第5話 ずっと いっしょ
いつものように彼に逢いに行く。
彼は言った。
「何してほしい?」と。
だから、私はこう返した。
「いつもしてもらってるから、今日は貴方がしてほしいことをするよ」と。
彼が行きたいと言った場所に着いた。
「わぁ、凄い!」
夜の闇に、ピンク色の花弁が舞っている。見頃を迎えた花達は、その花びらを懸命に広げていた。
「……見たい、って言ってたから」
ポツリと君が呟く。私、そんな設定入れてないはず、だけど。偶然にも、彼は「夜桜を見に行きたい」と言った。
「綺麗だね」
そう言って街を見下ろす。辺りは私達二人きりで。街にぽつり、ぽつりと灯る明かりがまるで星みたいで。舞い散る桜に、私は見入っていた。
「ああ。綺麗だな……君が」
「え?」
聞き間違いだと思って、彼の方を振り向いたら、ぐいっと腕を引かれる。唇には、私の知らないあたたかで柔らかな感触が。キスだと分かるまで、数秒の沈黙。彼は、嘘は言わない。お世辞も言わない。ドキドキと、心臓がうるさい。彼に聞こえてしまうと思っても、鳴り止むどころかむしろだんだん煩くなっていく私の心臓。
「君が、好きだ」
ずっと欲しかった言葉。私も、と返すより先に彼が言う。
「ずっと、一緒にいたい」
それを聞いた途端、私の熱は急激に冷めていく。
「ずっと一緒に、なんていてくれないくせに!」
彼をどんと突き飛ばす。驚く彼を置いて、私は一人坂を駆けていった。
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