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「俺は女子にカンチョーしないよ」


「すればいいじゃん。0点取って女子にカンチョーしたら伝説になれるぜ」バヤスの絡み方がくどくなってきたので自分は相手にしなかった。


「ゴメスはシャツに腕いれるたびに破るようなヤツだからな」


 自分はバヤスの話を無視してキャンバスにとりかかった。まずは下塗りである。


「シカトか? 笑えよ。俺の話で笑わないのはおめえぐらいだぜ」バヤスがすごんだ。


「バヤスの周りにはバカしかいないのか? 10年前のハリウッド映画の悪役でも言わんぞそんなセリフ」


 自分の物言いがキツくなるのもバヤスが常に上から目線で会話のいちいちにこちらを服従させなければ気がすまないところがあるからだ。今までがそうであっても、これからの人生、それでやり通せるはずがない。


「俺もおめえには少しビビってるかもな、0点取るなんてまともじゃねぇ、それもスカして0点とかじゃねぇからな、そんなんだったら別に怖くねぇ、むしろカスだ。ところがミカちゃんは全力を出して0点なんだ。つまり完全にバカなんだ。俺だったらふるえてるよ! 死にたくなって学校にだってこれねぇかも、 でもミカちゃんは全然気にしてない、ヤベぇだろ」


「0点取ったぐらいで大げさだな」


「俺は取ってねェ! 取ったのはおめぇだよ! ミカちゃんだよ! 聞いてんのか?」


「俺は女にカンチョーしないよ、今のところはゴメスの方がバカだと思うな」


「バカはバカを呼ぶからな。ゴメスのバカはまだ笑えるけど、ミカちゃんのバカはヤベぇやつだ」


「俺のイメージはさ、こんな運動がすごい学校の生徒ならみんな勉強なんてまるでダメだと思ってたよ。イメージと違ったな。バヤスは頭いんだろ? やっさんだってたいしたもんだ。なんだかんだ赤点取ってないし。運動やってる連中はみんな俺ぐらいバカであってほしいよ」自分は心の底からの感想を言った。


「ほんとによく受かったよなその頭で。しかも運動の実績ゼロ、なんの部活もしてない。うちの学校で帰宅部なんて10パーセント切るぞ、10パーて分かるか?」バヤスは頭がいいと言われてもう機嫌が持ち直したようであった。


「少ないってことだろ? 10人ぐらい?」


「ミカちゃん、全校生徒が600人として、10パーって分かるか?」バヤスの目はいきいきと輝いてきた。こうやってバカをからかうのが生きがいなのだろう。


「だから10人ぐらいってことだろ、知らんよそんなこと」自分は真剣に相手をしなかった。正直言うと、パーセントに弱いと言うのもある。


「ミカちゃん見てるとさ、学校の怖い話とかでほんとは不合格なんだけど生贄用として合格させてやるってのもほんとなんだなって思えてきた。こりゃ実話だわ」


 バヤスは小さな椅子に座って周りのことなど気に掛けることもなく大股を開いていた。そして上半身を折り曲げてから首を傾けてこちらの顔を覗き込んで笑っていた。苦労してようやく相手の弱みを探し当てた悪魔のような笑い声だ。この男の基本は残虐性なのでしょうがない。願うのは電車の座席で大股を開いてくれるなのみである。しかし笑い声があまりにも不気味なので教師に注意された。

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