宇宙人もおそれる恐怖の存在

ちびまるフォイ

必要があればいつでもどこでも出張

「コレハナンダ」


「ニホンノアニメラシイ」

「アニメ?」


地球を監視していた宇宙人はそこで初めてアニメの存在を知った。

世界観も独特でキャラクターが乱立するアニメは

宇宙人にとって異文化中の異文化だった。


「コレハオモシロイ」


宇宙人はすっかりアニメに魅了されて、

秋葉原でチェックのシャツとアニメのポスターを購入し

デカいリュックの両脇に挿して、シャツをズボンの中に入れた。


「もっともっとアニメを知りたい!!」


アニメをアホほど見ていくうちに

唯一の特徴でもあったカタコトを克服してしまった。


宇宙人はさっそくアニメのドンを襲撃した。


「ひぃぃ、お願いだ命だけは!」


「オマエの命などなんの興味もない。我々が興味あるのはアニメだけだ」


「あ、アニメ……?」


「もっと、もっと我々にアニメを提供するのだ」


「し、しかしアニメづくりは簡単なものではなく……」


「口答えはゆるさん」


宇宙人はビーム光線を発射して床を焼いた。

FPSゲームで敵の頭を撃ち抜く小学生くらい無邪気な殺意を感じた。


「わ、わかりました! すぐに用意します!」


「よろしい」


すでに宇宙人は地球上の誰よりもアニメを楽しんでいた。


なにせ娯楽など皆無な漆黒の宇宙に長くいたために、

たとえ自称アニメ通が鼻でせせら笑うような作品でも名作に感じた。


「スバラシイ。もっと作れ」


「ええ、しかし、これ以上のハイペースはヤシガニになりますよ」


「ヤシガニ?」

「作画崩壊してしまいます。品質も劣化します」


「一向に構わん」


アニメは地上波で放送されることもなく宇宙人に向けて渡された。

作画崩壊しようとも宇宙人は内容そのものを深く楽しんだ。


「オモシロイ! もっと! もっとだ!!」


中毒気味になった宇宙員はもはや地球人にいちいち頼むのもわずらわしくなった。

そこで強行策に打って出た。


「おい、なんだあれ……?」


「いいからさっさと次の原稿あげろよ」


「いや、ヤバイって! ああ、窓に! 窓にUFOが!」


びびびびびっ。


UFOから発せられたアブダクト光線を浴びたアニメ製作者たちは

そのままの状態でUFOに捕らえられてしまった。


「チキュウジン。キサマらに話がある」


「な、なにをする気だ!? 人体実験か!?」


「ここでアニメを作れ」

「えっ」


「ワレワレはもういちいち受取りに行くことすら無駄に感じている。

 ここで作ったものをその場で見たい。回らないスシのように!」


「なんで宇宙人がそんなことを……」

「口答えすればコロス」


「ひいいい!」


「カクゴしろ。キサマらはココデ昼夜問わずアニメを作り続ける。

 オマエたちの健康はワレワレが完全管理する。

 睡眠も食事も常に万全の状態で延々と作り続けるのだ!!」


宇宙人に捕らえられた人間たちは生きる機械として

ひたすらにアニメを作成し続ける毎日を奴隷のように送った。


けれど、その顔はむしろ捕らえられる前よりいきいきしていた。


のちに救出された彼らはその時の様子をこう語る。


「いやぁ、正直宇宙人の用意してくれた環境のほうが楽でした」


と。



話は戻り、人間が拉致されたことで世界は天地をひっくり返す大騒ぎになった。


「アニメ製作者がのきなみ連れてかれたんだぞ!」

「これは人間と宇宙人との全面戦争だ!」

「はやくアニメを見させろー―!」


混乱する人々の声をうけて地球人奪還作戦が行われた。

けれど、宇宙人の圧倒的に進歩した科学力の前に太刀打ちできなかった。


「だ、ダメだ……もう誰も助けることはできない……!!」


地球人からの攻撃を受けた宇宙人は迷惑そうにもとの惑星へと戻っていった。


「ココなら地球人からも攻撃されないナ」


故郷の惑星でアニメを作り続けた宇宙人は、それをほかの宇宙人にも見せていった。

とくに子供へのウケがよく惑星は幸せに包まれた。


「ああ、もう地球なんかに帰りたくない。

 自分の思った話を好き勝手に作れて、

 そしてこんなにいい環境でアニメが作れるなんて幸せだ」


この頃には地球人も宇宙環境に慣れて居心地の良さを感じていた。

地球から遠く離れた惑星には地球から誰も来ることはない。


助けが来ないことを悟ってもなお幸せを感じていた。


「やはりアニメはスバラシイ。これはもっと惑星中に広めたい」


アニオタ宇宙人は惑星全体にこの文化を浸透させるべく、

科学技術を動員して放送アンテナを惑星中に取り付けた。


「コレで惑星中の宇宙人が楽しんでもらえるナ」


モニターの設置が終わった宇宙人を見て地球人は凍りついた。


「な、なにやってる! そんなことしたら――!!」



 ・

 ・

 ・


やがて、惑星から地球人はすべて救出されてもとの場所へと返された。


「こうして、さらわれた地球人たちを取り戻せたのも

 惑星に行くための道を切り開いてくれたおかげですよ!」


「いえ、私達は仕事をしたまでです。

 どこにいてもけして見逃しませんから」


「あなた方の組織名を教えてもらえますか?

 なんていう名前の特殊部隊なんですか? 宇宙警察とか?」


「いえいえ、そんな大層なものでは……」


職員たちはニコリと笑った。



「ワレワレはNHKです」



今でもその組織名を聞くと宇宙人は怯えるらしい。

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