第30話 告白1

「泉ちゃんのお母さん、毎日ああして学校へ来たりメロディーへ行ったりして探してるね。泉ちゃん、本当にどこに行っちゃったんだろう?……誘拐とか、されてないといいね」


 下校時、泉の母親から校門で声をかけられて、その話題のまま千絵と歩いていた。


「誘拐じゃないんじゃない?だって、誘拐ならおばさんがあんなふうに探さないでしょ?きっと犯人から連絡がくるだろうし」


「そうだよね。……ねぇ、この前の体育の時間のことだけどさ、あの時、泉ちゃん、あっちのグループに入りたかったのに典ちゃんにまで断られたじゃん?あれ、相当落ち込んだんじゃないかなって思うんだよね。だからもしかしたら自分で家出したんじゃないかな?学校に行きたくないってことかもしれないと思うんだけど……」


 学校を出て左へ曲がり、しばらく行くと橋を渡った。

 いつもなら通学路になっている、そのまま真っすぐ進んで広い道路を行くけれど、千絵が、


「ねえ、今日は堤防を行こうよ」


と言うので、橋を渡ると辺りを見回して、人目がないことを確認して左に折れ、堤防へ入って行った。


 私たちは、ごくたまに通学路ではない堤防を帰ることがあって、誰かに見られると先生に言いつけられるかもしれないので、周りに人がいないかよく確認してから堤防に入るのだった。


「ハルちゃん、2月の清龍寺神社の縁日は一緒に行ける?」


「うん、行けるよ。でもまだだいぶ先の話じゃん」


「6年生になって、やっと私たちだけで行っていいって言われてるからさぁ、早いけど約束しておこうと思ってね」


「そうだね、一緒に行こう。山の上の出店、またイチゴ飴出てるといいな。リンゴ飴だと大きすぎて持って帰ってこないと食べきれないし。あっ、あとじゃがバターもいつも出てるよね。バターたっぷりで美味しいから、絶対買う!」


「ハルちゃんってば、食べ物ばかりじゃん」


「ホントだ。ははははは」


「私はガラス細工。太陽に当てるとキラキラしてすっごく綺麗だから。毎年お年玉貯めて買ってるのがやっと5つになったから、もっと増やしたいんだ。ガラスの動物園を作りたいんだよね。今度は白鳥が欲しいんだけど、白鳥は高くてなかなか買えないんだよね」


「千絵ちゃん、可愛いもの好きだもんね。ガラス細工か……私も小さいの一つくらい買えたらいいな」


「ハルちゃん、ガラス細工とじゃがバター、どっちかしか買えないとしたら、どっちにする?」


「えーー?う~ん、って、それは悩まないよ~じゃがバター!」


「あははは、やっぱハルちゃん食いしん坊だ~」


「だって、じゃがバターは外せないよ~すっごい美味しいんだもん。家で作ってって頼んでも、あんなにバター入れてくれないし」


「バターって、太るんだってよ」


「えーー?バター太るの~?うっそ~やだぁ~~」


「じゃがバターやめる?」


「う~ん……やめないーーーその代わり、ご飯抜く!」


「ハルちゃんってば、面白いんだから」


そう言って、千絵はケラケラ笑っていたかと思うと、急に真顔になった。


「ねえ、ハルちゃん……あのね、じゃあ、私と泉ちゃんだったら、どっちを取る?」


「えっ?そんなの決まってるじゃん。千絵ちゃんだよ」


「そうだよね、私だって、誰よりハルちゃんが一番の友達だし、誰かと比べるなんてできないよ」


「千絵ちゃん、どうしたの?なんかあった?」


「だけど、ハルちゃんがもし私より泉ちゃんと仲良くすることがあるかもしれないとか、色々考えてたら、頭の中がなんかおかしなことになっちゃってさ……」


「そんなことあるわけないじゃん。私、泉ちゃんのこと好きじゃないし」


「去年も、泉ちゃんは私に意地悪なことしてきたけど、ハルちゃんにはしなかったじゃん?」


「千絵ちゃんは大人しいからやられちゃうんだよ。私は言い返したりするし、だからやり難かったのかも……それに私は智ちゃんとも仲がいいから、泉ちゃんにとって都合が悪かったんじゃない?」


「そうだよね、だからこの前の体育の時間に泉ちゃんが向こうのチームに入れなくて、こっちのチームのみんなからもあっちのチームに行っていいって言われて、去年、泉ちゃんが典ちゃんとケンカしたときみたいな感じになってきたでしょ?そしたら、また私からハルちゃんを取って、ハルちゃんと仲良くしようとするんじゃないかと思ったんだよね」


「ああ、でもそうかもしれないね。典ちゃんや理恵ちゃんのチームに入れなくて、容子ちゃんもあっちのチームにいるとなると、クラスの主導権はあっちになりそうだし、自分が仲間外れにされると思うかもしれないよね」


「そうなると、ハルちゃんと仲良くしようとするかもしれないよね。ハルちゃん、言うことちゃんと言うし、典ちゃんや容子ちゃんにも負けないと思うし」


「負けないって……そういうんじゃないと思うんだけど、おかしいと思うことがあれば言うかも」


「私、ハルちゃんを取られるのが怖かったんだよね」


「大丈夫だよ。取るとかっていうことないし、私は千絵ちゃんが親友だと思っているよ」


「そうなんだよね。だけど私、泉ちゃんがいなくなればいいって、いつも思ってたんだよね。そうすれば意地悪されたりイジメられたり嫌な思いをしないし、学校にも行きやすくなるし……今までは泉ちゃんがいると思うと、毎朝行きたくない気持ちでなんだかお腹が痛くなるような、頭が痛くなるようなことがよくあったんだよね。でも昨日も今日も、私、朝、すっきりした気持ちでいられるんだな……」


 千絵がそんなにも泉ちゃんのこと嫌っていたのは想像がついていたけれど、朝、そんなことになっていたことには気づかなかった。


「そんなに嫌だったんだね。ごめんね、気が付かなくて……」


 学校で泉に対して悪口とも取れる言葉を千絵が口にするたび、そんなこと言わないほうがいいよと私は千絵に言っていた。そのことが千絵によけいにプレッシャーを与えていたのかもしれないと思い、なんだか悪いことしたなと思い謝った。


「この前、ハルちゃんも泉ちゃんがいなければチームの雰囲気もよくなるって、言ってたよね?みんなも同じようなこと言ってたし、泉ちゃんがいなければ全て解決だって、思ったんだ」


 千絵は何が言いたいんだろう?言いたいことがよくわからない。けれど、胸の中がざわざわしはじめて、自分の胸が脈打つのがハッキリ感じ取れるほど、大きく鼓動を始めた。


「まあ、意地悪な事されたり、私たちを悪者にしようとしたり、嫌なことされることが多いよね」


「うん、だからね、だから私、泉ちゃんを誘ったの」


「えっ?誘ったって、いつ?メロディーに?泉ちゃんと行ったの?どういうこと?」

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