5.先言


「話し合う必要はない 分かり合う理由がないのだから」

そう言って目を閉じ耳を塞ぐ 息を殺し心臓を止める

硬直し始めたその体から 同時に温もりも失われていく

機能が停止した臓器 脳も含めて 溶けてなくなっていく

そういう存在にいつか焦がれた だからなれた

言葉をも失くし 今や話すことは叶わないが 願いは叶った


墓標として突き立てた骨は あの詩のように白白と・・・

今際の際の言葉も 今頃風に乗って 波に砕けているに違いない

外気に触れて縮こまった魂だけが 今なお上を目指す


「話し合う必要はない 分かり合う理由がないのだから」

そう口癖のように言っていた言葉が 私の最期の言葉となった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る