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昼になるとゴメスのカンチョー話はすでに下火になりつつある。みんなの話題や興味というのは、眼には見えないがそこらじゅうで自然発生してはあっという間に消えていくことを思うと、儚きことだ。無から生まれてくるような不思議さを頭のいい大人が解析しようとしても無駄としたものだが、そういうのがやりたくてしょうがない大人というのはいつの時代でもいるものらしい。
「やっさんメシ食堂いかねーか?」
「ミカちゃん、サッカー部一年は食堂禁止だ。百人以上いるからな。」
「あ、そうだったっけ、それもつらいなぁ。そういえば、今日、美術の授業でバヤスにめっちゃからまれたよ、なんなのアイツ。すげぇしつこい」
「声低いだろ。試合中はもっとすごいぜ、よく聞こえるんだよ」
「あのすごい声の人サッカー部なの? めっちゃ目立ってるよね」成瀬さんが会話に参加してきた。
「そうでしょ。アイツモテるらしいよ。自分で言ってたから。やっぱ成瀬さんもバヤス気になったりする?」やっさんはからかうように成瀬さんに話をふったが、自分ではとてもこうはいかないと感心した。
「え、知らない、顔見たことないもん。声だよ声、なんか超音波みたいじゃない? 低くてさ、無駄に響いてる。あれが地声って公害レベルだよ。しかも自分でモテるとか、キモすぎでしょ。三上氏の周りはヤバいのばっかだね」
「いや、俺は関係ないし、俺は一番フツーだよ」
「普通の人は0点取らないよ、漫画じゃないんだから」
0点というのは、学校生活においてここまで人格を否定されるものなのかと、改めて重みを感じた。自分はたいして重く考えていなかったが、周りの評価というものが自分の思い描いているものとかなり違いがある。挽回するのは骨が折れるだろう。何故かといえば、数学のテストは何度でもやってくるからだ。
「一度見ておくか」隣の席で黙って話を聞いていた栗山さんが言った。この人が無言でいると、一見、神秘自己集中しているような様子であるが、実は眠いだけだったりせいぜいメシのことを考えている程度だと思われる。ほとんど自分と変わらないのではないか。ただ黙っているとはったりがきくことは確かだ。自分の場合はこうはいかない。
成瀬さんに腕をつかまれて連れて行かれるところだったが、断固として断った。ついていけばもめるのは目に見えている。
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