第0章6幕

 「じゃぁ僕はおちるからこれでー」

 ステイシーが落ちるそうなので今日はお開きになります。

 「ありがとう。おつかれさま」

 「「ありがとうございました」」

 「またねー」

 

 ステイシーの魔法講義を受けて新しい【称号】が増え、既存の【称号】も進化しました。

 【闇神官】を獲得し【魔女見習い】が【魔女】に【聖者見習い】が【聖者】へとかわっています。

 レーナンとまりりすも同様で、新しい【称号】と睨めっこしています。

 「少し試すだけだったのにこんなに遅くまでごめんなさい」

 「いえいえ! 勉強になりました!」

 「私も勉強になりました」

 二人とも口々にそう言ってくれます。

 「ならよかったです。レベル差が大きいと爆発的な成長が望めるか、全く成長しないかのどちらかですからね」

 前者であってほしいです。と付け加え『簡易結界』を解除する。

 「そういえばチェリーさんはいまレベルいくつですか?」

 そういえばレベル言っていませんでしたね。

 「先ほど<転生>を終えてきましたのでLv.308ですね」

 「「えっ?」」

 「3度目の<転生>終わったんですか?」

 「はい。毎週挑戦していたんですけど、ようやくクリアできました」

 「そんなに大変なんですか……僕たちは一度目<転生>のすらまだですよ……」

 「今のお二人の実力なら一度目の<転生>ならもうクリアできますよ」

 「そうですか?」

 「そうでしょうか?」

 「はい。一つアドバイスさせていただきますと、〔水性雷龍 ジャガードラゴン〕は魔法抵抗が異常に高いモンスターです。

 物理攻撃なら大きなダメージが見込めます。

 なので今のレーナンさんならすぐに倒せます。まりりすさんは〔ジャガードラゴン〕の抵抗を落とす魔法を使えば≪ランスシェイプ≫の魔法で屠れます」

 「なるほど」

 「抵抗を落とす……魔法……?」

 「ちょうどいいものがあります」

 インベントリに有った【戦闘天使の指揮官帽】を渡します。

 「こちらの装備は装備中に限り、相手の≪聖属性魔法≫及び≪光属性魔法≫の抵抗力を0にすることができる効果があります。これを使えばすぐ倒せますよ」

 「なるほど……」

 「今週まだ<転生>クエスト受けていないのならいまからいってきてみてはいかがですか?」

 「はいそうします!今日はありがとうございました!」

 「何から何まですみません!頑張ってきます」

 「いってらっしゃい。あっよかったらフレンド登録しておきますか?」

 「「はい!」」

 

 二人とフレンド登録し、送り出しました。


 <転生>クエストが終わってすぐにスパーリングをやっていたので程よく疲労が溜まっています。

 一度ログアウトしてお風呂に入ってきますか。

 

 「ふぅ……」

 43度で入れた熱々のお湯が気持ちいいです。

 しまった……髪の毛を結び忘れてました。

 お湯に浸けてしまったので、面倒ですが、髪の毛も洗うことにします。

 わしゃわしゃと髪をあらうのは気持ちいです。面倒ですが。

 「そういえば髪を洗うのは1週間ぶりですね……」

 髪が長いと余計億劫になります。

 シャワーを出しっぱなしにしているので頭を突っ込むだけで泡が落ちます。便利。

 さてお風呂から出て<Imperial Of Egg>にログインしましょうか。

 

 現代では技術的な進歩のおかげかある程度までのことは携帯端末や音声端末により可能になっています。

 『お湯捨てておいて』

 浴槽にセットされているモニターに向かってそう言うと、勝手に排水が始まります。便利。

 あとはログインする前に宅配の折りたたみコンテナから飲み物と冷凍食品を引っ張り出し、明日の分を注文するだけですね。

 専用の宅配ゲートから家の中に搬入された折りたたみコンテナを開け、牛乳と紅茶のパック、インスタントコーヒー、3食分の冷凍食品を取り出します。

 冷凍食品を自動調理ボックスに突っ込み『温めて』というだけで1食完成です。15食分内部に保管でき、音声操作するだけでいいので便利です。

 部屋に置いてある冷蔵庫に牛乳を移し、腐った牛乳を折りたたみコンテナにしまいます。ゴミ捨てもこれで完了する便利な世の中に乾杯!と冷蔵庫の中にあったビールを飲みます。

 余談ですが、ビールなどの缶製品や、ビン製品は冷蔵庫から出す際、冷蔵庫が自動で開けてくれます。本当に便利。

 

 コクコクとビールを飲んでいると自動調理が終わったようです。

 取りに行くのが面倒ですが部屋に置くスペースはないので仕方ないですね。

 熱々に温まった料理をパソコンの画面を見つつ食べます。

 あっ注文がまだでした。

 『三食分の冷凍食品とビール6缶、スナック菓子をお願い』

 これだけで明日の夕方には家の中に届きます。もう家から出なくていい生活最高。


 <Imperial Of Egg>のニュースサイトを見ていると様々なニュースが書いてありました。

 『〔超越甲殻類 ターンパイク・フィッポスラ〕が『鉱山都市 アイセルティア』に出現』

 『VR化に伴いNPCに人格プログラムが適応』

 『<Imperial Of Egg>大型アプデート情報更新』

 『明日<Imperial Of Egg>VR専用端末販売開始』

 「……ん?」

 明日発売開始?

 「あああああああああああああ!」

 それもそうです。端末なしでVRゲームができるわけありません。

 買わなきゃ!

 そう思い大手ネット通販サイトを見るもどこも完売していました。

 小さな通販会社もすでに完売。

 目の前が真っ暗になるというのはこういうことでしょうか。


 『エルマ! 端末が売り切れてる!』

 すぐにエルマに携帯端末からメッセージを送りました。

 『えっ? 嘘でしょ!?』

 エルマも私同様びっくりしているようです。

 『明日発売なんて知らなかった!(泣)』

 『あたしもだよ!』

 次回生産が未定とあったので今回買い損なうと次発売されるまで<Imperial Of Egg>ができません。さすがにそれはつらいです。

 『ほとんどすべての通販サイトみたけど全部完売だった』

 『店頭販売分ならいくつか在庫がある家電量販店もあるみたい!』

 『ナイスエルマ! どこの家電量販店?』

 『秋葉原だね』

 『秋葉原……買いに行くしかないか……でも終電がもうない……始発で間に合うかな?』

 『始発じゃ無理かもしれないちょっとまってて』

 『うん……(泣)』

 

 15分ほどしたらエルマから返事がきました。

 『チェリー。今から車で迎えに行く。住所教えて』

 同じ東京都に住んでいるのは知っていましたが流石に住所は……とちょっと不安になりながらもエルマに教えます。


 『まじか』

 とメッセージが届いた後すぐに電話がかかってきます。

 「チェリー。窓から外見てみて」

 なんだろうとおもいながらカーテンを開けます。

 「そこに大きい家ない?」

 「あるよ」

 「そこうちの実家」

 はっ? はぁっ?

 「ちょちょっちょ……ちょっとまって! 実家? えっ? 実家なの?」

 「そう。いまは住んでないけど。とりあえず家でまってて。すぐに行くから」

 そういってエルマは電話を切りました。

 

 まじか。あれエルマ実家だったのか。金持ちっぽい感じはしてたけど……こんな偶然もあるんだ。いやいや普通ないよね。

 めっちゃ噴水見えてる。

 わーライトアップされてるー。



 外に普段出ることはないのですが一応洋服をいくつか持ち出していたので、それに着替えます。

 白いブラウスに黒いロングスカート、桃色のカーディガンを羽織り、マナーとして多少の化粧はしておきます。

 お財布とハンカチ、ティッシュをポシェットに詰めました。

 

 携帯端末を手にもって家の中をうろうろしています。

 

 先ほどの電話から20分ほどが経ちまたエルマから着信がありました。

 「ついたよ! アパートの前にいる!」

 「すぐいくね」

 電話を切り、ポシェットを持ちパンプスを履きます。

 

 家を出て電子ロックを掛けた、階段を下ります。

 

 あっ? あれかな?

 白い高級外車が止まっています。

 

 外にいるめっちゃお嬢様みたいな人がエルマかな?

 

 「エルマ……?」


 恐る恐る話しかけてみます。


 「チェリー……?」

 

 やばいエルマめっちゃかわいい。

 

 「は……はじめまして……チェリーです」

 「あっ……これはこれはご丁寧に……遠藤瑠麻です」

 ちょっとまって本名出てる。

 「エルマ本名ばらしていいの?」

 「しまったあああああああああああ!!」

 やはりかなり育ちの良いお嬢様だったみたいです。

 「それより早く乗って! ここに長居するとお母様に見つかっちゃう!」


 高級車の助手席に座ります。

 後部座席に座ろうとしたのですが助手席に無理やり詰め込まれました」


 「とりあえず出すね」

 エンジンはかけっぱなしだったようですぐに出発します。

 「ここからなら1時間かからずにつくと思う。駐車場探しておいて!」

 「わかった」

 うっわエルマめっちゃいい匂いする。やばい私ビール飲みたて。やばい。

 と考えながら秋葉原の駐車場を探します。

 現代では駐車場の空き情報がリアルタイムで更新されていますので駐車場に困ることは減りました。

 「結構あいてる。量販店に近いところも殆どあいてる」

 「ありがと! ところでチェリー。お酒の呑んでた?」

 すいません。全力で土下座します。おっとシートベルトが邪魔でできない!

 「お酒臭くてごめんね」

 「気にしてないよ! あと10分連絡遅かったらあたしも呑んでた!」

 「エルマお酒飲むんだ」

 「あたぼーよ! 毎日ビール3本は呑むね!」

 結構お酒好きみたいです。意外。

 お酒の話が結構進み、そろそろ話題を変えようと思ったときに名前のことを思い出しました。


 「話変わるんだけどいいかな?」

 「何かなマドモアゼル?」

 「岡田智恵理です。改めてよろしくお願いします」

 私はエルマに本名を告げました。

 「智恵理でチェリーか! いい名前だね!」

 「エルマも可愛い名前だよね。ほんとスコ」

 心の声が漏れてしまいました。

 「ウケる。チェリーもそんな古いネットスラング使うんだ!」

 「忘れて」


 それから<Imperial Of Egg>の話に移り、40分ほどが経ち秋葉原に到着します。

 

 「量販店はあそこだね。あの駐車場でいいかな」

 そう言ってエルマは車を駐車場にとめました。


 「初めてMMOの友達とリアルで会ったよ」

 「安心するがいいお嬢さん。あたしもだ」

 「意外と初対面な気はしなかったね」

 「そりゃー毎日通話してたしね!」

 「たしかに」

 としゃべりながら量販店の前まできます。

 30人ほど待っていますがこの様子なら買えるはずです。

 『最後尾』とかかれたプレートを持っている警備員のところにならびます。


 「よかった! 買えそうだね!」

 「うん。一安心」

 量販店のオープンまであと9時間ほどあるのでどうしようかとおもっているとエルマが携帯端末で<Imperial Of Egg>の情報を見せてくれました。

 「今日発売なのが昨日の夜8時くらいに発表されてたみたい」

 「なるほど」 

 コアなユーザーになればなるほど買える可能性が減ってしまうシステムにちょっとうんざりしながら他のニュースの話をします。

 「『〔超越甲殻類 ターンパイク・フィッポスラ〕が『鉱山都市 アイセルティア』に出現』だってさ」

 「見たよ。名前からして〔ユニークモンスター〕だよね。かなり速度が速そう」

 「だねー! まぁ今頃は〔天地阿修羅〕が討伐したころじゃないかな?……ほら」

 「『〔超越甲殻類 ターンパイク・フィッポスラ〕消失』ほらね」

 「はやい」

 「<最強>は格が違うね!」

 「そういえば専用端末買うってことはVRでもやるんだね!」

 「うん。ステイシーからもらった【神器】と【機械怪鳥の片翼】の効果で凄い楽に移動できるし、攻撃できるから」 

 「ぶれないねー!」

 「そう?」


 それからしばらくはリアルの話をしていました。

 「それで大学を中退したわけ」

 「そうなんだー! ちなみにどこいったの?」

 「名門でもないから少し言いにくいけど……慶智大学だよ」

 「ふぁっ?」

 かわいいエルマのネットスラングに不覚にも萌えました。

 「リアルエルマの口からネットスラングはダメージ大きい。心が萌え死んだ」

 「お、おう……慶智大学の何学部?」

 「経済学部だったよ」

 「お、おう……あたし慶智大の法学部だったよ」 

 「わっつ?」

 「法学部。チェリーと同じ大学だったとは……ちなみに何年入学?」

 えっとあれはたしか……

 「2033年入学だね」

 「なるほど。チェリーは一つ年下だったのか」

 「エルマのほうが年上なのは意外」

 「それね! あたしのほうが4個くらい下な気がしてたよ!」

 「4個はいいすぎじゃない?」

 「ごめんて」

 

 他愛もない話をし、時間をつぶしていると――余談ですが、エルマがちょくちょくお菓子やら、飲み物やらをかってきてくれました――まもなくオープンすると放送がありました。

 「いよいよだねー!」

 「だねー」

 10時になり先頭の人から続々とお店に入っていきます。

 私の番がきましたので購入します。

 「2つください」

 「2つですね!かしこまりました!」

 「支払いカードでお願いします」

 「お預かりします」

 「ではこちらお品物でございます。ありがとうございましたー」


 「エルマ今日はありがとう、これプレゼント」

 そういって購入したもう片方の端末を購入列にまだ残っていたエルマに渡します。

 「えっ? いいの?」

 「いいよ。エルマのおかげで買えたんだから」

 「ありがとう! すごいうれしい!」

 

 列からはずれピョンピョン飛ぶエルマは今日で一番かわいかったです。


 「お礼ってほどじゃないけどおなかすいたしお酒呑みたいからちょっとよってかない?」

 「私はいいけど……車運転するのに大丈夫なの?」

 「平気平気。『もしもし?うん。運転頼める?うん。ありがとう。夕方によろしく。』実家の使用人よんだ!」

 金持ちおそるべし。


 居酒屋を何件か回り二人ともいい感じに酔ってきた頃、エルマの使用人から電話が掛かってきたので今日はお開きになりました。

 「瑠麻お嬢様、智恵理お嬢様、ご自宅までお送りさせて頂きます。私、永谷と申します。ではこちらへ」

 居酒屋の前で場違いな執事服の老人に仰々しく迎えられ先導されます。

 ま……まわりの視線が痛い……

 「慣れよ慣れ! あたしも小さいころ死ぬほど恥ずかしかった!」

 「死にそう。顔から≪インフェルノ≫でそう」

 「そこまでかー」


 いつの間にか車の鍵を開け、後部座席の扉を開けている永谷に少し驚きながらも乗り込みます。

 「頭お気を付けください」

 そういいながら手をフレームに置いてぶつからないようにしてるあたりプロですね。

 「ありがとー!」

 「あろがとごじゃま……ありがとうございます」

 噛んでしまいました。

 こんな非日常ではしかたりませんね。

 

 車が移動してることを感じさせない見事な運転で家まで送っていただきました。

 

 先に家まで送っていただきましたのでエルマと別れ、一足先に帰宅しました。

 「ふぅ……久々に外に出ていろんな体験したなぁ……」

 そう呟きながらベッドに入ります。

 来月のVR化たのしみだなぁ……。

 と思っているといつの間にか夢の世界に落ちていきました。

                                      to be continued...

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