第20話 ねこっちとお別れ

 しばらくして、隣の犬は先生に連れて行かれました。その後、飼い主さんがきて、犬を抱きしめて泣いていました。

 ねこっちが死んだら、くんちゃんもあんな風に泣くのかな。大好きなくんちゃんには、泣いてほしくないな。そう思うと心の中に、ほんの少しだけ力がもどってきました。


 いつもの時間に迎えにきてくれるくんちゃん。

 部屋をいつもあったかくしてくれるくんちゃん。

 夜中に何回もねこっちの様子を見てくれるくんちゃん。

 ねこっちが大好きなくんちゃん。

 くんちゃんとの約束を絶対守りたいから、ねこっちは頑張って生きるよ。


 そうして、ねこっちが最初に病院に連れてこられてから二ヶ月が経ちました。病院の先生は、驚いていました。でも そろそろ限界です。いつものように朝、病院に預けられたねこっちはケージに入れられて思いました。


『今日は横になったらダメだ。くんちゃんとの約束を守るためには、横になったらダメだ』


 なんとなくだけど、ねこっちにはそう感じられたのです。だからその日は、先生から横になって休むよう言われても、フラフラしながらずっと座っていました。


『もうこのまま眠ってしまいたい』


 そう思うくらい、体は弱っていたけれど我慢しました。今日もくんちゃんに「おかえり」を言うために。

 いつもの時間にくんちゃんが迎えにきました。すると先生がくんちゃんに駆け寄り話をしています。


「今日のねこっちちゃんおかしいんです。辛いはずなのにずっと座って絶対休もうとしないんです」

「わかりました。ありがとうございました」


 くんちゃんは先生にお礼を言って、ねこっちの所へやってきました。


「ただいま」


 いつもの元気な声です。

 ねこっちは嬉しくて、小さな声しか出なかったけど言いました。


「おかえり。早くうちに帰ろうよ」


 先生にお礼を言って家に帰ります。

 家に帰るとすぐにくんちゃんは、いつも通り部屋をあっためてくれて、お気に入りのクッションにねこっちを抱っこして連れて行ってくれました。なんかとても安心してしまったねこっちは、クッションにゴロンと寝そべりました。

 それからどれくらい時間が経ったでしょうか。ねこっちはどんどん苦しくなってきました。ああ、病院で横になったらダメな気がしていたのはこういうことだったのか。ねこっちは、最後の力を振り絞ってくんちゃんの元に行きます。


「どうした? トイレ?」


 くんちゃんが手を貸してくれようとします。でもねこっちは、くんちゃんの膝の上にのりました。そして、くんちゃんを見上げます。もう、左目が光を無くして見えません。くんちゃんはすぐにわかってくれて、ねこっちを抱っこしてくれました。

 ねこっちは、くんちゃんの目を見ながら言いました。


「あのね。ねこっちはもうお別れみたいです。でも約束は守ったのですよ」


 くんちゃんも言います。


「うん。またごはんが取れない猫に生まれたら、私のところに来るんだよ。今まで一緒にいてくれてありがとう。ありがとうね」


 くんちゃんも、ねこっちの目を見てくれていました。

『ありがとうはねこっちの方だよ』って言いたかったけど、もう力が残っていませんでした。ゆっくり三回、息を吐いてねこっちは大好きなくんちゃんの姿を瞳に映したまま、完全に動かなくなりました。

 すーっと魂が体から抜けてふわふわしていると、今まで泣いてなかったくんちゃんがねこっちの体を抱きしめて泣いていました。


 本当はもっと傍にいたかった。

 もっと一緒に遊びたかった。

 悲しい時はそばにいてあげたかった。

 だけどねこっちは幸せだったよ。


 だから『バイバイ』は言わずに、最初に出会った時くんちゃんがねこっちに言ってくれた言葉を言うね。

 


 くんちゃん。



 またね。

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