第4章34幕 うどん<udon>

 「もう出発致しますか?」

 脱衣所で服を着ながらクルミがそう聞いてきます。

 「うーんと。長風呂のステイシーが上がってからじゃないと出発はできないから、どこかでご飯でも食べて時間潰さない?」

 「あっ! さんせーい!」

 「マオ、も」

 「ということでどこか美味しいごはん屋さん知りませんか?」

 「でしたらこの温泉を出てすぐのところにあるおうどんのお店なんていかがでしょうか?」

 うどん。いいですね。

 「いいね! そこにしよ」

 「マオも、おうどん、食べたい、わ」

 「じゃぁそうしましょうか。案内してください」

 「かしこまりました」

 服を着て、温泉を出ます。

 うどん屋さんまで歩く少しの間、外の空気が温泉で火照った身体を優しく撫でてくれます。気持ちいいですね。

 うどん屋に到着し、私は個人チャットでステイシーにその胸を伝えます。

 すると、「わかったー。上がったら僕も行くからまっててー」、と返事があったのでうどんを食べながら待つことにします。

 「おすすめは何ですか?」

 私がそうクルミに聞くと、クルミは少し恥じらいながら答えます。

 「私の、まだ子供の、味覚なので皆様の御口に合うかわかりませんが、釜玉うどんがおいしいです」

 少し伏し目がちで、かつ恥じらいを持って言うと、なかなかに可愛いですね。

 「では私も釜玉うどんで」

 「あたしもー」

 「じゃぁ、マオも、そうする、わ」

 全員が釜玉うどんを食べることになったので纏めて注文します。

 「すいません。釜玉うどんを4人分ください。二つ大盛で」

 「かしこまりました。お待ちください」

 「ん? 二つ大盛? 一つはチェリーの分だよね?」

 「ううん。クルミさんとエルマの分」

 「なんでっ!?」

 「えっ!」

 「だってエルマはしゃぎまわっててエネルギー使っただろうし、クルミさんはこれからも御者で大変だろうからなるべくたくさん食べておいてほしくて」

 「なるほど! ってあたしそんな食べれないよ!」

 「平気平気」

 「お気遣いありがとうございます」

 「気にしなくていいよ」

 「チェリー。見て」

 愛猫姫がそう話しかけて、手に持った本を見せてきます。先ほど図書館から借りた本のようですね。

 「ここ」

 「どれどれ」

 私はほんの内容をよく確認します。

 『水に恵まれたアクアンティアと火に愛されるフレイミアン、そして土に恵まれたアースバルド。この三都市の共同によって作られる太い小麦麺は非常に美味である。精霊神が降臨なさる際は、必ず食すそうだ。』と書いてありました。

 「なるほど。それでか」

 TACの方で食べたばっかりでも、この文章を読むと確かに食べてみたくなりますね。

 「うん。楽しみ」

 「私も」

 「お二人さん仲がよろしいようで!」

 私と愛猫姫が額をくっつけほほ笑んでいると、頬杖をついたエルマが少し不貞腐れたような声で行ってきます。

 「マオが借りてきた本に絶品って書いてあったから、楽しみで顔がニヤついてただけだよ」

 「絶品! 楽しみだなぁ!」

 ええ。まずい物しか食べていませんでしたからね。かなり期待してしまいます。


 思い思いにうどんが運ばれて来るまでの時間を過ごします。愛猫姫は相変わらず読書でエルマは船を漕いでいますね。私はクエストのチェックをします。

 「チェリーさんは、何をされてるのですか?」

 「えっとね、私今、精霊神像を回っているんです。とあるクエストの為に」

 「そうなんですか。それで全部の都市を回るとおっしゃっていたんですね」

 「そうです。精霊駆動ってご存知ですか?」

 「ええ。もちろんです。でも価値の高いもので、そう簡単に手に入らないとも聞いております。もし簡単に手に入ってしまったら私達、御者の仕事はなくなってしまいますからね」

 「そうですね。だからこそ難しいのかもしれませんね」

 「ではどうしてそれが欲しいんですか?」

 「えっと……」

 「それはね!」

 寝ていたはずのエルマが飛び起き、説明を始めます。

 「こちらにいるチェリーさんは、動きたくない病なのだ! だから馬車をチャーターしたのさ!」

 えへんと自分のことのように胸を張っています。

 そもそも胸を張れるような内容じゃないんですよね。しかも自分のことですらない。

 「まぁそんなところです」

 「そ、そうだったんですか。私が常におそばにいればいつでも乗せてあげられるのですが……」

 「それはお仕事もあるでしょうし無理ですよ」

 私はそう言いつつも、少し残念な気持ちになります。

 「今のお仕事は自分でお客さんを載せないと御給金になりませんので……大変なんです」

 「なるほど……」

 もし、『ヨルダン』に『セーラム支店』を作ることになったら、『ヴァンヘイデン』の『セーラム』から『ヨルダン』の『セーラム支店』へ荷物を運搬する人がいると助かりますね。

 「もし……本当に借りのお話なんですが……。私のお店の支店が『ヨルダン』にできるかもしれないんです。そうしたらそこと『ヴァンヘイデン』の本店との間で荷物の運搬の仕事を依頼するかもしれません。もちろん御給金は一月で決まった額をお支払いしますし、多く働いてしまったらその分のお手当も出します。まだ仮の話なので、どうですか、とは言いにくいのですが、良かったら気に留めておいてもらえますか?」

 少し、『セーラム』の従業員を雇っていた時のことを思い出し、懐かしくなります。

 「本当ですか? 仮の話じゃなくなったら連絡をください。えっと……。このペンとこの紙で書けば私のもとに届きますので」

 クルミはそう言って私にセットをくれました。

 「なるべく早く伝えられるといいな」

 「お待ちしております」

 話がひと段落したタイミングを見計らったのかわかりませんが、うどんが運ばれてきます。

 「こちら大盛の釜玉うどんと、普通盛の釜玉うどんです」

 そう言って私と愛猫姫の前に大盛の釜玉うどんをエルマとクルミの前に普通盛の釜玉うどんを置いていきました。

 うん。そう見えるよね。

 内心そう考えつつ、器を入れ替えました。


 『エレスティアナ』の食事はまずいと言われていましたが、このうどんは普通においしかったです。確かに「他のうどんはもう食べれない!」というほど美味しかったわけではありませんが、『エレスティアナ』の他の食事に比べてはるかに美味しかったです。美味しい食事に飢えていたのでその美味しさは三割増しですね。

 他の2人も無言で食べています。

 クルミだけは、本当に美味しそうに、幸せそうに食べていました。


 私達が食べ終わり、食後のデザートとお茶を堪能していると、ホカホカ湯気を立てながらステイシーがやってきました。

 「あれれー? もうたべおわっちゃったー?」

 「おかえり。食べ終わっちゃったよ」

 「そっかー。今から注文してもいい?」

 「まだデザート食べてる途中だから大丈夫だよ」

 「ありがとー。すいませーん。えっとー、この香味うどんとー、さっきそこの人達が食べていたのをくださいー」

 そう言ってステイシーが流れるように注文します。なんだかんだ男の子ですよね。やっぱり私達の倍は食べます。

 「おいしかったー?」

 ステイシーがそう私達に聞いてきます。

 「普通においしかったよ」

 「久々の美味しい食事だった」

 「満足」

 三人口々に答えます。

 「それは期待できるなー」

 

 私達がデザートを食べ終わる頃、ステイシーのうどんが運ばれてきます。

 「おー。おいしそー。いただきますー」

 ズモモモモーとうどんを吸い取っていくステイシーにクルミは驚いているようですが、気にせず食べていますね。

 すでにお腹いっぱいですけど、この食べっぷりを見てるとまだ食べれそうな気がしてきますね。流石にやめておきますけど。


 ステイシーの食事も終わり、一息付けたので次の目的地について話します。

 「では次は、『地精洞窟 アースバルド』でよろしいのですか?」

 「うん。そこでお願い」

 「かしこまりました。では馬車の休憩所まで参りましょう」

 馬車の休憩所まで腹ごなし程度に軽く歩き、再び馬車に乗り、『地精洞窟 アースバルド』への馬車旅を始めます。

                                      to be continued...

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