第27話

 27 リア充、外神涼介



「宮坂、大丈夫か」

「はい……お陰様で」


 気丈に振る舞う宮坂えりかだが、その顔には疲労の色が浮かんでいた。


 宮坂を救出し、その足で班編成を引率の教師に報告をすることになった。

 その班のリーダーは、なぜか担ぎ上げられた俺、高望たかもち昇太しょうたである。


「ふむ。無事に同じ班になれたようだな」


 報告を受けた草壁くさかべ先生は、何とも含みのある笑顔を向けてくる。


「そこに水を差すようで申し訳ないのだが──」


 そこに居たのは、よく教室で見かける男子だ。


外神とがみ、こちらへ」


 外神とがみ涼介りょうすけ

 我がクラスのトップカーストの頂点に君臨する、容姿端麗、文武両道、品行方正な、完全なる「持っている側」の人間だ。


外神とがみ涼介りょうすけはキミや位置がと同じクラスだろう。班に入れてやってくれ」

「よろしく頼むよ」


 外神とがみは、いつもと変わらない爽やかな笑顔で握手を求めてくる。


「やめておけ外神とがみ。この高望たかもちは、差し出された手を無防備に握るほど、素直な人間ではない」


 なんで分かるんだ草壁くさかべ先生。本当に念話テレパスとか使えるんじゃないかと疑いたくなる。


『……ん? 呼んだかね昇太』


 やべ、本物の念話テレパスであるばあちゃんに繋がっちまった。

 とりあえずばあちゃんには何か土産を買って謝るとしよう。


「──よし、決まりだな」


 ぱんっ、と柏手を打つ音で我に返った時には、すでに話は終わっていた。



 俺たちの班に割り当てられた炊事場は、水場から一番遠い場所だった。

 俺の両手には、水が入ったポリタンクが二つ。

 それを日常でしているように能力ちからを補助にして運ぶ。

 市川は持参した器具と薪木たきぎを背負い、にこにこしながら隣を歩いている。

 宮坂と赤堀の女子たちには、食材など軽い荷物を持ってもらっている。


「ありがとう、助かったよ」


 話しかけてきたのは、カレー用の大きな鍋を抱えたトップカーストのリーダー格、外神とがみ涼介りょうすけだ。


「……いつもの連中はどうした」


 顔を向けずに、届くかどうかの声量で呟く。


「今回は俺一人で参加なんだ」

「取り巻きはいいのかよ」

「実はそれもあってね、一人で参加したんだ」

「ほーん」

「要するに、逃げ、だよ」


 爽やかに逃げを宣言する外神とがみに、訝しげな視線を叩きつける。

 まあ、何だっていい。

 同じ班になったからには、キリキリ働けよ。



 炊事場の横に荷物を置き、作業の分担を決める。

 が、普段ならリーダーシップを発揮する外神とがみは、穏やかな顔で俺を見つめる。

 あらやだこいつ、男子相手の寝技の達人かしら。


「このグループは高望たかもちクンのグループだよ。何でも指示して」

「そうだね、市川くんもこう言ってる事だし、遠慮なく割り振ってくれ」

「あ、あたしは、ショタっちと一緒がいいかな、なんて……」


 市川と外神とがみは朗らかに笑み、赤堀は訳のわからない呟きを零す。

 宮坂はといえば、絡まれた疲れが残っているのだろうか、先程からやけに無口だ。


 しかし、なんだこの無理ゲー。

 このパーティのリーダーが俺って、ないわー。

 いや待て、こういう時はとりあえず戦力分析からだな。ネトゲで一狩り行く前にもやる、重要なブリーフィングだ。


「じゃあ聞く。飯ごうでゴハン炊ける奴」


 手を挙げたのは、市川と俺。


外神とがみ、料理経験は?」

「恥ずかしいけど、カップラーメンくらいしか」


 ほーん、さすがリア充。

 何でも出来るような顔して、こんなところでもギャップ萌えを狙いますか。

 だが残念だな。萌えたのは俺だけだ。嘘だ。


「赤堀は?」

「んー、ひと通り出来るけど」


 何か引っかかる言い方だが、宮坂がいれば大丈夫だろう。

 その信頼と実績の宮坂は、聞くまでもなく料理が超上手い。ただ、少し疲れているように見えるのが気掛かりだけど。


「よし決まり。市川と俺はカマド作りと飯ごう、外神とがみは宮坂と赤堀の配下に入ってカレーの調理。手が空いた奴がもう片方をフォローすること。以上」


 ぶーぶー文句を言う赤堀を宮坂に頼んで、それぞれの作業に取り掛かった。


 備え付けのコンクリブロックを使って、市川と二人でカマドを組み上げていく。


「手際いいな、市川」

「これでもボーイスカウトやってたからね。てか、高望たかもちクンも中々じゃん」


 すげえ市川。

 顔はいいし明るいし、腕っ節も強い。

 そろそろ万能説が出てくるぞ。

 まあ、俺は趣味でやってる程度だから到底本職の市川には敵わないが、それでも順調に石を積み上げていく。


 あっという間に設営された二つのカマドを前に、市川に暇を出す。実際に作業が多いのは、カレー作り。

 市川には休憩がてらそっちに行ってもらう。


 さて。

 家庭では炊飯器がやってくれることを、自分でやるのが飯ごう炊爨すいさんである。


 といっても、実は難しい事はない。うまく炊くには知識と技術を要するけれど、素人の場合は失敗しないことの方が大事。


「なあ高望たかもちクン、本当に飯ごうを任せちゃっていいのかい?」

「ああ、何度かやったことあるし、さっき助けてもらったからな。恩は早めに返したい」


 黙々と作業を続ける俺の背中に、市川と赤堀が立つ。


「気にしなくていいのに、ねぇ」

「まったくだ、義理堅いっていうのか、融通が利かないっていうのか」

「「だが、それが良い」」


 んだよ、仲良いな幼馴染カップル。

 つか外神とがみ、事情が分からんままに微笑むな。

 てか赤堀も外神も、宮坂をフォローしろ。

 ちょっと浮かない顔しちゃってるじゃないか。

 談笑する市川たちを尻目に、早速準備に取り掛かる。

 正直、時間はギリギリなのだ。

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