第5章16幕 偽者<impostor>

そうして案内所へとやってきた私達は、掲示板を物色し、面白いクエストを探します。

 「んー? これもないなぁ」

 エルマがぶつぶつと呟きながら掲示板を眺めています。

 その横で私もクエストを探しているのですが、『湿地保護国 パラリビア』で受けられる地域クエストはどれも生物や環境の調査系依頼が多いようで、あまり面白そうではありません。いえ。面白そうなんですが、ちょっと刺激が足りないんじゃないかなって思います。

 「おっ! これなんかどう?」

 別の掲示板を見ていたプフィーが声をあげました。私とエルマがそちらに歩いていき、プフィーが見つけたクエストの詳細を確認します。

 『『湿地保護国 パラリビア』首都『グージー』から『オレイア』までの馬車護衛』と書かれていました。

 「なるほど。護衛系か。護衛系があるってことは……」

 「ユニークモンスターが出る可能性が……」

 「あるってことだね」

 エルマ、私、プフィーの順にセリフリレーを行い、クエスト内容を確認しました。

 「これしかないね!」

 エルマが一言そう言うと、掲示板からビリッと紙をはがし、クエストを受けにカウンターまで走っていきました。

 「あっ。そう言えばなんだけど」

 プフィーが私に話しかけてきました。

 「ん? なに?」

 「チェリーって私の戦闘スタイル知ってる?」

 「いや。ごめん。知らない」

 「だろうね。護衛系任務なら知っててほしいから伝えておくね。手袋型のクローを装備する格闘スタイルだよ」

 「そうなんだ」

 臨時3人パーティーとはいえ、近距離、中距離、遠距離がそろっているのはとてもありがたいです。護衛任務失敗するとNPCが死んでしまうので。

 

 武器の詳細や使用可能スキルなどの確認をしているとクエストを受けたエルマが戻ってきました。

 「おまたせ。案内所の職員が連絡を取って、依頼人呼んでくれるってさ。すぐ来るらしい」

 「分かった」

 エルマにもプフィーの装備構成やスキル構成を話していると、すぐに依頼主がやってきました。

 「これはこれはおそろいで。依頼人のウーゴです。ここではなんですので、落ち着ける場所でお話ししましょう」

 「わかったよー」

 エルマが頷き、案内所を出ます。

 「では馬車で私のお店に参りましょう。フリオ、出してください」

 「はっ」

 フリオという御者に指示を出し馬車を走らせたウーゴは馬車の内部で、お店について教えてくれました。

 「じゃぁ、その生物から取れた希少素材を運搬したいということですか?」

 「はい。そうです。ならず者の話は聞きませんが、〔迅雷大蛇 ボルチルド〕という恐ろしいモンスターが出ると聞きます。そしてそのモンスターの好物が、今回の荷物なのです」

 「なるほど。事情は分かりました。できる限りのことはしますし、お怪我することなく『オレイア』まで護衛させていただきます」

 「もうすぐ店に着きますので続きはそちらで致しましょう」

 「はい」

 そう返事をするとすぐにお店に到着したようで私達は馬車から降ります。

 「フリオ、この方たちを案内して」

 「はっ。では皆様こちらです」

 お店ではなく倉庫のような場所に歩いていくウーゴを見送り、私達はフリオに案内され、お店へと入ろうとします。

 「ん?」

 扉を開けるフリオに少しの違和感を感じましたが、その正体が何か分からなかったので一度保留にします。

 「えっと……あっ。こちらですね。こちらにかけてお待ちください」

 商談用のソファーでしょうか、高級そうな革張りのソファーに案内されたので座ってウーゴの戻りを待つことにします。


 それから十数分ほどしてウーゴがやってきました。

 「お待たせしてしまい、申し訳ございません」

 「いえ。大丈夫ですよ。では改めて依頼の確認をしましょう」

 「そうですね」

 「私達は、ウーゴさんたちが運ぶ希少素材を野党やモンスター等から守る。つまり護衛を担当させていただきます。ここまではよろしいですか?」

 「はい。相違ありません」

 「では報酬はいくらでしょうか?」

 先ほどクエストを見た際に気付かなかったのですが、このクエストには報酬が提示されていませんでした。

 「取引先から受け取った代金のうち一割というのはどうでしょうか?」

 「おおよそいくらくらいでしょうか?」

 「取引先様がいくらの値を付けてくださるかは分かりませんが、いつも通りであれば1000万金程度で売れていますので100万金ほどお渡しできると思います」

 護衛で100万金? なかなか高報酬です。

 ちらりとエルマとプフィーを見て同意をとり、改めてクエストの依頼を受けました。

 「早いに越したことはありませんので今か……」

 そこまでウーゴが話すと、ドンという大きい音が聞こえます。

 すぐに立ち上がった私とエルマが声を出します。

 「何の音!?」

 「確認してきましょうか?」

 するとどこからの音なのか心当たりがあるように、一部を見つめていたウーゴとハリオがこちらに向き直り、返事をします。

 「あっ。い、いや。よくこの辺りは野生の動物が出るからね。何かにぶつかったんだろう」

 その歯切れの悪い言葉を聞いた私は、先ほど感じた違和感があったので、≪探知≫を使って見ることにしました。

 エルマに目くばせをすると、理解してくれた様で、コクリと頷きます。

 「でもすっごい音だったよ! 商品とか大丈夫かなぁ!」

 「≪探知≫」

 私の身体から発せられた、空気の膜が店とその隣の倉庫まで広がっていきます。


 なるほど。そう言うことでしたか。

 

 『ごめん。少しパーティーチャット借りるね』

 ステイシーとマオとサツキに断りを入れ、パーティーチャットでエルマとプフィーに伝えます。

 『えっと、外の倉庫に、5人拘束されてる。その中にウーゴとハリオがいる』

 『最初からなり替わってたのか』

 エルマがそう返事をしてきます。

 『ここは泳がせた方がよくない? ここで戦闘沙汰は起こさないほうがいいと思う』

 プフィーが言っていることも一理あるので、ここは泳がせてみましょう。


 「あー! やっぱり動物が壁に当たっただけかもしれないね!」

 「そうだね。私もそう思う」

 「ドジな動物もいるね」

 「そ、そうでしょうそうでしょう。ではこちらが商品です」

 そう言って偽ウーゴが取り出したのは〔アンゴラ・キング・フィッシュの肝〕と私の目には表示されました。

 とつぜん口をぽっかりと開け、魂が抜けたような顔でシャットダウンしそうな私を見て、偽ウーゴが気分を良くしたようで、延々とこのゲテモノについて語っています。

 

 再起動を完了した私の脳内では、絶滅させたつもりだったのに、と再生され続けていますが、現にここに存在する以上絶滅には失敗していたようです。

 それにしてもこの食べた人を須らく≪嘔吐≫の状態異常にしてしまう悪魔の魚を見ていたら腹が立ってきました。

 自然と拳に力が入りますが、エルマの「押さえて! 押さえて!」というジェスチャーを見て落ち着きます。


 ここは話を合わせないといけませんよね。

 「わ、わぁー。すっごーい。これがー、1000万金の食材かー」

 あっ。間違えて食材って言っちゃった。

 「なんかー。オーラ?がでてるよねぇー」

 そうですね。人を殺せるオーラが出てます。

 「だねぇー」

 私の棒読みにつられたのか、エルマとプフィーも何故か棒読みになっていました。


 「というわけなんですよ。貴重なものなので護衛お願いしますね」

 あっ。いつの間にか偽ウーゴのウンチク終わってましたね。

 「任せてください。これでも護衛任務は結構やってきましたので」

 「おお、心強いです。では行きましょう」

 そう言って歩きだす偽ウーゴ達をどうしようかなと考えつつ、後をついて行きます。

                                      to be continued...

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