3つの隕石は空の彼方へ飛んで行った。

 一仕事終えると、アルミはこっちに顔だけ向けて睨む。


「次当てなかったら、ハンマーでぶっ叩くって言ったよね?」


「待って待って待って? 3つも飛んで来たら打ち返せないないって!」


 隕石を3ついっぺんに打ち返した、アルミのハンマーが後ろ向きへ飛ぶ。

 身体を回転させて拳の裏で殴ることを、裏拳と言うけど、まさか、それを鉄球の着いたハンマーでやるなんてありえない。

 当たったら隕石と同じくらい危険だ。


「ごめぇんっ!!」


 僕はピスヘルメットを押さえてしゃがむ。 

 すると、金属の弾く音が頭の上で響く。

 てっきり僕の頭にハンマーが当たったのかと思いきや、振り向くと背後から飛んで来てたであろう隕石が跳ね返り、川を登る魚のように夕焼けに帰っていった。


 ち、血の気が引くってこういうことなんだ。

 膝が笑って立ち上がれない。

 流星より彼女の方が危ないかも?

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