第4章35幕 裏<behind >

 「『アースバルド』が見えてまいりました。副都市の中では2番目に面積が小さいです」

 「一番はどこなんですか?」

 クルミに私は質問します。

 「一番は『精霊の森 エレメンティアーナ』ですね。昔はもっと広かったらしいんですけど最近は森がどんどん死んでいるそうで、今では『エレスティアナ』最小の副都市になっています」

 本都のアンナが言っていたことと同じですね。

 「そうなんですか」

 「ええ。『アースバルト』は馬車で入ることができませんので休憩所で停まっていいですか?」

 「大丈夫ですよ」

 「わかりました。入口はそちらですね」

 そう言いながら、右折し、木造の建物へと向かいます。

 「では休憩所に着きましたので一度こちらに預けますね」

 御者台から飛び降りたクルミが担当の人と話をしているので、私達も馬車から降ります。

 降りてちらっとクルミの方を見ると代金を払おうとしていたのですぐにそちらに向かい、代金を私が支払います。

 「クルミさん。こういう時は私にいってください」

 「すいません。でも休憩所の使用料まで払って頂くのは気が引けてしまって……」

 「気にしなくていいですよ。次からは言ってくださいね」

 「わかりました。では皆様『アースバルト』』にご案内しますね」

 そう言って先頭を『地精洞窟 アースバルト』に向かって歩き出すクルミについていきます。


 洞窟と言っているので割と薄暗い感じを想像していましたが、そんなことはなく、天井を照らす青い光が夜空の様でとても美しいです。

 「綺麗」

 私がボソっと呟くと、クルミが言ってきます。

 「そうですよね。幻想的で、一度見たら死ぬまで忘れることはないでしょう」

 「そうですね」

 この光景は確かに忘れられないかもしれませんね。

 「土の精霊がたくさんいるので農作物がよく取れるんですよ」

 「でも意外じゃない?」

 エルマがそう言います。

 「植物って日光が無いと育たなくない?」

 ですよね。私も少しそこが気になていました。

 「いえ。土に栄養が非常に含まれていますので日光がなくとも育つのです」

 「「なるほど」」

 クルミの説明で納得しました。

 「正直なところ、『アースバルド』は農作物を作る事に関しては『エレスティアナ』随一ですが、他のことはまるで発達していないんです」

 そして、ほらというように家々を指さします。

 なるほど。家具が生きていないですし、『アクアンティア』や『フレイミアン』のような建物がありません。

 「なるほど」

 「副都市の中でも異色でして、とりあえず精霊神像を探しましょうか」

 「そうします」

 私はクルミにそう返します。

 「チェリー。別行動にしよー」

 ステイシーがそう言います。

 「いいよ」

 「じゃぁちょっと行ってくるー」

 「あたしも少し見てくるね」

 エルマもどこか行くみたいですね。

 「マオは、どこかで、落ち着いて、読書したい、わ」

 「でしたら飲食店がいくつかありますのでご案内いたします」

 愛猫姫とクルミも離脱、っと。

 私一人ですね。

 「じゃぁまた連絡するね」

 私はそう伝え、案内所を探し始めます。


 数分彷徨うと、あまり広くないというおかげか案内所が見つかります。

 中に入ると、少し埃っぽくあまり人が来ていないのかなと感じます。

 「これは珍しいね」

 狭い室内の、奥のカウンターから老婆が出てきます。

 「わたしゃここの案内所管理しとる。デルバというものさね。昔若いもんがいた時はデル婆といわれていたもんさ」

 「チェリーと申します」

 「ほう。外の人かい。これは珍しいね。依頼かい? それとも受注かい?」

 「いえ。少し聞きたいことがございまして」

 「なんだい? 言ってごらんね」

 「精霊神像を拝見したいのです」

 「ほう。精霊神像かい。何かの依頼の内容かい?」

 「そんなところです。副都市の精霊神像を全て回るというクエストでして」

 「なるほど。あんた……精霊駆動を手に入れようとしてるんだね」

 細かった目を開き、こちらをじっと見始めます。

 「はい」

 「何に使う気なんだい?」

 「個人的な移動手段です。精霊駆動の乗り物を作れれば、移動が楽になるかと思いまして」

 「ほう。そうかい。精霊駆動はね。凄まじい物さね。あんたがその入手方法をどこで知ったのかは聞かないがね、あまり広めんでおいてくれぬか?」

 「もちろんですよ」

 「そうかそうか。ならついて参れ」

 精霊神像に案内してくれるのでしょうか。とりあえずついていきます。


 案内所の裏口を出ると、そこは先ほどの『アースバルド』とは全く違う空間に出てきました。

 「あのここは……?」

 「我ら『アースバルド』が管理するもう一つの都市さね」

 魔物、モンスター、亜人が溢れんばかりの数がいます。

 「ここは……『捨てられた都市』さね。都市だけじゃない。捨てられたものがここに集められるのさ。人、亜人、魔人、モンスターに魔物……どれもこれも親から、世から捨てられた者たちさね」

 都市の裏にこんな都市があるなんて……。

 「このことを本都市は知っているのですか?」

 「逆にあんたに聞くよ。知っていて残っていると思うかい?」

 「その通りですね。失言でした」

 「気にすることはない。ここら一体瘴気が濃い。実際この間強い悪魔が湧いてしまってね。それを退治してもらえないだろうか」

 「私一人だと厳しいかもしれません。仲間を呼んでも?」

 「いいや。一人でやってもらおうじゃないか」

 うっ。ソロ討伐クエストですか。

 「この先の空間に閉じ込めているさね」

 「確かめてみてもいいですか?」

 「何をじゃ?」

 「強さです」

 「好きするといいさね」

 「では……≪探知≫」

 私を中心として薄い魔力の波が走っていきます。

 なるほど。悪魔。Lv.122のモンスターが壁の向こう側にいます。

 「あちらを討伐すればよいのですか?」

 「できそうかい?」

 「たぶんできます」

 「ならわたしゃここで待っておる。よろしく頼むぞ」

 「はい」

 そして私は一人で狭くなった入口をくぐり、奥の空間へと出ます。

 

 さて。どう倒しましょうか。

 目視で確認するまでもなく、敵の正体はわかっていました。

 〔マシナリー・ダーク・ビショップ〕。

 機械化されたモンスターですね。瘴気から出現したモンスターではありえません。

 また機械化されたモンスターと相対することになるとは思いませんでしたよ。

 どういう理由でここにいるのかはわかりませんが、とりあえず約束ですし、倒しましょう。

 『~~~~』

 スキルがきますね。

 機械化されたとはいえ〔ダーク・ビショップ〕なのは変わらないはずなので聖属性と光属性で障壁を張りましょう。

 「≪ホーリー・シールド≫、≪フラッシュ・シールド≫」

 〔マシナリー・ダーク・ビショップ〕の手から放たれた≪ダーク・ボール≫が私の障壁に辺り霧散しました。

 あまり、苦戦せずに倒せそうですね。

 では反撃です。

 「≪セイクリッド・スピア≫」

 放った聖属性魔法で〔マシナリー・ダーク・ビショップ〕の足を貫きます。

 「≪バインド≫」

 こちらは無属性魔法です。いま足を貫いた魔法に追加で発動させました。単体ですとただの拘束魔法にしかなりませんが、スピア等の貫通力に優れた魔法なら、敵を縫い付けることができます。

 これで一定時間行動を制限できますね。

 「≪サン・フレイム≫」

 【真魔導勇者】で使える絶級光属性魔法の中から火属性魔法との複合属性魔法を放ちます。

 それは地に縫い付けられた〔マシナリー・ダーク・ビショップ〕を足元からまばゆい光で包み込み、浄化していきます。

 聖属性魔法ではないのであまり浄化効果は高くないんですけどね。アンデッド系モンスターでしたら聖属性魔法じゃないと倒せませんしね。〔マシナリー・ダーク・ビショップ〕がキメラという系統なのは先ほどの≪探知≫でわかっていました。

 驚きはそのあとです。

 肉体が消滅したにも関わらず、機械化された部分だけで動き、≪サン・フレイム≫の効果範囲から抜け出してきました。

 火属性との複合属性でしたので、機械の部分が赤く変色はしていますが、気にせずこちらに向かって進んできます。

 なるほど。今までのは機械化したモンスターでしたけど、このモンスターはモンスター化した機械という感じなんですね。

 正確には制作者に聞かないと分かりませんけどね。

 「≪ライトニング≫」

 機械に向かって雷属性魔法を放ちます。

 一直線に進んでいった雷が機械の表面を走り、後方に抜けていきました。

 なるほど。雷魔法に対する耐性もばっちりというわけですね。

 さてどうしましょうか。

 移動速度も遅く、特に攻撃をしてくるわけでもないですが、次に乗り換えるモンスターを見繕われたら厄介ですね。ここには私しかいないのでそれは大丈夫でしょうが。

 一応洞窟の中なので派手すぎる魔法は使いたくないですからね。また地形を変えたとか言われたら、たまったもんじゃありません。

 なら近接戦闘あるのみですね。

                                      to be continued...

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