第19話 ねこっちと小さな老犬
夕方になると、くんちゃんが迎えにきてくれました。
「ねこっち、ただいま」
くんちゃんの声を聞いて、嬉しくなったねこっちは立ち上がろうとしました。だけど、体がフラフラします。それを見たくんちゃんは、すぐにねこっちを抱っこしてくれました。
「今日は頑張ったね。さあ帰ろう」
家に着くと、すぐに部屋をあったかくしてくれて、ねこっちをクッションに寝かせてくれました。そして、今日あったことをたくさんお話ししてくれます。
そんな日々が、何日か続きました。
いつものように、病院で点滴を受けながらケージで横になっていると、小さな年をとった犬が飼い主さんに連れてこられたのが見えました。飼い主さんは、泣きながら何かを先生に話しています。
「よろしくお願いします。指定の時間に迎えにきます」
そう言って、飼い主さんは帰っていきました。そしてその犬は、ねこっちの隣のケージにやってきました。ねこっちは小さい犬が苦手なので、ちょっとビクビクしていました。
「君も何か病気なのかい?」
隣の犬がねこっちに話かけてきました。
「ねこっちは猫白血病っていう病気で、いつ死んでもおかしくないんだって……」
ねこっちが答えると、その犬は溜息をつきながら続けて話します。
「そうか。僕も病気なんだけど、もうおじいちゃんで治らないみたいなんだよ。だから……今日死ぬんだ」
ねこっちはビックリして聞きました。
「今日死んじゃうの? どうしてわかるんですか?」
犬は寝そべって話を続けます。
「僕の飼い主はね、とても優しい飼い主なんだ。僕が病気で苦しんでいると、可哀相にって泣くんだよ。そして今日、もう僕が苦しんでる姿を見るのに耐えられなくなったんだ。でも僕が死んでいくのも見ていられないくらい辛いんだ。だから、この病院で注射を打ってもらうことにしたんだよ」
ねこっちは、不思議に思って聞いてみました。
「注射を打ったらよくなるんじゃないんですか? ねこっちは点滴してもらうと少しだけど楽になりますよ」
犬は溜息をついて言いました。
「打ったら死んじゃう注射があるんだってさ。だから僕は今日死ぬんだ。でも死ぬのはいいんだ。仕方がないことだから。だけど大好きな飼い主のそばで死にたかったな……」
そう言って黙ってしまいました。ねこっちは、くんちゃんの言った言葉を思い出しながら思います。
『死ぬ時は私の腕の中で死ぬこと』
今まで小さい犬が苦手だったねこっちだけど、隣のケージにいるこの犬がとても可哀相になりました。それと同時に、ねこっちはなんて幸せなんだろうと思いました。きっとこの犬も、大好きな飼い主のそばに最後までいたかったはずです。
ねこっちは何か言おうとしたけど、何もかける言葉が見付かりませんでした。
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