5 命をはる仕事はマニーが高いのよ

 ハンマーを振り回して、命懸けの仕事をする。

 こんな仕事、好きでできるものなの?


「アルミは何で流星打ちなんて、危険な仕事してるの?」


「お金がもらえるから。それだけ」


「それだけ?」


「私、パパもママも5歳の時に降ってきた隕石に当たって、死んじゃったんだ」


「えっ……」


 まずい、これは爆死する質問だ。

 アルミは構わず話す。


「家も隕石で壊れたし、それでストリート生活」


「へぇー……」会話しずらい。

 

「で、ゴミ拾ってお金稼いでたんだけど、1日中ゴミ拾いしても、ジャガイモ1個くらいのお金しか稼げなくて。毎日おなか空いてたの」 


 大変だったね、とか言ったほうがいいのか?

 これ、どう話を返せばいいの?


「3日くらい空腹で我慢できなかったとき、その辺の雑草を食べたんだけど、それ毒だったのよ」


「毒?」


「それでストリートで死にかけたわけ」


 想像も出来ないようなできことに息を飲んだ。

 彼女は赤ちゃんの頃に、ひっくり返ったことのように軽々と話す。


「そうそう。その時、たまたま通りかかった人に病院へ連れてってもらって命拾い。その助けてくれた人がウチの店のオーナー」


「え? そうなの?」


「オーナーは私を拾ったついでに、流星打ちとして雇うことになったわけ。ま、世間様が言う”メテオ・チルドレン”ね」


「でも、危ない仕事でしょ?」


「うん。あんたが来る前にも働いていた子が居たけど、頭に隕石が当たって死んじゃった」


「ホント?」


「うん、ホント」


 お母さん。

 今初めて僕は、大変な仕事をしていることに気が付きました。

 でも、先頭を歩きながらポニーテールを揺らす彼女は、そんな危険と毎日隣合わせで働いています。

 女の子がそんな危ない仕事、平気なのかな?


「怖くないの? アルミも、いつか死んじゃうかもしれないし」


「でも、ゴミ拾いしてたと時よりお金もらえるから、こっちの方がいいかな。毎日お肉食べられるし」


「お肉も大事だけど」


「あんただってそうでしょ? 出稼ぎに来て実家に仕送りする為に、ウチの店で働きに来たんでしょ?」


「うん」


 まぁ、話してもいいかな。


「採掘場で、山に落ちてきた隕石を掘る仕事をしてて、掘り起こした隕石を量りにのせて、重さでお金がもらえるんだけど、そこの親方が意地悪でさ」


「意地悪?」


「量りがあまり動かないように、細工してたんだ。だから多く隕石を掘り起こしても、全然お金にならなくて」


「嫌な大人」


「僕も隕石で、お父さんが死んじゃって、代わりにお母さんが働いてるんだけど、兄弟が5人で弟も妹も小さくて働けないんだ」


「よく聞くビンボー家族ね?」


「そういう言い方やめてよ……だから家族がご飯で困らないように、お金がいっぱいもらえる、流星打ちの仕事をしようと思って」


「ほら、そうでしょ?」


 そう言うとアルミは、人刺し指と親指をくっ付けて、輪っかを作るとイタズラぽっく笑いながら言う。


「やっぱり、命をはる仕事はマニーが高いのよ」


*****


「よぉ〜アルミ〜。もう下っ端連れてんのか〜」


 アルミは返事をする代わりに、眉を細めて白けた目で見返した。

 

 3人組のハンマーを持った男の子。

 真ん中の鼻先が団子のように太くて髪がモヒカンの子供は、ガタイが大きくやたら態度もデカイので3人組のリーダーのようだ。

 袖が肩から千切れたデニムの上着を着て、こっちのアルミよりも重そうな大きいハンマーを担いでいた。


 その陰に隠れるように2人の子分であろう子供がいた。

 顔もはんぺんみたくのっぺりしていて、いまいち記憶に残らない子分達だ。


「アルミ。誰?」と聞き返すとアルミは虫を追払うように片手を振って、面倒くさそうに教えてくれた。

 

「この地区で流星打ちしてる、いわゆる同業者。ガキ大将って言われてる」

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