第5章17幕 味見<taste>
「では参りましょう」
偽フリオが御者台に座り、偽ウーゴが馬車へと乗り込みます。
そして先ほど〔アンゴラ・キング・フィッシュの肝〕を収納した簡易倉庫を大事そうに抱え、こちらを見てきます。
「ここから『オレイア』まで一時間ほどです。よろしくお願いします」
「はい。お任せください」
私はそう返事はしたものの、どうするべきかと悩んでいます。
偽者だと断定する材料は確かにそろっています。しかし、「偽者なんで殺っちゃいました!」では案内所が許してくれないでしょう。とりあえず結論が出るまでは、当たり障りのない感じでやっておきましょう。
「ウーゴ様、誰か道をふさいでおります」
「では一度止めましょう。チェリーさんでしたか? 一緒に降りてもらってもいいですか?」
「わかりました」
首都『グージー』を出てから20分ほど経った頃、偽フリオが道を塞いでいると報告してきました。
私と偽ウーゴが馬車から降り、確認します。
「ここは馬車道ですよ。そちらにいられると馬車が進めませんのでどいてもらえますか?」
偽ウーゴがそう行く手を阻む男性に声をかけます。
「ジョンは知らんが、ケイトは知っているか?」
どういうことでしょう。ジョン? ケイト? 人名でしょうか。
「何を言っているのですか、どかないというなら実力で排除させてもらいますよ」
そう偽ウーゴが言うと、ふぅとため息を吐いた男性が右手を背後に回します。
きらりと光るそれは、忍者刀の様でした。
「偽者なのはわかった。後ろの女。かばい立てするなら容赦はしないぞ」
「いえ。偽者なのは気付いていましたよ。もちろん貴方と戦う理由はないです」
「そうか。助かる」
「えっ!? 気付いてたんかよ! いつ!? どこで!?」
こいつ頭悪いんじゃないですか?
「先ほど店で物音がした際、≪探知≫を使って知りました。それに違和感は結構ありましたし」
鍵の開け方に苦労する従業員とか、店内に詳しくない従業員とかなかなかいませんよ。現実の方でどうかは知りませんが。
「てめぇ……騙してたのか……」
「人聞きの悪いことを言わないでください。騙してたのは貴方達でしょう。〔アンゴラ・キング・フィッシュ〕とかいう絶滅すべき悪魔の生物を売ろうとしていますし」
個人的な恨みもひっくるめ、偽ウーゴに対して文句をいいます。
「よくわからないけど、野党? 手貸そうか?」
降りてきたエルマが私の横に並びそう言います。
「いや。どっちかって言うとこの偽者に用があるみたいだよ。どうなるか私は見てるだけ」
私がエルマに返事をすると、偽ウーゴが口を開きます。
「え!? 守ってくんないの!?」
「当たり前でしょう。偽者の依頼なんて無効ですよ、無効」
「お前たちが敵対しないのは助かる。御命頂戴致す」
そう一言告げ、道をふさいでいた男性が、偽ウーゴに切りかかります。
「うわあああぁ!」
偽ウーゴは情けない悲鳴をあげ、突然意識を失ったのか、下半身から液体を出しながら地面に倒れこんでしまいました。
「「「…………」」」
あっ。忍者刀の人も困ってる。
「チェリー、エルマ! 偽フリオ拘束完了!」
沈黙を破るプフィーの声に救われた形になりました。
失禁して涙と鼻水でぐずぐずになっている偽ウーゴも縛り上げ、男性と話します。
「ところで貴方は?」
「あぁ。俺は『オレイア』で流通監視人をやっているタイルだ。ここには張り込みってやつだ」
「どんな案件か聞いても?」
「構わんが、ここで話すのもなんだ。本部へ案内する。荷物もあるのだろう?」
「分かりました」
御者台に軽やかに上ったタイルが馬車を手繰り、再び『オレイア』に向けて出発しました。
足元に置かれた縛られてる偽者ズを踏みつけない様に細心の注意を払いながら馬車に揺られること30分程で『オレイア』に到着しました。
偽フリオよりもかなり扱いが上手かったですね。
「昔御者でもやっていたんですか?」
「まぁな。昔は商人でな」
なるほど。
「すぐ着くぞ」
そう言ってタイルは正面にある、そこそこ大きい建物を指さします。
「あれが本部だ。正確には、流通管理省オレイア支部だ」
支部ってことは他の所にもあるんですかね。というか省なんだ。
「俺だ。違反者を捕まえた」
タイルが扉を開け、そう言うと何人か屈強な男たちが裏から出てきて、偽者ズを抱えてどこかへ消えていきました。
「ご苦労様です。そちらの方は?」
最後に出てきた綺麗な女性がこちらを見て言ってきます。
「奴らが偽者を引き渡してくれた方々だ。談話室を借りたい」
「構いませんよ。では私も出席します」
そう言って階段に向かい歩きだし、途中で他の従業員に声を掛け、お茶を運ばせるように指示をしていました。
「手狭ですみません」
そう言って案内されたのは、談話室というよりは会社の会議室のような場所でした。まぁ会議室とかテレビの中でしか見たことがないので、実際どうか分かりませんが。
「失礼します」
私達3人とタイル、女性が談話室に入ります。
従業員がお茶を持ってきた後、すぐに会話が始まります。
「まずは謝礼を。お手伝い感謝致します」
椅子に座りながらですが、綺麗なお辞儀をしています。
「私はここの支部長のロコリと申します」
ろこり……。もしかして食べ物シリーズのNPCかもしれないですね。ブロッコリーの省略とかありそうです。
全く関係のないことを考えてはいましたが、口が勝手に動き、一応の自己紹介はしていました。
「事情をお聞かせ願えますか?」
そう言われたので、掻い摘んで説明しました。
「なるほど。偽者だとわかっていて、泳がせていたと」
「はい。あんなやばい物どこに売るんだろうとも少し気になっていました」
「やばいもの?」
「先ほど説明した〔アンゴラ・キング・フィッシュ〕です。食べると≪嘔吐≫を引き起こす」
「……そう言うことだったのですね」
何かが繋がった、でも認めたくないという表情のロコリに視線を送ると、その隣に座ったタイルが口を開きました。
「つまり、偽者が用意した商品ではなく、元々ウーゴが用意したものだったと断定していいんだな?」
「厳密には分かりません」
「支部長。ちょっと『グージー』に出張します」
「はい。許可します。帯刀、逮捕権を与えます」
「行ってまいります」
そう言ってタイルは談話室を出て行きました。
「急に仕事の話なってしまってもうしわけありません。順を追って説明しますね」
ロコリの説明だと、最近高級品と偽る毒入りの商品が急激に流通し始めたそうです。
それの対抗策として、物資の運送に使われる馬車道を張り込んでいたということだそうです。
あのジョンがなんたらって言うのはこの流通管理省が認めた商人だと証明するための暗号だそうです。
「つまり、本物のウーゴもアウトってことですよね?」
「はい。逮捕です。貴重な物だと偽って毒入りの商品を流通させるなんて言語同断です」
プンプンと可愛らしく怒るロコリに一つ話をします。
「〔アンゴラ・キング・フィッシュ〕って食べたことありますか?」
「ないです。ですが、〔アンゴラ・フィッシュ〕はとても美味しいですね。〔アンゴラ・キング・フィッシュ〕もさぞ美味しいことでしょう」
あっ。それは私と同じやらかしをする思考ですね。正しいことを教えてあげないといけません。
「実は私、〔アンゴラ・キング・フィッシュ〕食べたことあるんですよ」
「そうなんですね! 味はどうでした!?」
机に乗り出し、興味深々といった様子で聞いてきます。
「死ぬほどまずいです。食べたら数秒後に胃の中身を全てぶちまけることになります」
「えっ?」
「〔アンゴラ・フィッシュ〕は美味しいです。ですが〔アンゴラ・キング・フィッシュ〕は死にたくなるほどまずいです」
「え、えぇ……」
「なので私が絶滅させたと思ってたんですけど、残っていたみたいですね」
「えっ?」
今度はエルマを挟んで座っているプフィーが驚きの声をあげます。
「あの絶滅騒ぎってチェリーなの? みんな〔キング〕なんだからきっと旨い! って張り切って捕まえに行ってたんだよ!」
「ごめん。でも存在が許せなくて……」
「えっと……つまり、〔アンゴラ・キング・フィッシュ〕には毒があるわけじゃ無くて、マズイってことでいいのですか?」
引き攣った顔でロコリが聞いてきます。
「はい。そうです」
「あ……。ウーゴさんそのこと知らなかったのかな?」
「どうでしょうか。本人にはお会いしていませんので」
「ははは……」
ロコリの乾いた笑いが談話室を支配しました。
協力費ということで、本来支払われるはずだった報酬100万金を受け取り、私達は首都『グージー』まで転移魔法で帰ってきました。
to be continued...
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