仮面の騎士との戦い(1)
「
「ゴーシェ! 騎士の面を知っているのか!?」
「これは仮面劇の面の一種だ……しかも寿ぎの舞に使う、こいつは何者だ?」
「説明は後だ! 生き残れるかも怪しいぞ、ゴーシェ! ダオレ! 全力で行くぞ!」
アルチュールが言い終わるや否や、射程に入った仮面の騎士は新月刀のようなものを振るう。
アルチュールは紙一重でかわすが、その正確さ、一撃の重さは計り知れない。
これにはゴーシェもダオレも冷や汗をかいた。
「いいだろう、この仮面野郎は三対一で勝てると思ってやがる。いい度胸じゃねえか!」
ゴーシェは息巻くが、一向に相手に怯む気配などない。
だが翁面の騎士が一歩踏み出すと、足元に生えていた微細な草が急速に枯れ始めた。
学問の徒であるゴーシェにはこれは耐え難い事実だった。
「仮面の騎士は死をもたらす……そう聞いているな」
もう一度騎士が新月刀を振るうと今度はゴーシェの髪がはらりと舞った。
「何だ!? 斬撃が見えない!」
「離れてゴーシェ!」
ダオレの声に現実に引き戻されると、ゴーシェは距離を取り何を逃れたが、そこには振り下ろされた新月刀が砂を食んでいた。
「取り囲んでもだめだ……どうやって倒す?」
アルチュールは自問自答した。
ゴーシェは騎士の後ろを取ったが、煤けて赤茶けた髪以外見る物もなく、全く隙がない。
遂にグラムを抜いた。
刀身はみるみる漆黒に染まってゆく。
気が付いたがこの騎士、二刀を操っているのだ。
どおりで隙も無ければ剣戟も見えない。
こいつ背は高い方だと思うのだが、アルチュールと違って筋肉質というわけでもなさそうだ。
この事にはアルチュールも気が付いていた。
「化け物め……」
そう言うしかないだろう、あの一撃が非常に重い新月刀のようなものを片手に一本づつ持って目にも止まらぬ速さで、操るなどとは。
次の一撃が繰り出されるが、またその身のこなしは全く見えない。
「わ、わわわわわわ……」
「ダオレ!」
その一撃が紙一重で避けていたダオレのターバンを切り落とし、黄金色の髪が額を覆った。
「畜生、さっきからあいつ頭や首、致命傷ばかり狙っている!」
「アルチュール! 集中しろ!」
バックステップで避けたが、予想外に長い腕と新月刀はアルチュールの喉元ぎりぎりまで迫っていた。
「まずい!」
ダオレは叫ぶが、そこは近衛隊で海千山千のアルチュール。
騎士の足元に潜り込むと足首を掴み両足の間をすり抜けた、凄まじい身体能力である。
だが手袋を身に着けていたとはいえ手のひらに何か負ったようだ。
「気にするな! 軽傷だ、今全員こいつの後ろを取った、畳み掛けるぞ!」
グラムの一撃が、いとも簡単に騎士の背中を切り裂いた。
「やったか、ゴーシェ!?」
そう、確かに手ごたえはあった筈なのに、騎士の鎧は割かれた肉と一体化し黒い粘液を上げやがて塞がっていった。
「ば、莫迦な……こいつ何者だ!?」
だが騎士が微動だにしないので、ゴーシェはグラムでやたら滅多に切り付けると、その度に黒い粘液が上がりびちゃびちゃと砂地を穢していった。
だがいく度切りつけようと凄まじい速度で傷は塞がり、遂に騎士は顔だけ振り向き翁の面をゴーシェに見せた。
「
「騎士が喋った!?」
アルチュールはあまりのことに驚いていた、この仮面の騎士は人語を解さないというのか?
「おまへは神をも
口というよりもその声は喉の途中から漏れ出していた。
「ここで朽ちろ、デュランダー・カスパル!」
そうしてまたあの斬撃がゴーシェを狙って振り下ろされた。
二刀で繰り出される不可視の重い一撃。
だがグラムはそれを受け流した。
火花が白刃を滑る。
「ゴーシェさん!」
「うおおおおおおおおお!」
騎士の凄まじい胆力にグラムは一片たりとも負けてはいなかった。
……しかし、
体格差かゴーシェは騎士に弾き飛ばされると湖に着水した。
派手に水柱が上がる。
「しまったこれで二対一か!」
「ゴーシェさんが戻ってきてくれるまでの辛抱です、アルチュールさん!」
「ダオレ、暫らく二人でやれるか!? いや、やってもらわねば困る」
「はい!」
騎士はゆっくりと、先ほどまで微塵も興味を見せなかった、アルチュールとダオレの方を向いた。
そして二刀をまた掲げるとあの見えない構えを取り、こちらとの間合いを詰めてきた。
「アルチュール、無理をしてますね?」
「どういう事だダオレ?」
「先ほど騎士に触れたとき手が爛れた、違いますか?」
「………………」
騎士は明らかにアルチュールを狙い間を詰めている。
そして新月刀の間合いに入った。
それが振り下ろされる。
「アルチュール!」
そのとき黒い刀身が一閃して狙いが逸れた。
グラムである。
「ゴーシェ! 間に合いましたか」
「いつまでも水泳してる趣味はねーよ」
まだ水の雫が滴っているゴーシェは鎧を着ていなかったせいか、湖から上がるのも早かったらしい。
「おい、アルチュール! どうしたボンヤリしてるんじゃねえよ!」
「そちらこそ間に合ったかね、行くぞ!」
再び、三対一の戦いが始まろうとしていた。
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