第1話 葬儀と再逢
千葉県館山市内にある施設にて、お通夜は執り行われる事となった。
高速バスで地元へ帰って来た私は、久しぶりに故郷の空気を吸いつつも、気分はあまり良い
あ…
受付を済ませた後に両親と施設内に入っていくと、亡くなった直子の遺影が会場の中心に飾られているのを目撃する。それを見た途端、本当に幼馴染がこの世にいない事を実感するのであった。
また、席についていると、見知った顔ぶれが目に入ってくる。直子の両親や弟はもちろん、彼女の叔父や叔母。また、私らが座っている会場の左側では、中学時代の担任といった懐かしい面子も席に座っていた。
「
「
後ろから声をかけてきたのは、学生時代に仲の良かった友人の
声をかけられた私の両親は、後ろに振り返りざまお辞儀をする。
「まさか、美沙ちゃんともこのような形で久々にお会いする事になろうとは…」
裕美の父親は、瞳を細めながら呟く。
因みに、彼女の母親は数年前に亡くなっているため、父親が地元に残り裕美が単身東京で働いているというのが現状であった。
「美沙ちゃん!」
親同士が話し出した頃合いを見計らったのか、裕美が私に小声で話しかけてくる。
「葬儀が終わったら、一緒に帰らない?多分、親達は親達だけで食事に行くだろうし…」
「別に構わないけど…。裕美は今日、実家に泊まっていくの?それとも、すぐ東京に…」
小声で話す中、一呼吸を置いた裕美が口を開く。
「今日と明日は、実家に泊まる予定だよ!せっかく今日一日で有休をもらった訳だし、結果として三連休にもなった訳だしね!」
裕美は、少し嬉しそうに語る。
単なる偶然だろうが、この葬儀が金曜日に執り行われる関係で私は午後半休をとったが、翌日が土曜・日曜日となっているため、週休二日制のサラリーマンやOLにとっては三連休となる、少し有難い日程でもあるのだ。
「了解」
私が一緒に帰る事を了承した後、通夜が始まる事となる。
僧侶による読経が行われ、その途中から遺族・親族が順番に焼香し始めていく。
焼香をする遺族や親族の表情は、凛としつつもどこか悲しげだ。そんな遺族達を見上げながら、私は直子と過ごした学生時代の事を思い返していた。
家が近所で親同士の親交もあり、彼女とのつきあいは、思えば小学校低学年からに遡る。
幼少期より霊感を持ち、内気で少し変わった雰囲気もある子だったが、不思議と馬が合う事でよく一緒に遊んでいた。中学時代は仲の良かった友人達と共に里見八犬伝の博物館として知られている、地元にある館山城へ遊びに行った時の出来事など、多くの思い出が走馬灯のように脳内を駆け巡る。
そして、焼香の順番が彼女の友人や職場関係者等に回ってくる。
あ…。
私は、焼香で席を立ちあがった瞬間になって初めて、裕美以外の友人が参列していた事に気が付く。ダークブラウン色の髪で少しくせ毛のある青年が、小川
そして、黒髪の坊主頭をしている
色んなことを考えていく内に、焼香が自分の順番へと回ってくる。立ちあがり、直子の遺影がある場所へたどり着いた後、その遺影が視界に入ってくる。
茶髪ストレートの髪型で満面の笑みを浮かべた彼女の遺影はおそらく、成人してから撮った写真だろう。
どうして、突然いなくなってしまったんだろう…?
私は哀しみを胸に秘めつつも、こんなに幸せそうな笑顔を見せている直子がどうして死んでしまったのかを疑問に思いながら、葬儀会場を後にするのであった。
「じゃあ、美沙ちゃん!帰ろうか…!」
「うん…そうね!」
会場を出た後に裕美と合流した私は、それぞれの実家がある方向へと足を進めていく。
因みに私の両親と裕美の父は案の定、大人だけで飲みに行きたいという事で、先に帰るようにお互い言われていた。
「おーーーい!!」
そして、1・2分ほど歩いてくと、後ろから聞き覚えのある声が響いてくる。
「健次郎君に
私と裕美が振り返ると、そこにはかつての男友達が小走りで私らの元へ駆け寄ってきていた。
「久しぶりだな、二人共!途中まで一緒に帰らねぇか?」
追いついてきた後、健次郎が私達と一緒に帰ろうと提案してくる。
「私は大丈夫だよ!あれ…って事は、あんた達の両親ももしかして…」
「…親同士で飲み会だとさ」
「ですよね…」
私が了承の意を示しつつ彼らに視線を向けると、それに気が付いた
それを聞いた私と裕美は、この時だけちゃっかりはもっていたのであった。
「俺は今、東京の赤坂にある焼き肉屋で料理人として働いているんだ。…お前らは?」
健次郎の
「私は、都内の通信系企業で事務職…かな」
「私は今だと…横浜にある大手メーカーのコールセンターでオペレーターとして勤務しているよ」
「…都内の企業で、システムエンジニアをやっている」
私を始め、裕美や
ただし、全員が社会人という事であまり仕事の話はしづらいという事もあり、話はお互いが会わなくなった高校以降の学生時代の話や、亡くなった直子の話に移行する。
「両親経由で聞いたけど、
少し憂いを帯びた
「直子ちゃんもキャラクターとか好きだったから、話していてすごく楽しかったのにな…」
不意に裕美が呟くと、私達の間で沈黙が続く。
一方で、裕美の視線が少しだけ私の方に向いていた。また、この4人の中では私が一番直子とつきあいが長かったという事実は、この場にいる全員が知っている。そのため、私に対して心配そうに見つめてきているかと思うと、少し顔があげづらかった。
「……まぁ、辛気臭い話はここでおしまい!それより、私と裕美は日曜日に東京戻るけど、二人はどうするの?」
心配かけまいと気さくそうな笑みを浮かべながら、私は男性陣に問いかける。
「俺も、東京へは日曜日に戻る。でも、岡部は明日の午前中に帰るんだろ?」
「あぁ」
「あれ?せっかくの土日なんだから……って、そっか!サービス業!!」
“せっかく土日休みがあるのだから、日曜日までゆっくりすればいいのに”と裕美は言おうとしたのだろうが、健次郎が焼き肉屋勤務である事を思い出し、途中で口をつぐむ。
「土日は忙しいからな。今日は流石に実家に泊まるけど、明日の午前中に東京行きのバスで戻るわ。明日の午後には出勤しなくてはいけないからな!」
その後、健次郎が少し苦笑いを浮かべながら、明日の予定について語る。
「じゃあ、今日ここで別れたら、それっきりかー…」
私が少し残念そうな
東京に戻ったらなかなか会えないだろうから、明日とかに皆で飲みに行きたかったな…
そんな事を考えていると、それを見かねた健次郎が私の肩を軽く叩きながら口を開く。
「まぁ、そうしょげるな!そうそう、久しぶりに会えたんだし、LINEのIDを交換しねぇか?川コンビが東京で、
「いいね、そうしましょう!」
「…まぁ、息抜きくらいにはなるか。…って、おい岡部!」
健次郎の提案に対し、裕美も
「また川コンビって言いやがったな、てめぇ…!!」
「だって、“
「もう、健次郎ってば他人事だと思って~!!私、結婚したら絶対に苗字変えてやる~!!」
健次郎が私や
それが恥ずかしかったのか、私は自分の表情は見る事ができないので定かではなかったが、珍しく興奮した
「じゃあ、気を取り直してIDを…」
普段の自分に戻した私は、そう口にしながら自分が持つスマートフォンを取り出す。
そして、タッチパネルを操作しながら、お互いのIDを伝え合ったのである。
健次郎がID交換を提案してくれて、助かったな…
私はスマートフォンの操作をしながら、内心で彼にお礼を呟いていた。
LINEのIDを交換した後、それぞれの実家へ続く道の手前で各々別れる。
私と裕美は翌日に会う約束をしていたが、男二人とは「また何かあったらLINEする」と告げてこの土曜・日曜と実家にいる間は一度も会わずに終わるのであった。
この3日間が最近では最も、哀しくはあってものんびりできた休日であった事を後になって思い返す事となる。
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