第8話 ねこっちと電話①

 くんちゃんは時々、不思議なことをします。手に何か機械を持ってそれに向かって話をしているのです。ねこっちはいつもそれを見て、あの小さな機械の中に誰がいるんだろうと気になっていました。

 ある日、くんちゃんがその機械を持ってボタンを押しているのをみて、ねこっちは思い切って聞いてみたのです。


「くんちゃん、それは何ですか? 誰が中にいるんですか?」


 くんちゃんはねこっちに教えてくれます。


「これは電話って言うんだよ。大きい方が親機、手に持ってるこっちが子機。遠くにいる人と話が出来る機械だよ」


 そういって、くんちゃんはボタンを押しました。


 プルルルル……プルルルル……ガチャ


『もしもーし』


 機械音の後に聞こえてきたのは、くんちゃんの友達のりぃちゃんの声でした。

 ねこっちはりぃちゃんが大好きです。よく遊びに来てくれて、ねこっちのことも構ってくれるからです。

 くんちゃんが、りぃちゃんに説明をしています。


「あのね。ねこっちが電話に興味を持ったみたいでね。ちょっと電話で話してやってくれないかな?」


 くんちゃんはそう言うとまた何かボタンを押して、子機をねこっちの前に置いてくれました。


『もしもーし! ねこっちー!』


 電話からはさっきより大きな声でりぃちゃんの声がします。くんちゃんに聞いてみたところ、これはスピーカーフォンというのだそうです。

 ねこっちは、嬉しくなって電話に話しかけます。


「りぃちゃん、こんにちは! ねこっちですよー」

『ねこっちー! 久しぶりー!』


 ねこっちが話しかけると、りぃちゃんが返事をしてくれます。ねこっちは嬉しくて嬉しくて、最近あったことをたくさん話しました。りぃちゃんは、ねこっちの話を聞いて返事をしてくれます。

 でも楽しい時間はあっという間に過ぎてしまって、電話は終わってしまいました。くんちゃんは、電話のボタンをピッと押すと子機置き場に立てて置きました。

 ねこっちはその日から、電話を使う時のくんちゃんを観察することにしました。

 そして、ねこっちは気が付いたのです! 電話が鳴った時は子機を取って話すだけなのに、電話をかける時は子機を取って何かボタンを押していることに!


 ある日、くんちゃんがいない時に電話が鳴りました。ねこっちは急いで子機を前足でペシッと転がして電話を取ります。


「もしもし、ねこっちですよー!」


 そう声をかけると電話の中から、りぃちゃんの声がしました。


『あれ? ねこっち? くんちゃんは?』

「くんちゃんはお出掛け中です。ねこっちは留守番をしているのです」

『そっかー。じゃあまた後でかけるね。バイバーイ』

「はーい。バイバーイ」


 ねこっちは留守番中に電話番も出来る様になりました。

 くんちゃんが帰ってきたら褒めてくれるかな?

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