第2話 ねこっちとエレベーター

 最近ねこっちはとてもご機嫌です。なぜかというと友達ができたからです。友達の名前は「くんちゃん」いい匂いのごはんをくれた人間です。


 くんちゃんは、いつも決まった時間に車で帰ってきます。ねこっちはくんちゃんの車の音がきこえたら走ってお出迎えにいきます。


「おかえりなさい」


 そう声をかけると車から降りてきたくんちゃんは「ただいま」と言ってねこっちの頭をなでてくれます。そしてごはんをくれるのです。

 くんちゃんがお休みの日はねこっちと遊んでくれます。ねこっちには動物の友達はいませんが人間の友達ができました。友達がいることはとても幸せです。


 ねこっちは時々くんちゃんの家に遊びに行きます。くんちゃんの家はマンションです。


「うちに遊びに来る?」


 最初にくんちゃんにそう聞かれた時はドキドキがいっぱいでした。

 まずはエレベーター。くんちゃんについて建物の中に入るとエレベーターというドアの前に連れて行かれました。しばらく待つとドアが勝手に開きました。ねこっちはビックリしてオロオロしてしまいます。でもくんちゃんはドアの中に入ってねこっちにおいでおいでをします。恐る恐る中に入ると中はただの箱でした。またドアが勝手に閉まって今度はウィーンっと箱が揺れました。ねこっちは怖くてくんちゃんにピッタリひっついていました。揺れが止まるとまたドアが勝手に開きます。くんちゃんに続いてねこっちもドアから外に出ました。でも変なのです。さっきと景色が違うんです。そんなねこっちを見てくんちゃんが説明してくれます。


「さっきのは一階 ここは三階。そしてここから一、二、三番目がうちだよ」


 そう言って家のドアを開けてくれました。

 部屋の中はとてもあったかくて見たこともない物がたくさんありました。ねこっちがキョロキョロしているとくんちゃんはドアを少しだけ開けてくれました。


「閉めると閉じ込められたみたいでイヤでしょ? 少し開けておくから帰りたかったら声かけてね」


 そう言ってごはんをくれました。お水ももらいました。


 おなかいっぱいになったねこっちは部屋の中を探検することにしました。音と動く絵が映ってる箱やあったかいクッション。その中でもねこっちが気になったのは玄関の横に置いてある砂の入った箱でした。


 これはなんだろう……


 そう思いながら見ているとくんちゃんがやってきて教えてくれました。


「それはねこっち用のトイレだよ。もし、うちを気に入ってくれたら一緒に住んでほしいから買ってきた」


 そんなことを言われるとは思ってなかったねこっちはビックリです。ずっと外で暮らしてきたからとても悩みます。


「ねこっちが納得してからでいいよ」


 くんちゃんはそう言って笑ってくれました。

 その日は夜まで家の中で遊んで夜に外まで送ってもらいました。


 それからくんちゃんが休みの日はくんちゃんの家で遊ぶことになりました。ねこっちが外からくんちゃんを呼ぶとベランダから顔を出したくんちゃんが迎えにきてくれます。


 ある日曜日 いつものようにくんちゃんを呼ぼうと思ったけど雨がすごくて雨宿り場所からじゃ呼べません。ねこっちは思い切って自分で行くことにしました。行き方は知っています。


 まずエレベーターの前でドアが開くのを待ちます。


 ……


 なかなか開きません。

 でも待ちます。


 ……


 やっとドアが開いたと思ったら中から知らない人が出てきました。

 ねこっちは知らない人の足元をすり抜けて中に入ります。

 あとはウィーンって動いてドアが開いたら外に出ればいいだけです。


 …… 


 なかなかウィーンって動きません。

 ちょっと怖くなってエレベーターの中をウロウロしていると動き出しました。

 よかった……ねこっちはドアが開くのを待つためにドアの前に立ちます。

 そしていよいよドアが開きました。

 すると目の前にまた知らない人が立っていました。

 ねこっちは慌ててその人の足元をすり抜け外にでます。


 そして一、二、三番目のドアの前にたどり着きました。やっとくんちゃんの家です。ねこっちはウキウキしながら声をかけます。


「こんにちは。ねこっちがきましたよー」


 でも、返事がありません。おかしいなぁ、車はあるから家にいるはずなのにと思ったねこっちはまた声をかけます。


「こんにちはー。ねこっちですよー」


 すると遠くからくんちゃんの声が聞こえました。


「ねこっち? どこ?」


 どこってねこっちはくんちゃんの家の前にいるのに……。だから、ねこっちはもう一度言いました。


「こんにちはー。ねこっちですよー。家の前まできましたよー。開けて下さいー」


 すると、下の方からドアを開ける音と足音が聞こえました。あいかわらず目の前のドアは開きません。どうしたんだろう……もしかして、もうねこっちのことキライになっちゃったのかな。そう思ってションボリしてるとエレベーターの方からくんちゃんの声がしました。


「いた! ねこっち! なにやってるの? ここ五階だよ」


 どうやらねこっちが間違えてしまったようです。


「ごめんね」


 くんちゃんに間違えたことを謝るとくんちゃんも謝りました。


「いや、階段の方教えておくべきだったよ。まさか自分だけでエレベーター乗るなんて思わなかった。ごめんね」


 くんちゃんは下までねこっちを探しに行ったけどエレベーターホールとエレベーターの中にねこっちの足跡が残ってたのを見て全部の階を探してくれてたそうです。


 それからいつものようにくんちゃんの家でごはんを食べて遊んで帰りは階段で送ってもらいました。


 次からは階段を使うようにねって言われたから、ねこっちはひとりでエレベーターを使うのをやめました。

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