第4話 ねこっちと病院

 本格的にくんちゃんの家に住むことになったねこっちにある日くんちゃんが言いました。


「一度、病院で健康診断とワクチン注射してもらおうね」


 ねこっちは「病院」という所は初めてです。どんなところなんだろう。でもきっと、くんちゃんと一緒なら大丈夫だよね。


 そして病院の日。

 ねこっちはくんちゃんの車で出掛けました。窓から見る景色がどんどん流れていってねこっちはワクワクしました。しばらくすると、ある建物の前で車は止まりました。


「ここが病院ですか?」


 ねこっちはくんちゃんに聞いてみました。くんちゃんはねこっちに猫用のリードを付けながら答えます。


「そうだよ。ここが動物病院。次のお給料が出たらキャリーバック買ってあげるから今日はリードに抱っこで我慢してね」


 ねこっちはくんちゃんに抱っこされるのは大好きなので全然かまいません。

 病院の中に入ると、大きな犬を連れた人がいました。ねこっちは大きな犬にとても興味があったのでじっと見ていました。その間、くんちゃんはねこっちを抱っこしたまま受付で何か手続きをしていました。


「名前が呼ばれるまで座ってようね」


 くんちゃんがそう言ってねこっちを抱っこしたまま長椅子に座ります。

 すると入り口から小さな犬を連れた人が入ってきました。ねこっちは小さい犬は苦手です。思わずくんちゃんの肩によじ登りました。


「くんちゃん! 小さい犬がきました! 怖いです!」


 くんちゃんはねこっちを撫でながら笑います。


「ねこっちは大きな犬は大丈夫なのに小さい犬はダメなの?」

「小さい犬は苦手なのです! 怖いです!」


 次に猫を連れた人がやってきました。その猫は箱のような籠のような物に入れられていました。


「ひゃぁ! くんちゃん! 猫です! 猫がきました! 怖いです!」


 再びくんちゃんによじ登りながらねこっちは訴えます。


「ねこっちも猫でしょ」


 くんちゃんは笑います。でもねこっちは猫が苦手なのです。猫とだけは分かり合えないのです。くんちゃんの腕の中で震えていると診察室と書かれたドアが開いて名前を呼ばれました。くんちゃんは「はい」と返事をしてねこっちを連れて中に入ります。


 中には動物はいなかったのでねこっちは安心しました。真ん中に診察台、それとなんだかわからない器具、そして白い服に身を包んだ人がいました。くんちゃんはその人を「先生」と呼んでいました。ねこっちは診察台に乗せられます。不安になってくんちゃんを見るとすぐ傍で頭を撫でてくれました。


「怖くないからね。大丈夫。私がついてるから」


 くんちゃんの言葉を信じてねこっちはじっとしていました。すると先生が何かを手にしてねこっちに近づいてきます。


「まずは採血をしましょうね」


 採血!? 採血ってなんですか?? ねこっちはわからなくてオロオロしました。先生の後ろからタオルケットを持ったやはり白い服の女の人がやってきてねこっちを押さえようとしました。くんちゃんに助けを求めようとした時です。


「あ、押さえる必要はないです。ねこっちはちゃんと言えばわかるんで」


 そう言って女の人を止めてから、くんちゃんはねこっちの正面に回りこみねこっちと目線を合わせて人差し指を出しました。


「ねこっち。この指を見てて。すぐ終わるから。動かないで」


 くんちゃんが目の前にいるとどうしてこんなに安心するんだろう。ねこっちはくんちゃんの人差し指をじっと見つめます。その時、腕がチクッとしました。それでもねこっちはくんちゃんの指を見ています。


「本当に大人しい猫ちゃんですね。驚きました。大抵は威嚇してくるか爪で引っかこうとするんですけど」


 先生がねこっちを褒めてくれているようです。なんだか褒められると余計に大人しくしてなきゃいけない気がしてきます。ねこっちは空気を読む猫なのです。

 とりあえず、検査結果が出るまでまたさっきの長椅子に座って待ちます。しばらく待つとまた診察室に呼ばれました。中に入ると先生が難しい顔をしています。ねこっちは何か怒られるようなことをしてしまったのかとビクビクしてくんちゃんにしがみついていました。


「飼い主さん、実はですね」


 先生が検査結果を見せながらくんちゃんに説明をしています。


「ねこっちちゃんは猫白血病のキャリアです。発病するともって一週間の命です」

「では、他の病気に対してのワクチンだけでもお願いできませんか?」

「いえ、他のワクチンを打っても他のキャリアの猫と接触があれば猫白血病が発病するのであまり意味はないと思います」

「どうすれば発病を抑えられますか?」


 先生の話にくんちゃんの顔が真剣になっていきます。


「とにかく、まず病気にさせないこと。風邪等でもすぐに病院に連れて来て下さい。それと怪我をさせないように。最後に過度なストレスも発病の引き金になりますので気をつけて下さい」

「わかりました。それしかないならそれを徹底します」


 ねこっちは何が起っているのかわからずにくんちゃんを見つめていました。するとくんちゃんはねこっちを抱きしめて言いました。


「一緒に生きると決めた以上、絶対に簡単には死なせないからね」

「え……ねこっち死んじゃうの?」


 思わず聞き返してしまいました。でもくんちゃんは力強く言います。


「私が、絶対、死なせないし、毎日生きててよかったと思わせるから、ねこっちはただ自分の人生を一所懸命生きたらいいんだよ」


 その後、家に帰り着いたくんちゃんとねこっちはいつものようにごはんを一緒に食べて一緒にテレビを見て一緒に眠りました。

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