開明獣との戦い(1)
「さて、ここに人の子が入るのも久しい……騎士団連中でさえだ、どう料理してやろうか?」
そう言うと、知識の翁はゆっくりと書庫を横切ってこちらへと近寄ってきた。
「そうですね……あなたの手に掛かれば我々を弄び殺すことなど造作ない事、手を抜くということでしょうか?」
「ダオレ! 挑発してどうするんだ!?」
だが知識の翁は呵呵と笑い返答した。
「その通りだ行倒れよ、そうでなければお前たちなど塩の柱となろう」
「大きく出ましたね」
「塩の柱?」
オリヴィエは疑問に思ったが今は誰も答えなかった。
「なに、手を抜くというと聞こえは悪いが、お前たちの力を見るだけのこと。勿論お前たちは全力でかかってくるがいい。こちらはそれに応じて相手をするまで」
「解りました、では全力で行きましょう、知識の翁……いや本名で呼ばせてもらいましょう開明獣!」
「やれやれ、その名で呼んできたか。仕方のない行き倒れだお前とて本名で呼ばれたくはなかろうに……」
「………………」
「ダオレ……?」
アルチュールは名を呼んだがダオレは押し黙ったままであった。
次の瞬間ダオレは二人に向かって叫んだ。
「開明獣の攻撃が来る! 全力で下がって!!」
その声が響くや否や、何の前駆も無く開明獣は青白いブレスを吐いた。
ダオレはそれらを全て抜刀した鉈で受け止めると、鉈は忽ち白く霜を吹き絶対零度の息を食い止めた。
一方の二人はごろごろと書庫を転がって、何とか氷のブレスを避けたがその床は白く霜が降りたように凍っていた。
「なんだこいつは!?」
アルチュールは叫ぶが、開明獣はむしろ楽しそうにこう言った。
「ここは書庫だ、本を守るために防衛的な戦い方しかできぬ。手を抜くとはこういうことだ」
「とはいえ氷の息は本を傷めると思いますがね……」
ダオレは憎々しげに言ったが、相手は一向に意に介さない様子だ。
「ではもうちと近づいて戦うかね? 諸君」
開明獣の目線がオリヴィエを捉えると、ダオレが走った。
それだけこの小さな獅子の一撃は重く強烈だった。
ダオレがオリヴィエを押しのけて突き飛ばすと、部屋の柱の一部はほんの軽い一撃と思われたのにも関わらず、脆く崩れた。
「なんだと!?」
オリヴィエは床に転がってはいたが、その威力を見て脅威した。
「……手を抜いてこれですか、開明獣」
「行倒れよだから全力で来いと言ったのだ、むしろ残りの二人は足手まといかの?」
「な、なんだと!? この私が足手まとい? 化け物風情が言いおったな!」
「アルチュール、一理あるでしょう。おれたちでは到底ダオレのサポートが無ければもう死んでいるような相手が、手を抜いていると言っているんだ」
オリヴィエは全力でアルチュールの肩を掴むと制止した。
「しかし……!」
だがダオレは一対一で開明獣と戦う覚悟を決めたようだ。
「アルチュール、オリヴィエ、下がって……聞いてください開明獣、この二人はぼくと違って戦いに不慣れです。だから二人に替わってぼくが貴方と戦う、異存はないですね?」
「おまえと一対一でか? 行倒れよ。構わぬが手を抜くことに変わりはないぞ」
「行きます」
それまでとうって変わって、鉈を見たこともない構えでダオレは持つと開明獣と向き合った。
仕方なくアルチュールとオリヴィエは、安全と思えるダオレのかなり後方に陣取った。
開明獣は跳躍すると、ダオレめがけて先ほどの爪とも拳ともつかぬ一撃を繰り出した。
目にも止まらぬ速さだ。
だがダオレは浮いた本の一冊を足場にそれを躱すと、上から開明獣めがけて鉈を繰り出した。
開明獣はにやりと笑った。
「そうでなくては」
一瞬のうちに獣は姿を消すと別の本の上に姿を現した。
今度はダオレの方が下で、開明獣が上に陣取っている。
「あの浮いている本は乗れるのか!?」
アルチュールは今さら驚いて叫んだ。
ダオレはそれを見越した上で、開明獣が来るだろうルートを判断し一瞬の隙を付いて別の本に乗った。
開明獣は一旦地上に降りたがそこで足場を捜し、やはり本の上に乗る。
「不安定な足場の上でも動じぬか……流石は……」
「お喋りはそこまでです、ぼくは貴方を倒さねばなりません。少なくとも『まいった』と言わせるまではね」
再び無言のうちに開明獣は冷気を吐いた。
ダオレはそれをジャンプで避けると、他の足場に移り態勢を立て直す。
「一体何が起きているのだ?」
見上げるアルチュールとオリヴィエに仔細は見えず、遠くて声も聞こえなくなっていた。
「わからない……! だが今はダオレ殿に任せるしかないのだ、何もできぬ自分が歯がゆいがな!」
天井の高い図書室では、はるか上空でダオレと開明獣が想像もつかぬような身体能力で以て、死闘を繰り広げていた。
宙に浮いた本を飛び交い爪と鉈は交差し、冷たい炎を避ける戦いが。
「……そろそろここの部屋の天井ですよ! 決着を付けましょう開明獣!」
「まだその必要はない、行き倒れ」
開明獣がい言うや否や、無限の星々を象った部屋の天井は機械的に開いていった。
「……何!? まさか!」
「
無情にも開明獣の声は響いていった。
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