灰色のねこっち
ひさよし はじめ
第1話 ねこっちと出会い
ねこっちは少しの茶色と白とたくさんの灰色がグチャグチャ混ざった毛色の猫です。
毎日おなかがすいてごはんを探してウロウロ。
でもまだ体が小さいのでなかなか上手にごはんを見付けられません。
「おなかがすいた……」
ねこっちはゴミ捨て場に行ってみました。ゴミ捨て場にはたくさんのカラスがいました。
「おなかがすいているので少しごはんを分けて下さい」
ねこっちはカラスにお願いします。
でも、カラスは言いました。
「ここは黒い鳥のなわばりだ! おまえは黒くないからダメだ! おまえの色は汚い灰色じゃないか!」
そう言ってカァカァとねこっちを追い払おうと羽を広げます。ねこっちは怖くて逃げ出しました。なんとか逃げて他のゴミ捨て場にたどり着きました。そこにはたくさんの白猫がいました。同じ猫なので今度こそごはんを分けてもらえるとねこっちは嬉しくなりました。
「おなかがすいているので少しごはんをわけて下さい」
そうお願いすると白猫たちは皆ねこっちを見ます。そしてこう言ったのです。
「ここはキレイな白い猫のなわばりだよ。おまえは猫だけど白くないからダメ。おまえの色は汚い灰色なんだもの」
そしてねこっちを追い払おうとフーッと言って追いかけてきます。ねこっちは慌てて逃げ出しました。
トボトボと歩いているねこっちをガラス窓が映し出します。その姿を見てねこっちは思います。ねこっちの毛の色は白と茶色がグチャグチャと混ざった灰色です。黒のなわばりにも白のなわばりにも入れない灰色なのです。灰色のねこっちはどこでごはんを探せばいいんだろう。ねこっちは悲しくなりました。
ある日おなかがすいてションボリしていると一人の女の人が近寄ってきました。
「おなかがすいているんです。何か食べ物を下さい」
ねこっちは女の人の足元に座ってお願いしました。
「お昼ごはんの残りでいいかな?」
女の人はそう言ってねこっちに食べ物をくれました。
「ありがとうございます」
ねこっちは嬉しくてお礼を言いました。女の人は手を振って行ってしまいました。
やっとごはんを食べられるともらったごはんを見てみるとそこにあったのはお寿司についているガリでした。ねこっちはガリは食べられません。
でもおなかがすいておなかがすいて仕方がありません。おそるおそる匂いをかいでみます。
フンフンフン……
すっぱいにおいがしてやっぱり食べられません。
カラスがパタパタ飛びながらねこっちを笑います。
「汚い灰色のおまえはそんな物しか食べられないんだな」
ねこっちはションボリしてしまいました。
すると今度は一人の男の人が近寄ってきました。
「おなかがすいているんです。何か食べ物を下さい」
ねこっちはまたお願いしました。
「こんなものしかないけどよかったらどうぞ」
男の人はねこっちに何かをくれました。
「ありがとうございます」
ねこっちは嬉しくてお礼を言いました。男の人はスタスタと行ってしまいました。でもこれでやっとごはんが食べられます。
ねこっちは男の人がくれた物を見てビックリしました。なんとガムだったのです。ねこっちはガムは食べられません。
でもおなかがすいておなかがすいて仕方がありません。おそるおそる匂いをかいでみます。
フンフンフン……
スーッとしたにおいがしてくしゃみが出ます。やっぱり食べられません。
それを見ていた白猫が笑います。
「汚い灰色のおまえはそんなものしかもらえないのね」
ねこっちは泣きそうになりました。目の前のガリとガムを見つめながらションボリしているとねこっちの頭の上から誰かの声が聞こえました。
「これは食べられないなぁ」
ビックリして頭をあげると一人の人間が立っていました。
「ちょっと待ってね」
その人間はそういうとねこっちの頭をなでてどこかへ行ってしまいました。今のはなんだったんだろうと思いながらねこっちはボンヤリ座っていました。
するとさっきの人間が戻ってきました。手にはいい匂いのするごはんを持っています。それをねこっちの前に置くとこう言いました。
「こんなものしかなくてごめんね」
それは白いごはんに茶色いかつおぶし、灰色のいりこがグチャグチャと混ざったいい匂いのごはんでした。
それを見ていたカラスと白猫が言います。
「汚い灰色のクセにご馳走をもらうなんてズルイぞ」
ねこっちはビクビクしながら人間を見上げました。人間はしゃがんだままねこっちに言います。
「これはおまえの食べ物だから全部食べていいんだよ」
その言葉を聞いてねこっちはカラスと白猫をチラリと見て言いました。
「これは灰色の猫の食べ物だから黒いカラスと白い猫は食べちゃダメなんだって」
ねこっちが食べ終わるのを待ってその人間は立ち上がりました。
「ありがとうございました」
ねこっちがお礼を言うとその人間はこう言いました。
「私の名前は『くんちゃん』君は……『ねこっち』だよね」
ねこっちはビックリしました。ねこっちの言葉は人間にはわからないはずだからです。
「名前『ねこっち』じゃないの?」
そう聞かれて、ねこっちは慌てて答えました。
「はい。ねこっちです」
「よかった。じゃあまたね! ねこっち」
その日、ねこっちはおなかいっぱいごはんを食べてとても幸せでした。この日、ねこっちは初めて灰色でよかったと思いました。だって、灰色じゃなかったらおいしいごはんが食べられなかったんだもの。別にキレイな白じゃなくてもキレイな黒じゃなくてもキレイな模様じゃなくても汚い灰色だと言われても幸せはきっとやってくる。ねこっちの幸せはきっとまたやってくる。だってくんちゃんは「またね」と言ってくれたから。
それから毎日くんちゃんはねこっちにごはんを持ってきてくれました。
「くんちゃんいつもありがとう」
ねこっちがお礼を言うとくんちゃんは笑います。
「だって友達が困ってたら助けるのは普通でしょ?」
ねこっちとくんちゃんはいつの間にか友達になっていました。ねこっちはとても嬉しくて今まで以上にくんちゃんのことが大好きになりました。
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