転校生
朝の早い時間、皆が部活で朝練をやっている時間。教室で一人、朝読を楽しむのが私の至福の時間である。
秋の少しひんやりした風に当たりながら、ゆっくりとページを捲り、文字を目で追う。
そして、時々頭を上げ、窓の外に見える野球部と、どこまでも青々とした美しい空を見る。
「ねぇ、聞いた?また出たって」
「塾帰りの女子中学生が、奪われたんだってね」
「可哀想よね」
そうクラスの女子二人が、廊下を歩きながら話している声が聞こえてきた。話題は勿論あの噂だ。
教室のドアがガラガラ…って、開けられ二人が入ってくる。そして、私の姿に気づいた。
「あっ…」
「やっほー!久しぶりじゃん遥!」
ハンドボール部の女子二人が、嬉しそうに満面の笑みを作って、私に朝の挨拶をしてくれた。それに私も笑顔で返す。
「おはよう」
「あっ、おはよう!もう体調大丈夫なの?」
「えっ、う、うん!もう大丈夫だよ」
「本当に?」
「まあ…まだ万全ではないけど大丈夫」
「遥はすぐ体調崩すから、気をつけてね」
「うん、ありがとう」
そして二人は、バタバタとトイレに着替えに行った。
私の名前は、早乙女 遥。女子高校生だ。そして私は…
「おい、聞いたか?」
「えっ?何を?」
「今日、うちのクラスに転校生が来るんだってよ!」
「えっ、マジ?こんな時期に?」
「すっげぇ、イケメンだったって、女バスが騒いでるの聞いたんだよ!」
「それがせネタじゃねぇの?」
「本当だよ!だって夏目先生にも確認したもん!」
「それじゃ、本当かもな〜」
夏目先生とは、私の在籍する学年の学年主任の先生だ。生徒や他の先生達からの信頼が厚く、将来、校長確定の優しい先生だ。
キーン、コン、カン、コーン
丁度チャイムがなり、さっきまで立っていた生徒も、急いで席に着席して朝の読書の準備をする。そして、ガラガラっとドアが開き、担任の石塚先生が入って来た。皆が一瞬先生を見て、また読書を始める。先生は、皆を一周見渡してから、口を開いた。
「えっと…もう人伝に聞いていると思いますが、今日うちのクラスに、新たに仲間が増えます。」
皆が顔を上げ、男子は静かに先生を見て、女子は友達同士で小声で話し出す。先生はそんな私達を見て、にこりと微笑むと
「じゃあ、百夜君、教室に入って自己紹介してくれないかな?」
するとドアが開き、黒髪の背の高いスラッとした青年が入ってきた。そして、
「こんにちは皆さん、今日からこのクラスに入らしてもらう、百夜 刹です。よろしくお願いします。」
女子はきゃあきゃあ騒ぎ、男子は小声で話を始める。私はと言うと、彼から目を離せずにいた。と言うのも、彼がずっとこっちを見ているからだ。まるで、死神に睨まれている気分だった。
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