第6話 『魔王デイルワッツ? 勇者デール? どっちなのでしょうか?』

「いや~まさか、あの鬼のような姿なのに羽を持っておったとは驚いたのぉ……魔王城に入ってから地面に潰され、そこからされるがままにされ、そして今は空中戦でわしらが手出し出来ない場所、わし等なんの為にきたのやら……」


「……ダリル様、先ほど勇者なのかそれとも魔王かと聞いてましたよね」


「ん? ああ、そうじゃな。あの姿だとデイルワッツと言っておったが」


「私は魔王デイルワッツの事は何も知りませんし、分かりません。デール殿がデイルワッツの体に戻った時、その……正直……私は殺されると思いました」


「……わしもそう思った」


「ですが、私たちを無傷で解放した後にあの変な笑い声にギザギザ歯の笑顔を見ると……デール殿にしか見えませんでした……そして自然とデール殿と……」


「私もです……未だにデール様がデイルワッツだったなんて信じられないです」


「……そうじゃな」


「――今の姿はデイルワッツと言いました、では心は!? 魔王デイルワッツ? 勇者デール? どっちなのでしょうか? 私にはもう……何が正しいのか……わかりません……」


「……それはわしもわからん、じゃが天使に騙されていたとはいえ人間界を襲ったのは事実、天使の方もあれはもはやわしらが知っている善良の者ではない……どちらかが生き残った方とは戦う羽目になるかもしれん」


「……デイルワッツが、デール殿が勝っても戦えますか……?」


「……それは……うーん……何とも言えん」


「……私はデール様とは戦いたくないです」


「本当に今のあいつは何者じゃろうな……しかし飛んで行ってよかったわい、こんな話を聞かれていたらあいつの動きが鈍ったかもしれん」


 すまん、爺さん……今の会話は丸聞こえなんだ。この体だと身体能力が人間よりはるかに高いからな。

 ふむ、我輩は何者か、か。うーむ……あの時の質問に対しての答えは難しい思ってしまった……この体だからデイルワッツとは言ったが、何故かしっくり来ていなかったんだよな。体と心が別々になっている時間があったせいか? 自分でもよくわからんぞ……あーもー! 考えるのが面倒くさくなってきた! やめだやめ! 今考えるべきは――。


「来たな! デイルワッツ!」


 目の前のアナネットの事だ!


 しかし、まさかアナネットと空中戦をする事になるとはな。だがまぁこれはこれで楽しみではある、アナネットとは一度も戦った事はなかったし、そして何より天使と戦えるのだからな。


「さぁアナネット、勝負だ!」


「ギリッ、何度も言わすな! 私はエリンだ! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやるぞ! デイルワッツ!!」


 前言撤回……目の前にいるのはやはり天使ではないな、ただのアナネットという魔族だ。

 いや、魔族ですらない、本当にただの化け物だとなれば遠慮はいらん、先手必勝で決めてくれるわ!


「そうかい、しかし我輩にとって貴様はアナネットで馬鹿精霊がエリンなのでな! 食らえ! ファイアボール!」


「ふん! またファイアボールか。不意打ちさえされなければそんな物なんぞ――」


 あの構えはファイアボールを弾くつもりだな。


「――ふん!」


 お前とは長い付き合いだ、やはり予想通りの行動をする。


「こうやって簡単に弾け……なっ!? こいつ火球の影に隠れて!!」


「チョッハ! 火が嫌ならこいつはどうだ? アイスショット!」


「ぐおおお! この、調子に乗るなああああああああああ! この! この!」


「おっと、ほっ、よっと……」


 おいおい、さすがの我輩でもそんなに大振りでアブソーヘイズを振り回しているだけじゃ簡単に避けれるぞ。

 頭に血が上りすぎているんじゃないか? これじゃ本当にアナネットは天使騎士だったのか疑問だ、それとも話を盛ったか出ていた天使達が実は弱かったとか……。


「……おいおい、アナネット、それじゃ興ざめで――」


「――クスッ」


 っ!? 今アナネットが笑ったような……。


「勇者殿! 上じゃ!!」


 え? 上? っしまった! もう一人のアナネットが!


「はぁっ!」


「クッ!」


「チッ、外したか」


 今のは危なかっ――。


「右です! デール殿!」


 え? 右? ってまたアナネットがいるし!


「デール様! 左斜め47度です!」


 左斜め……何だって!? 何だその中途半端な角度は!


「「死ねぇ!」」


「ちょっ!! いで!」


 今のはさすがに避けきれなかった、くっ痛いな……結構深く腕を斬られ――うお! 血が青い! なんじゃこりゃ!? って当たり前ではないか、この体は人間の肉体ではないからな。

 チッいつもならエリンの治癒能力向上ですぐ治るのに……我輩自身は治癒魔法は使えん、やはりこういうところで不利が出て来る。

 アナネットの固有魔法の分身、本体を混ぜて4人か……先ほどの動きは我輩に隙を作らせる為にわざとしておったな、こしゃくなマネを。


「この! ファイアーボール!! アイスショット!! サンダーブレイク!! エアーストーム!!」


「「「「クキャキャキャ! そんなもの当たるか! そらそらそら!!」」」」


 油断しておった時の分身は簡単に吹き飛ばせたがこうウロチョロされると当たらん!!

 というか――。


「下じゃ! いや上、いや右、いや左に――」


「上です! 左! ああもう下です! だから右ですよ右!」


「右斜め下38度です! 上12度です! 左斜め上46度です! ああ、下23度です!」


 外野がうるさすぎる!!

 全員言う事がバラバラだし、フェリシアは一体何が言いたいのかわからんし! そもそも度で言われてもわからんぞ!!


「ええい! 貴様等うるさい! 少しは黙れ! 特にフェリシア! お前が一番わからんわ!」


「え゛っ!? 私です!? そんな……少しでもデール様のお役に立ちたかっただけなのに……うう……」


 ちょっ、泣くほどの事か!?


「ああ、泣くなフェリシア……よしよし。なんじゃい勇者殿の奴め、せっかく応援してやっておるのに怒鳴るなんて、器が小さいわい。やはり中身は魔王じゃなくて勇者殿じゃな、間違いなく」


「そうですね……あんな言い方をするのは間違いなくデール殿です。フェリシア、気にしないのあなたは十分手助けをしているわ、理解出来ていないデール殿が悪いの」


 え? 今のは我輩が悪いのか? いやいや! それは納得いかんぞ!?


「おい、貴様等! この勝負の決着がついたらこの件について話し合うからな!!」


「話すも何もお前が悪いんじゃろが!」


「なっ!? まだ言うか!! くのおおおおお」


 この戦いはすぐ終わらす! 速攻終わらす!

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